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肝試し〜4話ルイード皇子視点〜


 リディアとの恋の進展があるかもしれない……というJの甘い誘惑にのってしまった俺だが、結果ペアを組めたのはリディアではなくカイザだった。


 

 ……あの時の俺は何を考えていたんだ?



 リディアと組みたいという事しか頭になかったが、よく考えればとても危険な賭けだったと思う。

 イクスとリディアがペアになる可能性を全く考えていなかったのだ。

 

 こんな暗闇の中、2人きりにさせてしまうのは危険だ。

 もしあの2人がペアになっていたなら、俺は自分の権力を行使してでも無理やり中止にしていただろう。



 リディアのペアがエリックで良かった。

 本当にそう思う。



 先程も、リディアがエリックと間違えてイクスの腕につかまっている姿を見ただけで、黒い感情が押し寄せてきた。

 Jが間に入っていなければ、リディアの前で嫉妬した情けない姿を見せてしまったかもしれない。



「ほら、そろそろ出発だぞ。お前……しっかりルイード様を守れよ?」


「あ? わわわかってるよ!!」



 エリックがカイザの背中をバシッと叩きながら忠告している。

 英雄騎士でもあるカイザは、そんな立派な功績をあげた者とは思えないほど怯えた様子で、エリックに言い返していた。


 そんなカイザを冷めた目で見ていると、リディアがひょこっと俺の前に顔を出した。



「気をつけてくださいね、ルイード様」


「うん、行ってくるよ」



 心配そうに言ってきたリディアの頭を、ポンポンと撫でた。

 先程のイクスへの嫉妬心からつい触ってしまったのだが、やめておけば良かったかもしれない。



 はぁ……。

 このままリディアの手を取って、カイザを置いて行きたい……!!



 そんな欲望にかられるが、なんとか踏みとどまる。

 俺の考えを見透かしているのか、エリックとふいに目が合いギクリとした。

 

 時間になり、俺はリディアに名残惜しさを感じながらも怯えたカイザと一緒に歩き出す。

 並木道に入りしばらく無言で歩き続けていると、先程まで明るく照らしてくれていた満月の明かりがほとんどない事に気づいた。



「……暗いな」


「うおっ!!」



 俺のボソッと呟いた声に、カイザが飛び跳ねるほど驚いた。

 少し軽蔑気味に目を細めて視線を送ると、カイザは気まずそうに視線をそらす。

 


「……カイザ。こんな夜道は慣れたものだろう? そんなに怖いのか? もし今目の前に武器を持った屈強な男が現れたら戦えるのか?」


「そんなの出たら一瞬で捕まえられるぞ」


「……なら、今目の前に女の幽霊が出たらどうするんだ?」


「ちょっ……! 本当に出たらどうするんだ!?」



 カイザは慌てて周りをキョロキョロしながら警戒している。



「俺なら女の幽霊よりも、武器を持った男の方がよっぽど怖いと思うが」


「なに言ってんだよ! そんな男なら確実に勝てるが、幽霊相手には勝てるかわからないじゃねーか! あいつらは、触れるかわからないんだぞ!?」



 あいつら……というのは、幽霊の事だろうか。



「お前が触れないのなら、むこうだって触ってこれないのだから何も怖くは…………ん?」



 少し先にある木の陰に、チラッと人影が見えた。



「ななな何だよ。なに見てるんだ? おお驚かすのはやめてくれよ……」


「…………」




 俺が足を止めて無言で一点を見つめているため、カイザがさらに怯えだしたのがわかった。

 だが今は何もフォローする気はない。



 あれはなんだ……?

 まさか本当に女の幽霊が……?



 一瞬ゾッとしてしまったが、そのすぐあとに黒髪と茶色髪が見えてすぐにJとイクスだと気づいた。

 どうやら俺達を驚かす目的で隠れているようだ。



 ……またくだらない事を……。



 カイザに伝えようとした時、木がゆらゆら……と揺れ、その陰から白い布のようなものがヒラヒラと見えた。

 まるで白いスカートを着た人物が、その木の陰から出てくるような怪しい雰囲気をうまく出している。



 なかなかに凝った演出をしているな。

 さすがJだ。



 感心していると、カイザが震えた声で叫んだ。



「ででで出た!!!」


「え? おい。カイザ……」


「逃げるぞ!!」


「は?」



 そう俺が言ったと同時だろうか。カイザに腰と足をガシッとつかまれ、乱雑に持ち上げられた。

 カイザはそのまま俺を肩にかつぎ、全速力で走り出す。


 バランスの悪い体勢な上に、ものすごいスピードで走るため不安定で何度も落ちそうになる。

 正直言ってかなりの恐怖だ。



「ちょっ……カイザ!! 止まれ!! 大丈夫だあれはJ……ってうわあああああ」



 Jとイクスの隠れている木を一瞬で通り過ぎ、並木道を抜けてもまだカイザのスピードは落ちない。


 遠目で、2人が木の陰から出てきて大笑いしている姿が目に入った。

 Jなんて膝を地面につけた状態で腹を抱えて笑っているようだ。



 ……あいつら……あとで覚えておけよ……。



 必死にカイザにつかまりながら、恨めしい気持ちで2人を睨みつける。



 いや……待てよ。俺が何もしなくても、真実を知ったカイザが仕返しをするだろう。

 あの2人への罰はカイザに全て任せるとするか。

 

 きっと俺よりもカイザからの報復の方が恐ろしいだろうからな。それにしても……。



 カイザに荷物のように軽々と抱えられている自分。

 先程は驚いて情けない声まで出してしまった。



 こんな姿をリディアに見られなくて、本当に良かった……。



 それだけは感謝した。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] カイザはおばけ苦手w 私もそうです。一人の時は背中をどこかにつけてないと落ち着きません。 Jとイクス、バレてんのかよ!ルイード皇子の「ひぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!」って叫ぶとこを見た…
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