プロローグ
初投稿です。
まさに死屍累々。積み上げられた魔物の死体の山は色とりどりの体液にまみれ、この世のものとは思えない光景である。
「いまだにこの臭いにはなれないな...」
隆之介にとっては幾度目かの戦場であるが、凄まじい臭気に吐き気を抑えられないでいた。
「なぜ俺はこんなことをしているのだろうか...」
隆之介は四つん這いで嘔吐を続ける勇者の背中を摩りながら、自分の前世について思いを馳せていた。
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隆之介は今日も大学の授業が終わると、かじかむ手を暖めながら、バイト先である駅前繁華街の居酒屋へと急いだ。
「今日はクリスマス・イブか...」
繁華街の普段と変わらず賑わっていたが、隆之介にはいつもよりも賑わっているように感じられた。
真面目な隆之介には珍しく、バイトを休むことが頭をよぎったが、人手不足のクリスマス・イブであること、そして学費と生活費を稼ぐために、酔っ払いに絡まれながら深夜まで「はい、よろこんで!」と笑顔を振りまくことを選んだのであった。
クリスマス・イブにも関わらず、普段通りの小汚い雑居ビルに到着した隆之介は、エレベーターに乗り、バイト先の店舗のある4Fへ向かった。狭いエレベーターの中で、つい先日バイトをバックれた高橋のことを思い出していた。
高橋は隆之介と同じ21歳だった。隆之介は高橋について年齢以外何も知らない。バイト初日でバックれてしまったからだ。ただ、嫌なことから簡単に逃げられるようなロクでもない奴であることは確かだ。隆之介はそんな高橋を軽蔑していたが、心の奥底では羨ましいと感じていた。
隆之介にはバイト漬けの大学生活から逃げられない理由があった。これまで片親で育ててくれた母親への恩返しをするため、そして何より、あの憎き父親のようにならないためである。
隆之介が父親のようにはならないと決意を持ったのは、父親が蒸発した小学5年生のときだ。隆之介の父はアル中・パチンカス・風俗狂いという、クズの三冠王であった。母は父親の置き土産である借金を返しながら幼い隆之介を、高校卒業まで育て上げたのだった。
世の中によくあるタイプの不幸かもしれないが、同じように不幸な境遇にある人間を隆之介は知らなかった。もし父親がまともだったら、もし途中で母の心が折れてしまっていたら、また別の世界があったのだろう、と考える隆之介は自身の過去を呪いのように感じていたのかもしれない。
「もし来世生まれ変わるなら...」
そう考えたとき、エレベーターが3Fと4Fの間で止まり、扉が開いた。気づくと隆之介は見知らぬ酒場にいた。混乱する隆之介に追い討ちをかけるように、頭に機械音声のような声が流れ込む。
『ユニークスキル:カイホウシャ』