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3月32日、マーチフール。

作者: 麗々鹿之助

「今日は3月32日、マーチフール。略して"まちふる"と言う」


僕はクラスの皆が帰って教室で二人きりになってようやく、朝から考えていた嘘をついた。

隣の席で本を読む吉川さんは、たっぷり数秒後本に栞を挟んで僕をじと目で見た。


「納税したくなる略ね、加藤君」

「納税は義務だった筈だよ吉川さん」

「違うわ。実は私、納税を免除されているのよ。美人だから」


うっすら笑って薄い理由の衝撃的事実をすぐに返され僕は動揺した。

一瞬信じかけた。

美人なだけはある。危ない所だったが何とか正気に戻って昼休みに友達と考えた嘘をつく。


「実は僕、コンタクトなんだ」

「奇遇ね。私も宇宙人なの」


文脈が死んだ。

彼女のスルースキルの前では僕の嘘は何の意味も持たないようだ。

決して無視されたとかじゃない。


「トルコ産まれのギリシャ育ち、生粋の日本人よ」

「成立してなくない?」

「全身がグレー気味の祖父母と日本の経済をよく語った物だわ」


結構長いこと潜伏されてる!

しかも孫までいる!


一人百面相をしてると、吉川さんはいたずらっ子のような顔で笑った。


「アハハッ。知ってる? エイプリルフールは午前中しか嘘をついちゃいけないのよ」

「…吉川さんのが嘘をついていたじゃないか」

「私は今ギリシャ人だから午前中よ」

「それはおかしい」


何処がどうおかしいか考えるがこんがらがって首をひねる。

吉川さんがクスクスと笑う。


からかわれている。流石の僕でも腹が立つ。

故に、今思いついた天才的な嘘で度肝を抜くことにした。


「吉川さん。実は僕もギリシャ育ちのギリシャ人なんだ」

「…うん」


ぎこちない返答。僕の後ろを気にしている様子。

まさか人が居るのかと振り返るが黒板に机に時計と変わっておらず、特に人影は無かった。

安心して吉川さんと意識して目を合わせる。これがミソ。


「実は僕、吉川さんの事が異性として気になっているんです」

「……ダウト」

「何故!?」

「ギリシャ人なんだもの」


ギリシャ人の風評被害を心の中で2、3呟くと吉川さんの目線が後ろに流れた。視線を追うと時計。ぴったり5時55分。


「もしかして用事とか合った?」

「無いわよ。加藤君がノートとってるから待ってたんじゃない。家も近いし」


思いがけない気遣いに、嬉しさと突然の虚無感があった。

僕はてっきり本に夢中で帰るのが遅くなって居るのだと、待っている側のつもりでノートにネコを描くロボットに30分なったが、意味は無かったらしい。


「今ずいぶん喋ってるけど終わったんでしょうね」

「…もちろんさ。待っててくれてありがとう」

「崇めていいわよ」

「ふっ」


僕の気遣いに感無量の吉川さんは少し痛いパンチを入れてくる。

今日の出来事を今言ってやろうかとも考えたが止めた。十年後の方が玉手箱みたいで面白い筈だ。

腹を抱えて笑え。


「よし、じゃあ帰りましょうか」

「おーう」


教室の出口まで歩いたら吉川さんが急に振り向いた。


「実はなんだけど、私、君の事が好きよ」

「……ギリシャ人だ」

「正解!」


見惚れる笑顔で告白され、一瞬心臓が爆発四散する所だった。

そして直ぐに、同じ笑顔で告ってもないのに振られた。

多分ちょっと心臓が止まってた。


愉しそうな吉川さんを追う様に教室を出る。

何となく気になってちらと見た時計は6時1分。


家に着いたら吉川さんの見たい番組は終わってるかもしれない。



読んで下さりありがとうございます。

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