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肝試し〜2話〜


 暗い夜道を馬車に乗って目的地まで向かう。

 馬車には私とエリック、ルイード皇子、そしてJの4人が乗っている。

 騎士であるカイザとイクスは、馬車の横を馬に乗って警護しながらついてきている。


 こんな時間に第2皇子であるルイード様が外出できたのは、事前に立てていた予定ではないため人に知られていない事と、英雄騎士のカイザが同行しているからである。



 ……その英雄騎士であるカイザが、実際1番ビビっているんだけどね。



 私は窓から見える青い顔のカイザを見て、クスッと笑った。

 私もカイザほどではないにしろ肝試しはどちらかといえば苦手である。けれど、このメンバーで向かっているとあまり怖く感じない。



 それにペアを組んだのがエリックとなると、なおさら怖くはないんだよね……。

 エリックの暗黒微笑を見たら、幽霊の方が逃げて行きそうだし。



 私は目の前に座っているエリックに視線を向けた。

 足を組んで窓の外を眺めているエリックが美しすぎて、これは逃げられるというよりも幽霊に惚れられてしまうのでは? と心配になる。



「はぁ……なんで俺がカイザとペアなんだ……」



 隣に座っているルイード皇子が、ため息をつきながらぼやいた。

 先程からずっと落ち込んだままのルイード皇子に、エリックが同情の声をかける。



「1番のハズレを引きましたね」


「そう思うなら、交換してくれないか? エリック」


「お断りさせていただきます」



 間髪入れずにエリックが即答すると、ルイード皇子はまた大きなため息をついた。

 エリックの隣に座っているJが、落ち込んだルイード皇子を見て苦笑いしながらフォローを入れる。

 


「まぁまぁ。これも運ですから! ……あっ!着いたみたいだね」



 Jの言葉を聞いて窓の外を覗くと、柳の木のような……垂れ下がった木々が並ぶ通りに到着していた。

 よく昔の日本の怪談話に出てくるような、薄気味悪さを感じる。



 うわ……!! あの柳みたいな木!

 白い着物を着た黒髪ロングの女の幽霊が覗いていそう!!こわ!



 家や店などの建物は周りに一切なく、この道の先にはただの草原しかないような街の外れ。

 灯りはもちろんなく、満月の明かりだけしかない。肝試しをするにはピッタリな場所だと言えるだろう。


 さっきまでは怖くないと思えていたけど、馬車を降りて実際にその場所に立ってみると寒気がしてくる。



「やっぱりちょっと怖いかも……」



 そう言って隣に立っているエリックの腕につかまると、思っていたのとは違う声が返ってきた。



「え……」


「え……?」



 見上げてみると、私がつかまっていたのはエリックではなくイクスだった。

 突然私に腕をつかまれて驚いたイクスが、少し戸惑ったようにこちらを見ている。



「あっ……ご、ごめん! エリックお兄様と間違えて……」


「大丈夫です」



 慌てて離そうとした手を、イクスにつかまれてしまった。



「イ……イクス……」


「怖いなら、ずっと俺の腕につかまっててもい……」


「えーーほんとぉ? じゃあ私、遠慮なく騎士くんの腕につかまらせてもらおーっと」


「…………」



 いきなり裏声の女口調で話し出したJが、わざとらしくイクスの腕にベッタリとくっついた。

 一瞬硬直したイクスは、無言でJを見つめたかと思うとものすごい勢いでその腕を振り回した。



「気持ち悪い!! 離せ!! クソ兎!!」


「なによー! いいって言ってたじゃない」


「その口調やめろ!!」



 Jとイクスがふざけ合っている横では、カイザが魂の抜けた顔で薄暗い通りを見つめている。

 肝試しに行く事が決定してから、カイザがやけに大人しくなっている。


 ギャーギャー騒いでいるイクスとJを見て、呆れたようなため息をつきながらエリックが命令した。



「1番最初はお前らでいいだろう。さっさと行って来い」


「えっ!? 本当に2人で行かなきゃいけないんですか!?」


「そう決めただろう。で、これはこの通りを歩くだけでいいのか?」



 イクスからの質問にあっさり冷たく返事をすると、今度はエリックがJに質問をした。

 Jはイクスの腕から離れて、通りの奥を指差してニヤッと笑った。



「この通りの奥に、大きな1本の木があるんです。そこをゴールにしましょう。……まぁ無事に女の幽霊に襲われずに進められたら……の話ですけどね?」



 暗闇で光るJの赤い瞳が、騒がしかった空気を一瞬で怪しい空気にさせる。

 思わず私とカイザはビクッと反応してしまった。



「……リ、リディア、いいい今ビクッとしてただろ!? 情けないな」


「……カイザお兄様こそ、私以上に驚いているように見えましたけど?」


「だだ誰が!!」


「……頼むから、怯えて抱きついてきたりはしないでくれよな?」



 私とカイザの会話に、ルイード皇子が入ってくる。

 カイザは必死に「そんな事しねぇよっ」と否定していたが、ルイード皇子は信用できないような視線を向けていた。



「じゃあ最初は僕と騎士くんのペアがスタートって事でいいかい?」


「どうぞ」



 Jの言葉に私とカイザが即答する。


 全く怖がった様子もなくヘラヘラ笑顔のJと、心底めんどくさそうな顔をしたイクスがその薄暗い通りに向かって歩き始めた。


 

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