〈第39話〉ダウンタウンのごっつええ感じのゴレンジャイのパクりじゃんと言われたらいいえオマージュですと返そうと思ってるのにそもそも誰も読んでくんないから切ない
そこでまたのんきな吉谷の声が聞こえてきた。
「え?おれのこと?おれならまだここにいるよ。今、メロンパン食べてる」
しまった。固定マイクのスイッチを切るのを忘れてきたんだった。と思う間もなく、また観客席から笑いの波が押し寄せる。すかさず、
「アマイモノノタベスギ」
と返した。
「やかましわ!」
大きな笑い声が聞こえる。僕はもう最高の気分。緊張なんて全然しない。手を叩いて、体をくの字に曲げたお客さんまでいる。教室から持ってきて並べた椅子だけでは足りず、立っている人もかなりいて、ステージ前のスペースを埋め尽くしていると言っていい。群衆が一つの巨大な生き物のようにうごめいているみたいだ。
「ていうか怪人、何人おんねん。もうヒーローでも怪人でもええから、ほかに誰か舞台出てこいよ」
「カイジンハケッキョクオマエイガイデテコナイ。ソレカラブタイトカイウナ」
「セリフ長いねん。もうただ宇宙人がしゃべってるだけみたいになっとるやないかい」
ウケ続ける中、熊谷が(もういいぞ)というように小さく手招きしたのが見えた。
よし、いくぞ。今度こそ。
「とーーーーーーっう!!心臓レッド、参上!!」
大げさに飛び上がって、僕は舞台の真ん中に躍り出た。あらためて正面から、グラウンドを見下ろす。
大きな歓声と拍手と笑いが、衝撃となって僕の体にぶつかった。
空がどこまでも青く、まぶしい。
こんな風に見えていたんだ。
マイクなしでも、台本を見ていなくても、こんなに大勢の人の前でも、しゃべれた。
めちゃくちゃ気持ちいい。
「なんやジブン?心臓レッド?」
「ええい、だまれだまれだまれい!!」
台本にないセリフが自然と口から出てくる。
「この世の不健康を撲滅するためにやってきたヒーロー、おれたち五臓六腑レンジャー、けーーんざん!!」
「いや、どう見てもジブン怪人やないか、心臓の形して、気持ちわる」
次のセリフを言おうとするが、笑いの波が寄せては返し、少し待たなきゃ次の展開にいけないぐらいだ。
「なにーー!?黙れ、おれたち五臓六腑レンジャー、見参!」
「いや、それはもうええから。しかも一人やん、ジブン、五臓六腑レンジャーいうてんのに。てか、なに?五臓六腑レンジャー、って。気持ち悪いヒーローやな」
熊谷も完全に乗ってきた。
練習のときはセリフがちょっと長いかなと気になっていたのだけど全然そんなことはない。ばっちりだ。
やっぱり自分でやってみないと分からないことがあるんだな。そんな分析ができるぐらい、僕には余裕が出てきていた。
舞台袖の清花とブロッコリー先輩、木崎の笑顔が確認できるほどだ。
そこで熊谷が再びニヤリとした。
「ほんでジブン、さっきまでナレーションしてたやつやろ。声一緒やん」
なにーー!この期に及んでまだアドリブを入れてくるか。
早く返さないと。
僕は声色を女性のように高く上げ、叫んだ。
「わたしたち、五臓六腑レンジャーよ!!」
「やかましわ」
爆笑が巻き起こる。
「なにを今さら口調変えとんねん」
「うるさい。だいたいナレーションと一緒とか言うの反則だろう。人数のことも言うな。こんな田舎の中学校で五臓六腑そろうもんか」
よし。うまく台本通りの流れに戻したぞ。
心臓レッドと怪人カドノアルコールの見せ場はここからだ。
「いますぐお前を分解してやる。アセトアルデヒト光線で」
「いや、アルコール分解するの心臓ちゃうやろ。肝臓とかちゃうん?肝臓は出てけえへんのかい」
「・・・・・うるさい」
「うるさいだけかい」
三好が練習していたときの演技をイメージすると、うまくセリフが出てくる。台本通りだ。
「五臓六腑レンジャーがおれだけだと思うなよ。肝臓ブルーもちゃんともうすぐやってくるぞ」
肝臓ブルーという言葉が出た瞬間また会場がはじける。セリフの最後のほうは少し、観客の笑い声でかき消されたぐらいだ。




