〈第33話〉心臓レッドの心臓の音が、尋常じゃないボリュームで聞こえだしていた
三人が代わる代わる説明をした話をまとめると、つまりは三好が足にけがをしたということらしい。
早朝、一人で美術室から舞台背景の絵を運ぼうとしたときに、重たい荷物を足の上に落としてしまったそうだ。
「そんな重たい荷物なんてあったっけ?だいたい絵は一人じゃ運べないだろ」
僕の質問にも「今はそんなこと言うてる場合とちゃうやろ」と熊谷は取り合わない。
「ともかくケンヂ先輩がナレーションと心臓レッドやるしかないですよ。時間もないですし、衣装に着替えてメイクもしましょ」
清花もなんだかすごい気迫をみなぎらせている。
「いや、まずは三好の様子を見に行ったほうがいいんやない?どこにおると?足けがしたぐらいやったら舞台出られるかもしれんやん」
さっきから自分の心臓の音が尋常じゃないボリュームで聞こえだしていた。鼓動が大きすぎて、体が揺れてしまいそうだ。
「ええかげんにせんかい」
熊谷が机を両手の平でドシンとたたく。
「つべこべ言わんとジブンが出たらええねん。三好はぎりぎり出られへんぐらいのケガやねん。長瀬診療所に行ったんちゃうか」
「ばっ!ほんとや?そげんだったら様子ば見てくるばい」
心臓の動きがますます激しくなっただけでなく、声がかすれ、視界がかすむ。
僕に舞台に出ろだって?
正気なのか。
熊谷の「出えへんかったらヒンシュクやで」という声も遠くから聞こえる気がする。清花も「メイクしましょ」とか「木崎先輩が待ってます」とか繰り返し言ってきているようだが、僕の体の周りに何か透明の膜が張ってしまったようだ。
二十人ちょっとのクラスのみんなの前で話をするのにも勇気をふりしぼっているというのに、陽月祭の寸劇にはいったいどれだけのお客さんがくると思ってるんだ。
「だいたい練習もしてないのに、できるわけなかろうもん」
精いっぱいの主張をしてみる。
「い、い、いや。ケンちゃんならできるよ。じ、自分で書いた台本なんだし、だ、だ、だ、誰よりもみんなのセリフを読み込んできたのを、ぼ、僕は、ちゃ、ちゃんと知っているよ」
つっかえつっかえながら、いつにない熱のこもった口調でブロッコリー先輩が言った。
「そんなこと言ったって・・・」
「ケ、ケンちゃんが、ぶ、舞台に出ることを、た、楽しみにしてる人もい、いるんだよ」
「だ、誰ですか」
僕まで、どもってしまっている。
「そ、そ、そりゃあ。お父さんとか、お母さんとか。じ、自分の親が、そ、そんな風に、た、楽しみに見に来てくれるのは幸せなことだよ」
妙にしんみりした口調に、僕は黙り込んだ。




