肝試し〜1話〜
こちらは全5話となっております。
今日から毎日1話ずつ更新予定です。
「……そうして満月の夜に命を落とした女は、自分を殺した男に復讐をするため……夜にその道を通る男を襲うようになった。自分を殺した男だと勘違いして……。だから、満月の夜には決して男はその道を通ってはいけない……」
Jが赤い瞳をギラリと光らせながら怪談話を終えた。
今日は私、エリックとカイザ、イクスとルイード皇子にJというメンバーで、一緒にJのお店を貸し切って食事会をしている。
まぁ食事会なんていうかしこまったものではなくて、ただの宴会みたいになってるけどね。
そんな中、突然Jが怪談話を始めたのだ。
「男だと襲われちゃうってこと……?」
「そうさ。近づいてきて、まずは目を……」
「おい、クソ兎。リディア様を怖がらせるな」
私を怯えさせるようとしていたJを、イクスが後ろから口を塞いで止めた。
隣に座っているルイード皇子が、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「リディア、大丈夫?」
「お、おま……J!! いきなりそんな話するんじゃねぇよ!」
「カイザ。なんでお前がリディアより怯えているんだ」
真っ青な顔でガタガタ震えているカイザに、いつものようにエリックの鋭いツッコミが入る。
「お、怯えてねぇよ!! だだ誰がこんな作り話なんかで……」
「やだなぁ。作り話じゃないのに。本当ですよ? 確かめてみます?」
「は!?」
「なんと今日がその満月の日なのさ。だから、みんなでその場所に行ってみるってのはどうだい?」
Jが心底楽しそうにそう提案すると、カイザは石のように固まり、他のみんなは呆れた顔をした。
人一倍白い目をしたイクスが、すぐにその提案を却下させる。
「アホか。リディア様が行きたがるわけないだろ」
「そうだぞ。リディアの気持ちを優先してあげないと」
ルイード皇子がイクスの考えに賛同すると、Jは2人のいる方に視線を向けて「はぁーー……全く……」と、首を横に振りながらため息まじりに呟いた。
そしていつものヘラヘラ顔から急に真面目な顔に変わったと思ったら、声を低くして変にカッコつけながら語り出した。
「知らないのかい? 怖い場所に男女で行くと、恋に落ちるって話を」
「なに!?」
「暗い夜道……怖くてベッタリとくっついてくる女の子……。少しの物音に驚き、きゃーっと悲鳴をあげながら抱きついてくる……! そこで男らしく『俺がついてるよ』なんて言えば、女の子はすぐに恋に落ちるってわけさ」
身振り手振りで話すJの様子を、真剣に聞いているイクスとルイード皇子。
エリックもその話に耳を傾けているようだ。
カイザだけはソワソワしながらその様子を見つめている。
そして冷静にその光景を眺めている私。
……そんな話を女の子がいる前でされましても……。
それに、Jが肝試しがやりたいのは伝わってきたけど、そんなプレゼンじゃ誰も行きたいなんて思わないでしょ。
「よし! 行こう!」
「ええ!?」
何故かイクスとルイード皇子がほぼ同時にそう言った。
そして私とカイザが同時に驚いた声を上げた。
行くんかーーーい!!
ええ!? イクスもルイード皇子も、そういう女の子とのお化け屋敷的なやつが好きなの!?
意外! てゆーかこの中に女の子って私しかいないけど?
いいの? それで?
そんな事を考えていると、イクスとルイード皇子がいつの間にか私の目の前に迫ってきていた。
「リディア様、行きましょう。怖くても、俺がずっと隣にいるから大丈夫です」
「いや。ここは婚約者である俺がリディアと並んで歩くよ。だから安心して」
目の前には顔の整ったイケメンが2人。
騎士であるイクスは、焦茶色の短髪にキリっとした深い緑の瞳、端正な顔立ちのカッコいい系。
皇子であるルイード様は、銀の入った薄いブルーの髪に宝石のような大きなネイビーの瞳、アイドルのように可愛い癒し系。
ぎゃーーー近い近い近い!!! 眩しいっ!!
こんな2人に近づかれたら、平常心でいられませんけど!!
私が何も答えられずにいると、
「どちらも却下」
落ち着いているけれどどこか不機嫌そうな……ゾッとするような低い声が割り込んできた。
金髪で長めの前髪。サラサラなその髪の間から覗く薄いグリーンの瞳。絵本に出てくる王子様のような見た目のエリックが、無表情のままスッと私達の間に入ってくる。
「大事な妹がそんな事で恋に落ちてしまっては困るし、ここは兄である俺がリディアと一緒に行くとしよう」
冷静な態度から出ているエリックの冷ややかなオーラに、イクスとルイード皇子がぐっと言葉につまる。
その時、私達のやりとりを黙って見ていたカイザが口を挟んできた。
「おいおい。本当に行くのかよ!?」
「行くが……そんなに怯えているお前には、リディアと組む権利はないな」
「うっ……。お、怯えてなんかいないが、今回だけは譲ってやってもいいぞ!」
どう見ても青い顔をしているカイザは、腕を組んで強がって見せている。
やけに上から目線な発言に、エリックの眉が一瞬ピクッと反応した気がするが、そのままスルーしていた。
……私以上に怯えているカイザを見ていると、不思議と私は落ち着いてくるのよね。
英雄騎士と呼ばれている怖いもの知らずそうなカイザが、まさか幽霊系が苦手だったなんてちょっと可愛いけど。
カイザへの確認が終わり、エリックがチラリとJに冷めた視線を送ると、Jは笑顔のままビクッと肩を上げた。
「……Jは誰と組みたいんだ?」
「えーーと、できれば僕も女の子と一緒がいいんだけどー……その間に入って争うのは怖いので止めておきます」
「そうか」
脅した!!! 目で脅せるなんて、さすがエリック!
でも、そうなると……?
Jは店の奥に行ったと思ったら、3枚の細い紙を握って戻ってきた。
すごくニヤニヤしたいのをこらえているようで、全然こらえきれていない。漏れ出たニヤニヤ顔で現れたJに、イクスが冷たい言葉をかける。
「……気持ち悪い顔してるな」
「ひどいよ騎士くん〜! まぁいいけど。さぁ! クジを作ってきたよ! これでペアを決めよう!」
「これでペアを決める?」
ルイード皇子が3枚の紙をジッと見つめながらJに聞いた。
「やっぱりこういうのは2人ずつのペアで行くのが楽しいからね! この3枚には僕、カイザ様、リディの3人の名前が書いてあるから、そっちの3人で1枚ずつ引いてくれるかい?」
「Jとカイザとリディア……だと?」
エリック、イクス、ルイード皇子の顔が一気に青ざめた。
「アタリとハズレの差が酷すぎじゃないか……?」
「クソ兎と組むとか絶対にイヤなんですけど」
「なにがなんでもリディアの紙を引くしかないね……」
ゴクリ……という音が聞こえてきそうな緊張感が漂う。
3人は、それぞれ1枚ずつ紙を選んで指でつまんだ。
「同時に引くぞ……3、2、1……」
ルイード皇子の合図で3人はバッと紙を引き、すぐに書かれた名前を確認した。
私は別に誰でもいいんだけど……誰になったのかな?
名前を確認した途端、ルイード皇子は真っ青な顔で「カイザ……カイザ……」とブツブツ呟きだし、イクスは紙を床に叩きつけた後に足で踏み潰している。
Jが「僕を踏みつけないでよ〜」と言ってるので、おそらくイクスの紙にはJの名前が書いてあったのだろう。
と、いうことは……。
「リディア。俺がお前のペアだ」
「エリックお兄様!」
先程までの暗黒オーラはなくなり、王子様のように凛々しいエリックが私の手を取った。
読んでくださり、ありがとうございます。
番外編楽しく書いています。
8日……2話
9日……3話イクス視点
10日……4話ルイード皇子視点
11日……5話最終話
更新予定です。
よろしくお願いします。
楽しんでもらえたら嬉しいです。