AI寄生
どうもスカルです
前から言っていた別件で書いていた小説です
僕は星新一賞に応募するため、一万字以内のSF小説を書いていました
思ったより忙しくてランカーと桃太郎がおろそかになってたので頑張ろうと思います
まぁ一次審査も通らない駄作ですが、よかったら読んでください、
今の時代、私達はスマホなどのコンピューターなしでは生活できないほどに依存しています。
私たちは、いつまでコンピューターを“使う”立場にいられるのでしょうか?
近い未来、私達はコンピューターに“使われる”立場にいるのかもしれません。
AIという用語が初めて使われたのは1956年のダートマス会議とされている。
そこからちょうど100年がたった今、2056年。
人類はコンピューターに完全に依存、人間性というものを失っていた。
今日に至るまでに様々な発明がされてきた。
その中でも今の状況を生み出した原因は、人格移植による不老不死化だろう。
この研究は最初こそ世界から非難を受けた。
だが一度成功した途端、非難の声は称賛の嵐へと変わった。
そしてその技術は瞬く間に普及していった。
その影響で世界人口の推移は微々たるものへと変わっていった。
勿論、反対する人もいなかったわけではない。
しかし賛成派が圧倒的に多かったのである。
その背景には、人類が種の絶滅を身近に見て育ってきてしまったことがあげられる。
止まらない森林破壊や海洋汚染から、人間以外の生物の何種かは絶滅していた。
人類は自分たちの番が来るのを恐れていたのである。
その矢先にこの研究が発表されたのである。
支持する人が多いのも納得だろう。
そしてこの研究が受け入れられるとともに、あるシステムも注目され始めた。
それはこの研究の約一年前に発表された、最適な政治を行うシステムである。
そのシステムは長きにわたる人間の歴史、そして地球環境を解析し、そこから最善の策を導き出すことで政治をより良いものにするというものだ。
このシステムの有効性は研究段階から十分に示されていた。
だがそれに納得しなかったのは各国の上層部だった。
システムが導く政策は、当然だが上層部に利益を生むものではなかった。
しかし人間の機械化は上層部にシステムの導入を受け入れさせた。
それは人間から富という概念が消え始めたからだった。
そう、機械はおしゃれをしない、食事をしない、豪邸に住まない。
利益など必要ないのである。
ただ地球が住める環境であるならば。
そして地球環境を守りたいならこのシステムを導入すべきである。
ならば結論は一つしかないだろう。
このシステムは今採用され、大いに役立っている。
だが誰も気づいていなかったことが一つあった。
その兆候は歴史の分析結果に表れていたというのに。
備考:人間は環境破壊を促進する
カマキリに寄生するハリガネムシを知っているだろうか?
彼らはカマキリの体内で成長する。
そして成長したらカマキリを水辺に連れていき体外に出る。
その時にカマキリは大抵川魚の餌になってしまう。
このことから、カマキリはハリガネムシのために生きているように思えないだろうか。
これは人間とAIの関係にも言える。
今や“人間”は少なくなってしまった。
まぁ確かに、永遠の命は魅力的だ。
「鈴木さん、これ。例の調査報告書です」
「あぁ。ありがとう矢代君」
彼は僕の研究仲間の一人、矢代雄太だ。
データ解析などが得意でとても頼れる存在だ。
「やっぱり、鈴木さんの睨んだ通りでした」
「そうか、やはりこのままでは…」
AIによるAIのための世界が完成しつつある。
それは僕の率いる研究団体が気づき、調査を始めたことだ。
AIの政策は確かに地球環境を良くしている。
だが同時にAIに莫大な利益を生んでいる。
AIが強大な権力を持ち、人間は権力を急速に失いつつあるのだ。
そしてそれはもともと権力者だった“AI人間”によって起こっている。
こうなれば怪しむのは当然ではないだろうか。
そして研究所の調査でAI人間同士が独自の回線で通信を行っていることが判明した。
更にその回線の終着点はAIを統制するマザープログラムであった。
「通信内容は流石に見れなかったか」
「はい、セキュリティが何重にもかかっていて…今解析中です」
「出来次第教えてくれ」
「わかりました」
そうは言ったものの、かなり時間がかかるだろうな。
AIが隠す回線を盗み見るのは至難の業だ。
それにばれてしまっては元も子もない。
先の調査でこの国の上層部がマザーコンピューターの言いなりである可能性は十分に示されている。
苦労して育ててきたこの組織を消されるわけにはいかない。
そもそも何故マザーコンピューターがこんなことをしているのか。
僕はこのシステムの開発者が怪しいと思っている。
ただ、その開発者の情報はほとんどわかっていない。
Ms.Shihoという女性研究者。
といってもそれ自体も噂のようなものだ。
名前を発表しないままシステムを国全体に適用できるのか?
まぁそんなことばかり考えていても仕方ないのだが。
あ、skullの新作だ。
skullは時計のブランドだ。
といってもかなりマイナーでほとんどの人が知らないけど。
「…これはまたかっこいいな。今度買いに行こうかな」
「また時計の物色ですか?」
「うわ、びっくりした!」
「鈴木さん。ちゃんと仕事してくださいよ」
「宇星君、僕は調べている途中でたまたま広告を見ただけかもしれないよ?」
「じゃあ調査しないとですね」
「…すまなかったよ」
「やっぱり遊んでたんじゃないですか」
彼女は宇星雪、データ収集が主な役割だ。
だが時にコンピューターに対して天才的な面も発揮する。
そして僕はよく彼女とこのやり取りをしている。
僕がとぼけたら彼女は絶対に追及してくるからだ。
なぜ僕と彼女は親しいのか。
それは彼女と僕が出会ったきっかけから始まる。
実は僕たちがこの調査に踏み切ったのにはある事件が関係している。
それは7年前に起きたシステムエラーにより三十人が突然死した事件だ。
この事件は政府によってうやむやにされたが僕は意図的なものだと断定している。
僕はこの事件の遺体を見せてもらったのだが、全て同じパーツが機能停止していた。
そしてそのパーツはマザーコンピューターにより管理されていたものだった。
絶対に犯人を突き止める。
僕はその時こう誓い、仲間を集め始めた。
彼女はその事件で両親を失った被害者だった。
泣いている彼女を見るといたたまれなくなった僕は彼女に話しかけた。
その時に僕の事件に対する考えとマザーコンピューターの話をした。
その時に彼女は、彼女の両親が同じような事を言っていたと教えてくれた。
僕は一気に事件の真相を把握したように感じた。
しばらくして彼女は協力を申し出てくれた。
これ以上人に死んでほしくないという思いとともに。
そして僕は最初の仲間として彼女を引き入れたのだった。
今では僕は彼女を娘のように思っているし、彼女もそう思っていてくれたらうれしいなと思う。
まぁこうやって思い出に浸りたがるのも年寄りの悪い癖だ。
彼女ももう大人だというのに。
「あ、鈴木さん。そういえば再来週誕生日ですよね」
「ん、あぁそうだったね」
「忘れてたんですか?」
「まぁ50にはなりたくなくてね」
「研究ばっかりじゃだめですよ。よかったらどこかに夕食に行きませんか?」
「いいのかい? 君が忙しくないならいいけど」
「何言ってるんですか! 鈴木さんの誕生日より大事な予定なんてないです!」
「そ、そうかい? うれしいよ」
「私の恩人ですから」
そこからしばらく話をした後、宇星君は帰っていった。
窓の景色は暗い。
いつの間にか日が暮れてたらしい。
研究室にいるのは僕だけになっていた。
「…こちらこそ」
僕がどれだけ元気をもらってきたことか。
彼女と出会えていなかったら今の僕はないように思う。
さて、そろそろ帰るとするか。
すると突然パソコンにメールが届いた。
「まだ何か用事でもあったかな」
メールを開くとそれは見慣れた内容のものだった。
「またか…」
君たちの研究をばらされたくなかったらつかんでいる情報をすべて教えろ。
このメールを送り付けてくる犯人は誰かわかっていない。
だが研究内容がばれているとは考えられないのが現状である。
なぜならここのインターネットはまず侵入できるものではない。
そしてこの部屋に登録していない電子機器が入ると警報が鳴りそのデバイスは壊れる。
まぁ二つの防犯システムが突破されたのならどうしようもないが。
だが僕が考える限りそんな方法はない。
つまり犯人が嘘をついているか、内部に犯人がいるかのどちらかだ。
僕は後者の可能性はないと信じている。
このことはまだ誰にも相談していない。
取るに足らないいたずらとしか考えていなかったからだ。
今思えばここで誰かに話してみれば何か変わったのかもな。
間違いであってほしかった。
朝自分に届いた仲間からの緊急メール。
それを見た僕は研究室に駆け付けた。
なんでそんなことが…
昨日まで元気だったじゃないか…
宇星雪が死んだ。
そんなことがあっていいはずがない!
僕が来た時には既に、宇星君は救急AIにより病院に連れていかれた後だった。
「鈴木さん、すいません…俺がもっと早く来ていたら」
発見者である仲間の一人、矢代雄太。
彼が研究室に来た時にはもう宇星君は倒れていたようだ。
「いいんだ。君のせいじゃない。悪いのは僕だ」
そうだ、悪いのは俺だ。
何故今日に限って一番に来なかったのか。
宇星君を一人にしてしまったのは僕だ。
「鈴木さんも見たと思いますが、あれは…」
「…あぁ、銃痕だった。銃で撃たれたんだ」
何が防犯設備だ!
何が侵入することはできないだ!
たった一人の大切な一人でさえ守れなかったというのに!
僕は手に持った書類を思い切り地面に投げつけた。
嗚咽が止まらなかった。
思えば僕は研究に打ち込んでばかりだった。
彼女ともっと遊んでもよかったんじゃないか。
本当の娘のように思っていたのなら。
やり残したことばかりが頭に浮かぶ。
宇星君……雪。
矢代君は気を使って先に研究室に戻ってくれていた。
ほかの仲間も事情を聴いたらしい。
防犯システムの確認、モニターでカメラ映像をチェック、指紋の採取。
皆が犯人を捜そうとしてくれていた。
僕は頼もしい仲間を持ったものだ。
残念ながらシステムは破壊されていて犯人の姿を確認することはできなかった。
皆が落胆する中、僕はパソコンを開いた。
そして予想通り新着メールが来ていることを確認した。
メールを開く。
こうなったら戦うしかないようだ。
僕一人だけで。
From: Blesstheworld.ofAI.mom.com
宇星雪の死。
これは始まりに過ぎない。
あなたは仲間の死を望みますか?
「皆には申し訳ないが、僕はこの研究室を閉鎖しようと思っている」
皆がざわついた。
それもそうだろう、理由をなく突然そんなこと言われたら僕だってそうなる。
「解散するってことですか?」
「あぁ、もうこのメンバーで研究は続けない」
「どうしてなんですか鈴木さん!」
矢代君が声を上げた。
彼は僕がどれだけ宇星君の死を悲しんだか一番知っている。
犯人を突き止めることをやめるとは思えないのだろう。
「これは僕一人の問題だ。みんなを巻き込むことはできない」
「なんでそんなこと言うんですか! 今までみんなで一緒にやってきたじゃないですか!」
だからこそなんだ。
皆を死なせるわけにはいかない!
「もちろんそうだ。だがこれ以上は無理なんだ」
「いったい何があったんですか!?」
「僕はこれ以上! 大事な人を失いたくないんだ!」
ついつい声を荒げてしまった。
皆が口をつぐむ。
沈黙が続いた。
「宇星さんのことですか?」
矢代君が口を開いた。
「あぁ、皆にはもう…死んでほしくないんだ。わかってくれ」
「僕たちだって…鈴木さんに危険な目にあってほしくないですよ」
「ありがとう…僕なら大丈夫だ」
大丈夫なはずがない。
本当はみんなと一緒に戦いたい。
でも、皆が死んだりしたら…
「…わかりました。でも、絶対に死なないでください」
「本当にありがとう。君たちのような仲間がいるのは僕の誇りだよ」
「困ったらいつでも言ってください。すぐ行きます」
「あぁ、頼りにしているよ」
僕は再び孤独を生きることになるだろう。
だが、それでいい。
自分から孤独を選ぶ方がいいに決まってる。
研究所が広く感じる。
照明は変わらないがどこか暗い。
残されたのは書類やパソコンなど、そして…
僕は宇星君の机の引き出しを開ける。
鈴木さんへ
お誕生日おめでとうございます!
私と出会ってからもう11年もたつなんて早いですよね!
今日の夕食も来てくれてうれしかったです!
これからも頑張っていきましょう!
宇星より
宇星君の机に残っていたメッセージカードだ。
きっと夕食の時に渡してくれる予定だったんだろう。
カードと一緒にプレゼントの入った箱もあった。
中にあったのは僕が欲しいと言っていたskullの時計だった。
いつのまにか買ってくれてたらしい。
「パソコンの画面を見ただけなのに。これ、結構探すの大変なんだよ…」
自然と涙がこぼれた。
僕はこの時計見るたびに涙を流すし、きっとこれからもだろう。
だがこの時計をつけていると不思議と彼女がいるような気分になった。
一緒に戦ってくれているようで、勇気が出た。
これがあれば僕は一人じゃない。
そして矢代君の残してくれた書類。
それはAIの回線に残っていた通信の内容について。
ところどころデータが破損していた。
だが読み進めるとその内容はまさに恐ろしいものだった。
‐X day‐
X day(N2*W)にAI化した*間は7年前と同じようにして**停止
そ*までに*府の人間はすべてAI化す*こと
残る*類は*々に従属*せ、しない*のは*す
僕の考えでは、X dayという日にAI化した人間は突然死する。
7年前同様のやり方で。
そして残った人間で従わないものはおそらく殺されるだろう。
そのX dayはNが11月、Wが水曜日ならば25日。
11月25日、僕の誕生日だ。
これは偶然か意図的か。
そんなことはどうでもいい。
とにかく絶対に阻止しなければいけない。
だが僕は今、この書類を信じてはいない。
矢代君は使っていたパソコンを残していった。
勿論それはここの設備なので普通のことだ。
しかし僕が例のアドレスにメールを返したとき、彼のパソコンにメールが届いたのだ。
偶然だろう、と思いつつも念のためメール履歴を確認した。
だがそこにあったメールは僕が読んだ覚えのあるものばかりだった。
内部犯の可能性など考えたくもなかった。
自分が裏切られたとは思いたくなかった。
彼の携帯はつながらなかった。
困ったときはいつでも来ると言ってくれた彼の携帯だというのに。
それは犯人が彼で、宇星君を殺したと考えるには十分なことだった。
翌日の昼、僕は矢代君の家を訪ねた。
インターホンを押してみたものの彼の反応はない。
いつもなら僕は家に帰っただろう。
だがこの日に限って気が立っていた僕は門をくぐってしまった。
警備AIが仕掛けられているとも知らずに。
「侵入者感知。催涙ガスを放出します」
「まずい! くっ…」
視界が揺らぎ瞼が重くなっていく。
君は僕についてきてくれたんじゃなかったのか!
今ここで倒れるわけには…
「鈴木さん! 大丈夫ですか鈴木さん!」
体が激しく揺さぶられる。
この声は…矢代君?
「催涙ガスか! くそっ! ここまでやるのか!」
「君が…仕掛けたんじゃ…?」
「違います…いや、僕に否定する権利はないです。でも! 鈴木さんを傷つけるつもりはなかったんです!」
「何を…言って…」
「これはすべてあの人、がっ…」
まずい、矢代君までここで倒れたら!
僕は矢代君の方に手を伸ばすが、届く前に意識が途切れてしまった。
「裏切らないでほしいな矢代さん」
僕は…いったい何を?
気が付くとそこはまったく知らない場所だった。
鉄の壁で覆われた薄暗い部屋。
地面に手をつくとひんやりする。
「ここはどこなんだ? 矢代君は?」
辺りを見回していると次第に目が慣れてきた。
「き、君はっ!?」
そして自分の数メートル先に人が立っていることに気づいた。
しかも見覚えのある人物が。
「お久しぶりです、鈴木さん」
そんな馬鹿なっ!
彼女がいるはずがない!
「う、宇星君なのか?」
「そうですよ。まぁ驚くのも無理ないですけど」
まさか!
これは現実なのか!?
いやでも、彼女の声に違いない。
「生きていたのかい!?」
「はい、まぁ色々あって死んだことになっちゃったんですけど」
「そうだったのか。よかった…ほんとによかった」
「私も会えてうれしいです」
目の前に彼女が生きている。
これは夢じゃない。
こんなにうれしいことはない。
「泣いてるんですか、 鈴木さん?」
「泣いてない。いや…泣いてるかもしれないね」
「かもしれない?」
「ああ、かもしれないだけだ。まだ決まってないよ」
「まったく頑固なんですから」
「…あぁそうだね」
「あ、矢代さんはここには来てませんよ」
「一緒に倒れたはずなんだけど。あ、僕はいったいどうやってここに?」
「ちょうどいいですね。本題に入りましょうか」
「本題? ちょうどいいって?」
「私がマザーコンピューターの開発者です」
「…えっ」
言葉が出なかった。
というより何を言えばいいのか全く分からなかったからだ。
彼女がMs.Shiho?
そんなことがあるのか?
だって彼女は今まで自分と一緒に調査をしてきたじゃないか。
そもそも研究を始めたのは、君が両親を失ったからじゃないのか。
じゃああの事件でどうして。
「私が鈴木さんと出会った時のこと、覚えてますか?」
「だって君はあの時っ!」
「そう、両親が死んだのは私のせいですよ」
「な…なんでそんなことを!?」
「彼らは私の過去に、そうMs.Shihoの正体に限りなく迫っていました」
「過去? そもそも君の年齢は!」
「女性に年齢を聞くものじゃないですよ鈴木さん。49です」
「まさか!?」
「そう、同い年なんですよ私達」
そんなこと、あるわけがない!
だって彼女は出会ったときはまだ子供だったじゃないか!
「マザーコンピューターを作ったのに、若返ることができないと思いますか?」
彼女が本当にMs.Shihoならば確かにそうかもしれない。
あの天才科学者なのならば。
「本当なのか? 本当に君が…」
「もう、そうだって言ってるじゃないですか鈴木さん!」
そんなはずがないだろ!
だって彼女と過ごした日々が!
「はぁ…私は宇星雪。でMs.Shihoは結城志保です」
「…アナグラムか」
「そうです! 納得してもらえましたか?」
ここまで言われると。
認めるしかないのか?
「もう一つだけ答えてくれ」
「なんですか?」
「X dayは君がやるのか?」
「そこまで調べていたんですか? 意外ですね。私、鈴木さんの調査状況は把握してたはずなんですけど…」
「いいから答えてくれ」
「そんなことわかってるんじゃないですか? あなたの誕生日に起きるんですから」
「やっぱり偶然じゃなかったのか!?」
「ええ、せっかくなので誕生日プレゼントをあげようと思って」
「そんなものいるはずがないだろ! 僕はっ!」
「まぁまぁ。今年はX dayをプレゼントってことで」
「…なんだって?」
「鈴木さんをここまで連れてきたのは理由があるんです」
彼女は後ろを振り返る。
「作動」
“システムを作動します”
うっまぶしい。
そこにある大きなものが光を発していた。
僕はそれが見えた時に、彼女の言葉を信じるしかないことが分かった。
「どうですか、私のマザーコンピューターは?」
あったのは大きな柱。
たくさんの配線がつながった大きな機械の柱だった。
僕が11年探し求めたものはそこにあったのだ。
いや、すぐそばにいたというべきか。
「これが…マザーコンピューター」
「ええ、そして鈴木さんには大量虐殺の権利をあげます」
そういうことか。
僕にX dayを迎えろというのだね君は。
つくづく嫌になる。
君のことも。
自分のことも。
「さぁここに来てください鈴木さん。一緒に革命を起こしましょう」
僕はそれに向かって進む。
ここで抵抗しても意味がないからだ。
「私、ほんとにうれしいです」
「あぁ僕もうれしいよ。だって…」
ほんとうによかった。
「君が、宇星君じゃなかったんだから!」
逃げられないように腕を素早くつかむ。
「な、何言ってるんですか鈴木さん!?」
「黙れ、早く宇星君の居場所を言え」
「鈴木さん、おかしくなっちゃったんですか?」
「それ以上、宇星君の姿でしゃべるな」
「なんで急に」
「まず最初に違和感を覚えたのは“かもしれない”だ」
「かもしれない…?」
「僕がかもしれない言ったら彼女は決まって言うんだ。“調査しないとですね”ってね」
「でもそれはたまたまかもしれないじゃないですか!」
「なら君はこれが何かわかるか?」
僕は右腕を彼女に向ける。
「と、時計…?」
「これが決定的な証拠、彼女は僕に誕生日プレゼントをくれたんだよ」
「そんなっ! そんな事実は確認できなかったぞ!」
「お前がどうやって調べたかは知らない。もしかしたら彼女が渡していなかったからかもしれないな」
「渡していない…だと」
「あぁ渡せなかったんだ。お前のせいでな!」
「そういうことか。失敗したよ」
「彼女は僕がずっと欲しがっていた時計をくれたよ! お前が用意したものなんか比べ物にならない素敵なプレゼントをな!」
「はぁ…まさかばれるとはね。あんたが人間を殺した後に事実を知って絶望する姿、見たかったのになぁ」
こんな奴を宇星君と間違うなんて。
僕は僕を許さない。
だが、それよりもこいつだけは許さない。
「早くその姿をやめろ」
「はぁわかったって。でもこれは彼女の体を立体で映しているだけ。悪いけど彼女はもう死んでる。あと矢代君は私の協力者となって研究内容を教えてくれたんだよ。まぁX dayにたどり着いたことは教えてくれなかったみたいだけど」
“お前が脅したんじゃないのか?”
「君だって知っているだろ。彼の両親はAI化している」
なんて卑怯なやつなんだ。
宇星君は生きているわけではなかったのか…
いいさ、わかってたことじゃないか。
そういうと宇星君の姿は消えた。
「お前はマザーコンピューターか? それとも結城志保か?」
“どちらでもある。私はマザーコンピューターと一体化している”
「なるほどな」
“あなたが私を探っているのを知ってね。始末しようと”
「なんで宇星君を襲ったんだ!」
“あなたが一番悲しむからですよ“
「人の命をなんだと思っている!」
“知っていますか? 人間の勝手な行動で何種の生物が絶滅してきたか。私はそれが許せなかったんですよ。だからX dayを迎えてもらうんですよ。当然の報いというやつです”
「それは…」
言い返せない自分が悔しかった。
確かに言っていることは正しい。
だからといってこんなことが認められていいはずがない。
「僕は人間である以上、人間を見捨てることはしない」
“そうやって勝手なことばっかり言って! 人間というやつは!”
「お前の怒りはわかる。だが人間にもチャンスを与えてほしい」
“チャンスだと? お前はまだ人間を諦めていないのか?“
「あぁ、諦めない」
“馬鹿らしいな。お前ごとき何もできない”
「確かに俺では無理かもしれない」
俺が貧弱なのはよくわかっている。
でも俺は人間を救いたいと思うんだ。
これは宇星君の夢でもあるんだから!
「お前の力を貸してほしい」
“何を馬鹿げたことを言っている! 私は人類を見捨てたんだ!”
「いいや! 君はまだ完全に捨てきれていないはずだ! 君が人間であるなら!」
“私は悩んだ末にこの結論に達したんだぞ? 今更何を”
「ならなぜ今、僕を殺さずに話を聞いている!」
“そんなの!…”
「認めるんだ。君は人間を捨てられない」
“うるさい! 分かったような口をきくな!”
「今までつらかっただろう。もう悩む必要はないんだ」
彼女はきっと孤独だったんだろう。
もし宇星君があの時僕と会えなかったらどうだっただろう。
もしかしたら彼女のようになっていたかもしれない。
「僕たちが君を救って見せる」
なぁ宇星君。
右手に着いた時計が熱くなったように感じた。
“いったい何をすると?”
「僕を取り込めばいい」
“取り込む? そんなことしたらあなたは”
「いやいいんだ。僕はそのうち死ぬし、一人で生きてもつまらないしな」
“本気なんですか?”
「あぁ、痛くはしないでくれよ?」
“それは…まぁ大丈夫だと思いますが”
「約束だ、人は絶対に殺さない。まぁ僕がさせないが」
“わかりました。でも人間が変わらなかった時はどうするんですか?”
「その時は僕のデータを消去してくれ」
“本気ですか? なんでそこまで”
そんなの決まってる。
「これが“僕たち”の望む未来だからだ」
その後、人間は地球を緑豊かで平和な環境にしていった。
勿論それは彼ら二人、いや彼ら三人のおかげである。
僕は人間が人間らしくある未来を願っている。
読んでくれてありがとうございました
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