肝試し〜3話イクス視点〜
クソ兎の提案で、幽霊が出るという薄気味悪い通りにやってきたわけだが……なんっで俺のペアがクソ兎なんだよ!!
1番のハズレじゃねーか!!
怯えたリディア様に抱きつかれるかもしれない……というクソ兎からの甘い誘惑に騙されて、ついクジを引いてしまった。
引いた紙に『J』と書いてあるのを見た瞬間、苛立ちで思わず踏みつけた。
とりあえずリディア様のペアがルイード皇子でなくエリック様だったのには安心したが、これでもし皇子とリディア様がペアだったら俺は後悔していただろう。
一瞬の誘惑に負けてあの2人に何か進展でもあったなら、後悔どころでは済まないけどな。
次からはそういう事になる可能性もよく考えてから行動しなければ……。
「ちょっとー。まだ怒ってるのかい? せっかくのリディとのいい雰囲気を邪魔したこと」
元凶でもあるクソ兎が、わざとらしく頬を少し膨らませながら絡んでくる。
俺とクソ兎のペアが1番最初の出発となり、今まさにその通りを歩いているところだ。
満月の明かりがあるはずだが、この通りに入った途端に一気に暗くなった気がする。
おそらく長く垂れ下がった高い木々が、満月の明かりを遮っているからだろう。
薄気味悪いといえば確かにそうだが、怖いとは全く感じない。クソ兎も同じらしく、特に怯えた様子もない。
クソ兎の言う『リディとのいい雰囲気』というのは、先程のやりとりの事だろう。
この場所に着いて、少し不安になったリディア様がエリック様と間違えて俺の腕をつかんだのだ。
細くか弱い手でそっと俺の腕をつかまれた時、心臓が驚くほど大きく跳ね上がった。
可愛すぎて、嬉しくて、思わずリディア様の手を握ってしまった時……クソ兎が変な女口調で邪魔してきたのである。
「……別に怒ってない」
「あのねー。言っておくけど、あれはむしろ感謝して欲しいくらいの僕のナイスな行動だからね?」
「なんでだよ」
隣を歩くクソ兎をギロッと睨みつけるが、全く気にしない様子で話を続けてくる。
「あの時、キミは目の前のリディのことしか見てなかったと思うけどさ。周りは結構大変なことになってたんだよ?」
「周り?」
「そうさ。鬼の形相になったエリック様とルイード様が、今にもキミのところへ駆け出しそうな勢いだったんだよ」
「え……」
「だからその前に僕が間に入ったのさ。ナイスだろ?」
ふふんと得意げな顔で話すクソ兎にお礼など言うつもりは到底ないが、そんな状態ならば邪魔してくれて良かったと思う。
エリック様はともかく、ルイード皇子に邪魔をされたならもっと険悪な空気になってしまっていたかもしれない。
「まぁお前にしては少しは役に立ったかもな」
「もー本当に騎士くんは素直じゃないよねー。まぁそういうところも嫌いじゃないけどさ」
「嬉しくない」
「はぁー……。今も全然怖がらないし、キミとただこうして歩いててもなんの面白みも…………」
突然、クソ兎がピタリと足を止めた。
何事かと横を振り向くと、ニヤ〜と楽しそうに笑うクソ兎がこちらを見ている。
……絶対なにかくだらない事を思いついたな……。
「なんだ、その顔は」
「ねぇ、僕いいこと思いついちゃったんだけど」
「……一応聞いてやる」
「あのね、僕達のあとはルイード様とカイザ様のペアだっただろ?
……この辺の木に隠れて、2人を驚かせようよ」
通りを半分以上は進んだだろうか。
クソ兎は近くにある木を指差して言った。
「またくだらない事を……」
カイザ様にあとで仕返しをされても知らないぞ……と思いつつ、あの皇子が驚く姿はちょっと見てみたいという悪戯心がないわけではない。
……まぁもしあとで責められたとしても、クソ兎のせいにすればいいか。
俺は全ての責任をクソ兎になすりつけるつもりで、その案に乗ることにした。