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部活2

グラウンド隅の誰もいないベンチに座り、水筒のお茶を流し込む。

いつもと変わらないはずのほうじ茶が少し苦い。


一年生がボールを拾い、ボールかごに入れる。全部拾い終わったら上級生が休憩しているところに合流する。前にいる同級生に背後からのしかかったり、のしかかられた方もしっかり後ろに手をまわしておんぶしたりしていて、楽しそうだ。


同じ立場だからできる。

友達だからできるんだよな。


僕も身体を密着させて肌で同級生たちの温度を感じたら——

だがそういうスキンシップをしたら、自分が他とは違って「そう」なんだと、ばれてしまう絵がはっきり目に浮かぶ。

だからいつのまにか気づかないうちに、友達といるときは常に一定距離空けるようになった。そして身体的距離だけでなく、相手との言葉の距離もだんだん離れてしまった。

出すことができなかった言葉が積もりつもって、腹のなかに埋まる。


水筒とペットボトルを持った一年部員の堀田がこちらに歩いてきて隣に座る。

堀田は——僕と同じく——中学からハンドボールをしている経験者で、一年の中ではけっこううまい。

この時期の高校一年生は線が細くて、ほとんど中学生と見分けがつかないから、今は体格差で僕たち二年が実力的にも勝っているが、もう半年ほどして身体が鍛えられてくればその限りではない。


堀田は僕のことを慕ってくれる数少ない後輩で、一人でいるところによくふらふらっと寄ってきてくれる。


見なくとも誰なのかわかっているので、僕は開いたままにした水筒の蓋をじっと見つめている。


——ナイスショットー

——ナイスボールー

——おーい、一年声出せよー


僕たちの座るベンチの後ろ側にテニスコートがあり、男子テニス部と女子テニス部の掛け声が聞こえる。どちらも人気のある部で部員が多いから、それなりに大きい声量で届く。


「テニス部の女子かわいいですよね」

「あぁ、そうだね」


そう言って堀田は黒く焼けた肌に透明な汗を滴らせて、とくとくとスポーツドリンクを喉に流し込んでいる。顎を限界まで上げて首を伸ばし、飛び出た喉ぼとけが飲み込むタイミングで上下する。

前から思っていたがこいつはかなり水分を摂取したがるタイプのようで、一回でペットボトルの半分を飲み切ってしまった。


遠くの校舎のほうで男子バドミントン部が走っているのが見えた。普段は体育館で練習するが、たまに外に出てランニングしている。


意図せずそちらに視線がむかう。だが堀田がいてよく見えない。

前かがみになり遠くを眺めるふりをしてバドミントン部が走っているところを凝視する。

ぼんやりと姿が見える。佐々木が走っているのが見えた。結城君は……


堀田が再びスポーツドリンクを手に取って、勢いよく口から流し込む。


見えなくなった。


あまりバドミントン部のほうに顔を向けていると、堀田に怪しまれると思い背もたれに寄りかかって姿勢を戻す。

唐突に打ち明けられる。


「テニス部の女子に告白されたんすよ」

「……付き合ってるの?」

「いや断ったっす」


堀田はあっけらかんとしている。

不意にある考えが脳裏に浮かぶ。


「なんで?もったいない」

「うーん、あんま興味ないんですよねー」


悟られないように言葉を選んで訊いてみる。


「いまは彼女いらない感じなんだ」

「まあ」

「じゃあこれから好きな人に告白されたらどうする?」

「んー多分ないっすね。彼女いたらめんどくさいじゃないすか」

「……」


喉からいまにも言葉が溢れ出そうになる。それらにしっかり栓をして、呼吸を整えて続ける。


「前からそうなの?」

「そうっすよー」

「将来結婚したいと思う?」

「いやーしないっすね。だって女子あんま好きじゃないんで」


僕はうつむき、地面の一点だけを見つめて、ジャブを打ってみた。


「……まあ、今は……同性で付き合う人たちもいるからなぁ」

「……………LGBTの人たちすか?」


さっきまで洪水のように言葉でいっぱいだった頭のなかが、途端に空っぽになる。



——ナイスショットー

——声小さいぞーいちねーん


——ナイスショットー

——ナイスボールー

——ちゃんと的に向かって打つんだよー




織塚が戻ってきて部長が集合の号令をかける。

堀田は軽やかに立ちあがり織塚たちのほうへ駆けていった。

僕もそれを追って皆がいるところへ走った。


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