黎明編
「臨時ニュースをお伝えします。本日未明の浅谷区での」
プッ
「すぎる!!事実、73.2%のユーザーが!」
ブッ
「Long time no see! How hav」
プッ
「ブラジル大使館からの情」
プッ
「職実績ナンバー1」
プッ
「ゼリータイプも新登」
プッ
「ではインテリチーム、回」
プッ
ヴゥン
「up to me to decide wh」
プッ
「が思うにこの世はゲームだ。充」
プッ
「ふぁ~あ。地上波も配信も、流し見はやっぱ時間がもったいないなぁ」
最近テレビがつまらなくなった、と言われるようになって50年以上が経った。
結局まだまだテレビは8畳の小さいワンルームでも、中心で胡坐をかいていた。
世の中の構造はそう簡単には変わらない。
人類の半数以上は寝起きが弱いということも永久不変だ。
ドンドン ドンドン
「ミサキさーん!ミサキさん!起きてますー?」
「はいー!待ってくださいね、今開けまーす!」
良く通る高らかなこの声は、301号室の東谷さん。
おせっかい隣人も不変だ。
どこかの通販雑誌で購入したような、ピンク色のチュニック、フリル多め
経年劣化が進んだジーンズがいつもの服装だ。
「あなたもう10時よ?大学間に合うの?」
「うーん、なんとか…たぶん」
「いいわねぇ~。高校生終わったらこんなにスローライフになるんだから」
「いや!東谷さん僕の高校時代知りませんよね…」
「そんな屁理屈いいのよ。ところでもうすぐ冬至だから柚子あげる!
早く仕度しなさいよ~!」
「あっ、ありがとうございます。それじゃ」
隣人とはいえ、他人と話すのは大変だな、と毎度思う。
人とのつながりは心身の健康にいい影響を与えると、
頭では分かっていても面倒な物は面倒だ。
ただ、一人暮らしの男子大学生にとって、東谷さんのような存在はありがたい。
【2068年】教育機関はオンライン化も下火となり、
完全オンラインか完全オフラインの二極化時代に差し掛
かっていた。オンライン学習はミーティングソフトから
完全メタバース学校まで発展し、数々の新規参入が認められ
たが、少子化による予算難で廃校が後を絶たず結局は失敗に終わ
ったという。オンオフハイブリッド化も進められた時期があったが、
やはり少子化対策に予算を割いていくため、ハイブリッドが成功した
のはごく一部のSランク大学のみであった。そして高校卒業までは政府が
対面授業を義務付けしている。そんな先人たちの努力の結晶・夢の跡も俺が
生まれる前の話だ。とまあスターウォーズ風に語ってみたが、全て入れ知恵だ。
「そろそろか」
そそくさといつものパーカーいつものジョガーパンツいつものスニーカーに着替え、
男は大学へ出発した。
ガチャ
ドアの開きがいつもより重い。
外は晴天に見えたが、風が強く吹いているようだ。
「じゃあ行ってくるよ、アグ」
「いってらっしゃいませ、ryo様」