双子とドラゴン
長編として書き始めた作品ですが、書ける気がしませんでしたので切れの悪い短編にしてみました。
―2人の赤子を抱きかかえながら森の中を全力で走る女性。
森の奥まで来た女性は立ち止まり木陰に2人の赤子を隠す。
「ごめんね…っ、弱い母親で。生き延びて、そして…幸せになってね」
赤子のおでこに祈りを込めるようにキスをした。
女性は立ち上がりまた走り出した。
追手に赤子が見つからないように遠くへ遠くへと離れて行く。
女性は涙を流しながら追い付かれないように全力で走ったが途中で小石に躓き転んでしまった。
頬や膝、手のひらにかすり傷ができた。
追ってきた鎧を着た兵に捕まり頭のフードを取られ髪の毛を引っ張られる。
「捕まえたぞ!もう逃げるのは諦めるんだな」
後から来た仲間の兵達も女性を取り囲むように立ち並ぶ。
女性は小さい声で呟いた。
「ごめんなさい…私の、可愛い子供達…」
―――
ここは人里離れた山の中。
冒険者と呼ばれる人種はともかく、一般の人なら絶対に入ってこない、
通称、ドラゴンの住む山。
ボクと双子の弟はこの山に住むドラゴンに山のふもとの森で拾われて育てられた。
母親の顔も父親の顔も知らない。
ボク達を拾ってくれたドラゴンにも聞いたけど見ていないと言っていた。
捨てるくらいなら殺せばよかったのに。
それとも殺せなかったのか…そんなこと考えたところで分かるはずもない。
だから親のことは考えないことにした。
それにボク達の親はたくさんいるドラゴンだ。
『姫、ここで何をしている』
「…ガルーダ」
ボクを育ててくれた炎を司るドラゴン、ガルーダが後ろから声をかけてきた。
「ちょっとボーっとしてただけ。…もしかしてもう時間?」
ガルーダに聞くとガルーダはああ、と頷いた。
時間と言うのは待ち合わせの時間のことだ。
ボクの双子の弟がこちらに遊びに来るのだ。
弟は10を過ぎた辺りからもう一匹の育ての親の住処へと移住した。
『もう来る、行くぞ』
「はーい」
ガルーダの背に乗り住居にしている小屋の方に移動する。
小屋の方に移動すると既に弟と水色のドラゴンが来ていた。
「姫ちゃーん!」
「王子くーん!」
手を振ってくれるからボクも振り返す。
『姫、元気そうでなによりだ』
「何言ってるのイルーダ。二日前に会ったばかりじゃない」
そう、弟と氷を司るドラゴン、イルーダは三日に一回ボクとガルーダの様子を見に来る。
過保護だと思う。
「姫ちゃん、ちゃんと面倒臭がらずご飯食べてる?」
「きちんと食べてるよ。王子くんこそ体調崩したりとかしてない?」
「大丈夫、僕もイルーダも元気にしてるよ」
どうしてボクと弟が「王子」「姫」と呼び合っているかと言うとボクと弟には名前がないからだ。
イルーダもガルーダもそして他のドラゴン達もボクと弟を「王子」「姫」と呼ぶからボク達もお互いをそう呼び合っている。
それにドラゴンが住んでる山に住んでいる人間はボクと弟しかいない。
「立ち話もなんだ、中に入れ」
「ガルーダ!」
小屋に入る時、ガルーダは人の形をとる。
それはイルーダも同じで人の姿に変化する。
ガルーダは長身で褐色の肌に赤い髪。
頭には赤いターバンを巻いている。
服装は肩だしインナーにスパッツを履いて腰には布を巻いてる。
イルーダも同じような格好でガルーダとは色違いだ。
イルーダは色白で水色の透き通るような長い髪だ。
ボクら双子も契約しているドラゴンに合わせてボクは赤色の物を身に着け、弟は水色の物を身に着けている。
小屋の中に入ると大きなテーブルと四つの原木椅子が二つずつ向かい合って置いてある。
キッチン側にボクとガルーダが座り、出入り口側に王子くんとイルーダが座った。
ガルーダがお茶を入れたコップを皆の前に置く。
「あ、そうだ。今日はねお土産があるんだ」
「何々?」
王子くんがショルダーバッグから何かを取り出した。
「これって…?」
「イルーダの元に届いた人間達からの供物!」
「…何故お前は人間達から好かれているのだ」
怪訝な目をガルーダがイルーダに向ける。
「知らん。私はただ定期的に人の村を襲う獣たちを排除しているだけだ」
それだな、とガルーダと姫は納得した。
イルーダが住んでいる地域はとても寒く冒険者も一般の人間もあまり訪れてこない。
だから寒い地域にいる獰猛な獣たちはイルーダ率いるドラゴン達が狩っているのだ。
その反対にガルーダとボクがいる山は熱いだけなので対策のしようがある。
だからこそ森や山にいる獣たちは冒険者たちに狩られ、たまにドラゴン殺しの名誉が欲しいがためにここに踏み込んでくる輩も少なくはない。
「イルーダと王子くんのとこは人間来ない分平和そうだね」
「ああ、そうだな。しかしお前らも変わらんだろう?」
「いや、最近は人間達の使う魔法も進化が見えて来ていてな」
「術を破る人もたまにいるよね。それが夜中とかだと本当最悪」
住処を荒らされないようにガルーダがUターンができる結界を張っているけれどたまに極たまにその結界を越えてくるやつがいる。
そういう奴らは大体足元に仕掛けてあるテレポートの魔法陣に引っかかり山のふもとに転送される。
が、その発動音が煩くて深い眠りについていても飛び起きてしまうほどなのだ。
「荒らされるの嫌いなくせに他人の住処は荒らしていくんだからムカつくったらありゃしない」
姫は呆れながらにため息をつく。
姫が疲れた様子で言い、それを王子が労っている。
イルーダが席を立ち、キッチンにいるガルーダに耳打ちをする。
「姫の姿は見られていないだろうな」
「ああ、認識されないよう魔法をかけている。そっちこそ王子の姿は」
「隠してはいるが時間の問題だろうな」
イルーダとガルーダは何かを案じている様だった。
もう少し話をしてから四人は解散する。
ドラゴンの姿に戻ったイルーダの背中に王子が乗り二人は住処へと帰って行った。
二人が帰った後ずっと思案しているガルーダに姫が話しかける。
「どうかした?ガルーダ」
「いや…、姫は人間の世界に興味あるのかと思ってな」
姫は首を傾げてキョトンとした表情で言う。
「ないよ?多分嫌いな部類に入ってるんじゃないかな。王子くんは分かんないけど」
「…王子は姫と我らドラゴン以外どうでもいいと思っていそうな」
「それはね分かる。でもボクは住処荒らされてるから嫌いかな。人の住む街に降りたいとも思わないから」
「まあ、そう思ってくれてる間は安心だがな」
本人に確認してもガルーダ及びイルーダの不安が無くなることはなかった。