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勇者、旅立てず

作者: jima

1日目


女子アナ「王国ニュースの時間です。昨日正午近く、王宮に『勇者』を名乗る男が『王様と姫に会わせろ。俺は南の谷のドラゴンと戦う勇者だ』などと言いながら乱入しました。幸い第2の門で警備隊に拘束されましたが、その後も『王国の危機だ』と叫び、旅にかかる費用の請求をした模様です」


MC「玉沢さん、この人はどういう人なんですかね」


玉沢「僕は今の行政が悪いと思うな。ドラゴンをどうというより、DQ検査をもっと広範囲に実施するべきだと思います」


MC「なるほど。街の人にも聞いてみました」



通行人女性「ドラゴンがねえ。まあ怖い話だとは思うけどねえ。私らからするとまず物価のほうをどうかしてほしいもんだけどねえ」


通行人男性「春だからね。変な人も出てくるよ。気の毒に」



女子アナ「…社会みんなで考えたい問題ですね。では次のニュースです」





2日目


MC「えー、昨日の勇者さんのニュース、数茂さん、覚えてらっしゃいますか?」


数茂「え、何?ハワイの勇者カメハメハじゃなくて?この国の勇者?景気がいいよねえ」


MC「はい、聞いた私が馬鹿でした。一昨日王宮に乱入して拘束された自称勇者の続報です。ただ今勇者の仲間を名乗る団体が王宮に現れて、解放を訴えているということです。その模様をごらんください」


レポーター「はい、王宮前です。愉快なコスプレをした一団、5人が王宮前でメガホンを片手にシュプレヒコールをあげております」


賢者「勇者を釈放しろー!」

数人「釈放しろー!」

賢者「ドラゴンが攻めてくるぞー!」

数人「くるぞー!」

賢者「マスクは不要だー!」

数人「いらないぞー!」


レポーター「このように面白い格好をした人々が、昨日拘束された危険人物と見なされる青年A(18歳)の解放を求めて門の前で騒いでおります。通勤中の人々は迷惑そうにしておりますが、当人達はどこ吹く風という雰囲気ですね。王宮正門からでした」



MC「一人は何かすごい薄着でしたね。寒くないんですかね」


女子アナ「鉄製のビキニでしたね。ちょっと鼻声でしたので風邪を引かないようにしてほしいですね」


数茂「真っ黒な魔法使いみたいな衣装着てた人もいるけど」


女子アナ「あれはまさに魔法使いを名乗るひとだそうです」


数茂「ああ、そうなの。どうでもいいけど、いいじゃない。早く釈放して返してあげれば」


女子アナ「えー、自称勇者の青年Aが主張するドラゴンについてなんですが、南の谷についてはだいぶ前から調査隊が向かっておりまして、何らかの巨大生物がいることはわかっています」


MC「巨大生物ですから、ドラゴンかもしれませんね。どう対処したらいいんですかね」


玉沢「まず検査ですかね。国民全員に。大変なことになる前に」





3日目


女子アナ「南の谷の巨大生物について続報です。生物はドラゴンであることが確認されました。非常に危険ですので、谷に近付かないよう王宮警備隊から通告が出されました」


MC「あの勇者さん、よく知ってましたね」


女子アナ「それなんですが、まずドラゴンの発見を本人に伝えたところ、いきなり『ざまぁ』などと警備隊長に暴言を繰り返したため、いったん独房に移されたとのことです。そろそろ釈放の動きもあっただけに残念ですね」


玉沢「馬鹿なんじゃないの。この人も政府も。もっと広範囲に検査して、こういう人が出ないようにするべきなんですよ。ずっと僕言ってるでしょ。勇者が3万人を越えて独房使用率が70%とかなってからじゃ、遅いんですよ」


MC「中には大した話じゃないんだからとか、季節性のインフルエンザと同じなんだからとかで、早めに釈放してあげれば?という人もいるんですが」


玉沢「警備隊の皆さんや保健所の方の勤務態勢逼迫を考えると、実数の把握はこれ以上難しいかもしれないね」





4日目


女子アナ「昨日、自称勇者の青年がようやく釈放されました。結局本人が要求していた旅立ちの費用の国庫負担や勇者の剣貸与などの請求が叶えられなかったため不満のようでしたが、支援者とみられるコスプレ集団が迎えにくると、いい笑顔で門番に『ご迷惑おかけしました』とあいさつして去って行ったようです」


MC「けっこう礼儀正しい、いい人かもしれませんね」


女子アナ「あ、臨時ニュースです。南の谷からドラゴンが十数匹飛び立ち、王都目指して飛行中とのことです。王国軍から王都に到着するとして予定時間は明日の午後になると見通しが出ています」


MC「危ないですねえ。どうしたらいいでしょう」


玉沢「まず経済を回すのか、ドラゴンを抑え込むのか。行政がしっかりバランスとってほしいね」


数茂「マスクはもういいなんて言ってる人いますけど、お年寄りのこと考えてほしいね」





5日目


テロップ「あきれた自称勇者!『俺はゲンダイニホンから転生してきた』などと妄想」


MC「えー、一昨日朝、釈放された勇者さんなんですが、ドラゴン襲来のニュースを聞いて団体のメンバーとともに昨日再び王宮に押しかけたそうです。なかなか人騒がせですね」


女子アナ「はい、自称勇者の青年18歳、無職、都内のアパートで一人暮らし、なんですが、昨日王宮正門前で『ドラゴンを退治できるのは勇者の俺だけだ。剣をよこせ。俺はゲンダイニホンからやってきたから科学的知識もあるのだ。ドラゴンは風邪じゃないけど、マスクは不要だ』などと意味不明な主張を繰り返し、門番と小競り合いし暴れたため、支援するコスプレ団体の一味とともに再び拘束されました」


MC「どういう人たちなんですかね」


女子アナ「はい、一人は自称賢者で同じく18歳の男性、無職。一人は自称戦士で17歳の女性、無職…一昨日薄着で風邪を心配されたひとですね。それから自称魔法使いの山田さとる21歳、無職…この方は成人してますので名前をだしてます。最後にこの人は…えー、自称盗賊ということは窃盗を職業にしているんですかね?えー、職業泥棒の男性17歳。以上の4人でリーダー格の自称魔法使い、山田さとるは『一味と言うな。パーティと呼べ』とか『俺はまだ21歳だから本当の魔法使いにはなってないけどな』などとさらに意味不明なことを言っています」


MC「みんな無職なんですね」


女子アナ「いえ、窃盗業の方が一名おられます」


数茂「窃盗業って(笑)」


玉沢「だから言ったでしょ。この国の若い人たちは夢が持てないんです。だからこんな奇行に走るんですよ。行政はもっと検査体勢を充実させてですね」


女子アナ「あ、臨時ニュースです。速報が入りました。昨日以前に南の谷を出発したドラゴンの群れですが、王都の南海上100キロ付近、王国のEEZ上に落下しました。王国政府執行官がコメントを発表します。画面をごらんください」


執行官「えー、えーー。断じてこれを看過できるものではありません。えー南の谷には外交ルートを通じて厳重な抗議をいたしました」


MC「どうして落下したんですかね」


女子アナ「政府発表によりますと、ドラゴンの群れについては王国軍が再三制止したにも関わらず、王都への接近をやめなかったため、やむを得ず迎撃したとの声明が入ってきました」


MC「まあ、あんまり近付いてもらっても困るし、仕方ないですかね」


数茂「ちょっと気の毒な気もするね」






6日目


MC「連日ちょっとだけお知らせしています自称勇者の迷惑団体『パーテー』なんですが、釈放されました。ドラゴンが撃墜されたというニュースを聞いて以来、すっかり元気をなくしていたそうですが、心配ですね。最近数少ない愉快な話題だっただけにね」


女子アナ「昨日夕方、自称勇者の男性18歳をリーダーとする団体『パーテー』、数日前に王宮門番に対する公務執行妨害、謎の主張を届け出なしで街頭演説したり王宮門に落書きしたりの軽犯罪法違反で拘束を受けていましたが、総じて凶悪性なし能力なしと判断され釈放された模様です。またこの団体については医師から若干判断力にも根本的な問題があることが指摘され、精神鑑定を勧告されていましたが、警備責任者からは『取るに足らない団体』との判定を受けたようです」


MC「何か逆に気の毒ですね」


女子アナ「釈放時も覇気無く『せっかく転生してきたのに』とか『魔王はいないのか』とか『マスクは同調圧力の象徴だ』などと呟き、周囲の変わったコスプレの方達から慰められて出て行ったそうです」


玉沢「早めに検査してあげたらいいのにね」


数茂「いや、もう二度と王宮に来ないよう、きつくお説教した方がいいと思いますよ。いくら愉快でも」


女子アナ「…ソウデスネ。社会みんなで考えたい問題ですね。では次のニュースです」




 本当はわからず屋の周囲の反対でなかなか旅立てない勇者の葛藤を…とか思ったのに、どちらかというと勇者が非常識な感じになってしまいました。筆力の不足です。

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