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〈第5話〉にぎわいだした碧の洞窟

 一気に夏が来てしまった。年希のビーチは水着姿のおねーさんたちで大にぎわいだ。

 きっと水着姿のおにーさんたちもたくさんいるのだろうけど、全然記憶にとどまらないから不思議だよね。

 「碧の洞窟」は今ごろ、大変なことになっているだろう。

 なんせ明日からは中学校も夏休み。東京なんかからフェリーや飛行機で観光客たちが押し寄せてきて、もっとすごいことになるにちがいない。観光で食ってる島だから、しょうがない。これはホエールウォッチングの船を操る仕事をしていた、ひいじいちゃんの口ぐせだった。

 そう、ひいじいちゃんは観光客にクジラを見せてお金を稼いでたんだ。世界的に見ると、ホエールウォッチングってのはアメリカで始まったらしいんだけど、「日本で最初に始めたのはオレだ」ってのも、ひいじいちゃんの口ぐせだった。

 それはそうと、ザトウクジラを目の前で見たときの感動ってすごいよ。息が止まる感じがする。まあ、はっきり言って、ほとんどのお客さんはクジラは見られず、ただただクラゲやワカメを眺めて帰ることになるんだけれどね。

 ともかく、ひいじいちゃんがそういう仕事をしていたってことは、医者ではなかったってことだ。つまり、うちの診療所はひいじいちゃんじゃなくて、じいちゃんがつくったものなんだよね。

 だから僕が跡を継げば三代目ということになる。

 別に父ちゃんに医者になるよう言われてるわけじゃないし、母ちゃんに「将来は医学部よ」なんて決めつけられているわけでもない。それでも、なんだかプレッシャーを感じる。いくら小さなぼろい診療所といったって、最初にじいちゃんが建てたときにはものすごくお金がかかっただろうし、体は悪くなくても、診療所に来て、先生(つまり、うちの父ちゃん)と話をするのを楽しみにしている人もいる。

 ちょっと脱線しすぎた。そんなことはどうでもよくって、観光客がたくさん来て島が大変だ、って話。いや、それもどうでもよくて、ほんとに大変なのは、明日から夏休みなのに、陽月祭の寸劇の台本がまだ一行もできてないってことなんだ。

 寸劇委員の会合は結局、あれから四回も開かれたんだけど、毎回どうでもいいことをしゃべっておしまいだった。進展があったことといえば、委員長のあだ名がようやく定着したことぐらいだ。パセリで落ち着くかと思った僕の予想は外れて、いったんなぜかみんなブロッコリーを使うようになった。そこからやっぱり長いからと誰かがロッコリと省略しはじめ、結局ロッコになっちゃった。

 本人は「先輩」とつきさえすれば満足のようで「ロッコ先輩」と呼べば、普通に「な、なんだい」と返事をしてくる。

 ともかく、僕は明日、夏休み中も午前中は開いている学校の図書室に行ってみることにした。何か無理やりにでも台本のヒントを見つけようと思っている。



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