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鍋と『暗闇』と『失神』と

翌日、夕食を食べるために俺達はほのかの病室に向かっていた。

「しかし何鍋かくらい教えてもいいと思うんだが…」

「サプライズとかそんなことをしたいお年頃なんだろうよ」

俺の独り言に志村さんは律義にも答えてくれる。いつも思うんだが優しいよな、この人は。

「誉めても何も出ないぞ」

…心まで読むのは辞めてもらいたい。



病室に辿り着いた俺達が見たのは常夜灯だけをつけてカーテンを閉めきった状態の部屋だった。

「やっと来たわね」

「今日は、いや『今晩は』かな」

その中で仁王立ちをしたほのかと椅子に座って医学書を読んでいた柿谷先生がこちらを向いて挨拶(?)をしてきた。適当に返そうとして違和感に気づく。

「あれ?蜜柑はまだ連れてきてないのか?」

ほのかなら俺が連れてくる前に蜜柑を確保(?)していると思って病室に立ち寄っていなかったのだが…。

「蜜柑ちゃんならそこのベッドで横になっていますよ」

見てみれば柿谷先生のいう通り、ほのかのベッドにパジャマのボタン全開で頬を紅潮させ荒い息をしている蜜柑と目があった。

「み、見ないでください…」

涙目で懇願してくる蜜柑から素早く目を反らすと同時に殺気を感じ、頭を下げる。直後に風切り音と舌打ちが聞こえた。振り返れば案の定、殺意を剥き出しにしたほのかが固く拳を握っていた。

「コロス…!蜜柑の柔肌を見たからには生かしておけない!」

「待て!その前に一つ言わせろ!」

「辞世の句だったら聞いてあげる」

「なんであんな風になってんだよ!?」

「あれは…そう、つまみ食いよ」

「つまみ食い!?」

「小腹がすいたから、我慢できなくて…」

予想以上の変態だったことに引きながら柿谷先生に目配せする。しかし先生はにっこり微笑むと読書に戻ってしまう。

「まぁ落ち着け、ほのか」

やっと志村さんが止めにはいってきてくれた。ほのかは「でも…」と言いながらシャドーボクシングをしながら言う。

「飯の前にコイツの寝顔なんて見たら食欲がなくなるだろ」

「…それもそうですね」

ヒデェ!?…まぁ、理不尽な暴力がないだけマシだな。

「それはそうと結局何鍋なんだ?」

その言葉にほのかは待ってましたと言わんばかりの表情をすると「それは…」と少しためて言った。

「闇鍋よ!」

「…ヤミナベ?」

思わず聞き返す。

「そう、闇鍋」

「えっと…それってタワシとか蛙とかよく分からない物が入ってる鍋を暗闇で食べるってことですよね?」

服装を正して何とか起き上がった蜜柑が不安そうに言う。

「アハハ、今回はそんなレベルの高い物は入れてないよ」

「ダシとかは?」

志村さんが訊くと「無難に昆布だよ」とほのかが答える。

どうやら普通(?)の鍋を暗闇で食べるだけのようだ。そう考えると結構面白そうだ。



「では『名無し』から時計回りに取っていってね。食べきったら次の人が取る、OK?」

『はーい』

さて、とうとう始まった闇鍋だが匂いだけでは全く分からない。まぁ変な物が入ってないはずだから適当に取るか。おたまでダシと一緒に具を掬い箸でつついてみる。簡単に突き刺さるが、妙に弾力がある。とりあえず崩れないように注意して口まで持っていき、舌にのせる。

「何を取りましたか?」

右から先生の声が聞こえる。俺は顔が見えたらなんとも微妙な表情をしながら答える。

「…野菜ゼリーです」

『……』

暗くて見えなくても分かる。三人が声もなく笑い、一人が呆気に取られた表情をしていることが。

「食べ終わった」

すぐに宣言して次に回す。

「…あ、私ですね」

混乱状態から少し回復した蜜柑が俺の渡したおたまで具を取るが動きが硬い。

「……」

箸でつついているようだが凄く戸惑っているのが分かる。そして覚悟を決めたのか「…いきます!」と宣言して咀嚼する。

「……」

…反応に困っているのか言葉が全くない。

「…蜜柑?」

声を掛けるも反応がない。…いや、反応がないんじゃない。カタカタと微振動をしている。そして全員が異変に気づいたがどうやら遅かったらしく、蜜柑は箸を落とし、動かなくなった。

「蜜柑ー!?」

「だ、大丈夫か!?」

慌てて駆け寄り肩を揺する。その間に誰かが電気をつけた。俺達が見たのは見事に失神した蜜柑と取り皿の中にある…チョココロネ。

「って何てもん入れてやがる!?」

「食べられるもの」

「鍋に入れて不自然なものだよ!」

鍋も見てみれば菓子類が中を埋め尽くしている。

「だってお菓子って美味しいじゃん」

「『美味いもの+美味いもの=さらに美味いもの』じゃねぇ!」

「そんなことはいいから、蜜柑を助けろ」

おっと、そうだった。余りのインパクトに忘れるところだった。とりあえずほのかに後片付けを命じて蜜柑を内科医に連れて行った。


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