〈第37話〉僕の出番が近づいてきて、鼓動が少しだけ速くなった
怪人カドノアルコールは、自動販売機で売られているようなカップの日本酒がモチーフになった格好をしている。
いや、モチーフというより、あのまんまを巨大にしたものを三好と木崎がうまく作ってくれた。商品名にあるアルファベットのOのところがくりぬかれていて、練習のときも熊谷がそこから顔を出すだけで笑えた。
お客さんの反応も上々のようだ。
いける!
「長いねん!ナレーションが!はよ登場させえよ。わしが怪人カドノアルコールや!」
どよどよとした雰囲気の中、歓声と拍手まで起きている。
「それからナレーションが最後に言うとったオサケノノミスギー、わしとキャラかぶっとるやないかい」
客席からは「どはは」という野太い声が聞こえた。お酒好きのおじさんも笑ってくれているのかもしれない。そんなことを分析できる冷静な自分に僕は気づいていた。
熊谷が「わしらは悪の組織」と言いかけたのをさえぎるように僕は「マダナレーションノトチュウ」と言った。
笑い声が起きた。
やった!ウケた。
僕が考えた台本を僕が読んでウケた。さっきから、やった!としか思ってない気がするけれど、 ほんとうにやった!
「なんや、マダナレーションノトチュウ、って、怪人の名前か?」
「ウルサイダマレ」
できるだけ怪人の名前を呼ぶように、イントネーションに気をつけながら、読み上げていく。「くすくす」や「ふふふ」といったざわめきも、大きな「どはは」という笑い声とともに体に伝わってくる。
「なんやうるさい黙れって。怪人の名前紹介するみたいな感じで会話してくなよ。ナレーターが!」
ここで一気に会場がはじけた。
お客さんの姿は見えないけれど、ニコニコ顔がステージを見上げているのがありありと想像できる。
ここからは熊谷とナレーションの掛け合いで一気にたたみかける場面だ。
来い、熊谷。
「ほんで、さっきから怪人の名前紹介するだけで、わし以外、誰も出てけえへんやないかい。ほかの怪人も出てこんかい」
「ヒトガタリナイ」
「そんな裏事情はええねん。もうええ、ナレーションは。じゃあ、はよヒーロー出せや。ヒーローを!」
僕の出番が近づいてきた。少しだけ鼓動が速くなる。
固定マイクから離れ、ハンドマイクのほうを手に取り立ち上がり、僕は舞台袖への移動を始めた。




