ライクシェイプ。
ドアノブに手をかけて開いたドアから部屋をのぞいた。
「すきだよー、りくちゃん」
朝。寝癖のついた髪の毛。
肩に届きそうなくらい伸びている。
着替え中だったみたいで上半身は何も着ていなかった。
「うるせー」
いつもどおりの挨拶。
小さいころはすきだよって返してくれたのに。
「りくちゃんのばかー」
ドアを思いっきり閉めた。
居間からお母さんの怒った声がしたような気がした。
それはそうと同じお腹から出てきたのにこんなに違うのが不思議だ。
最初は一緒だった。
好きな食べ物、嫌いな食べ物。
部屋も一緒で、寝るのだって。
いつからこんなに離れていったんだろう。
確かに周りからは思春期と言われる時期なんだろうけど。
ドアが開く音。中から着替え終わった彼が出てきた。
「お前まずちゃん付けやめろ」
昔は優しくって可愛かったこのひとはもうあたしを否定することしかしない。
それでもあたしは好きなんだけどな。根は優しくって、それにかっこよくなって。
「なんでー? りくちゃんって可愛いもん」
それに、離れていく彼を引き止める唯一の言葉だから。
これは言わなかったけれど。
「お前ほんと昔っから変わんねーな」
離れたくないのに。今までずっと一緒だったのに。
そんなことに全く気づいてくれない彼はさっさと階段を降りて居間に行ってしまった。
「変わんないのの何が悪いの」
小さい声でつぶやいた。彼には聞こえなかったみたいだ。
彼の足跡を追いかけるように階段を降りた。
「家ではいいけど、さすがに学校では勘弁」
椅子に腰掛けて、右手にはサンドイッチ。左手にはリモコン。視線はテレビ。
もう視線さえ合わせてくれないのかと思う。
「そんな適当な態度じゃ嫌ですー」
自分がわがままなのは分かってる。
けどそれは彼のせい。あたしを置いていって勝手に変わっていくから。
気づけば彼の手にはサンドイッチもリモコンもなくて、腕を組んでいた。
視線はこっち。気のせいか怒っているように見える。
「ちょっとこい」
どうやら気のせいではないみたいだ。声が低く暗かった。
静かに居間を出て行った彼を追いかける。
階段を上って行く彼の後姿は知らないひとみたいだった。
「入って」
いつもなら絶対に自分からは入れてくれない彼の部屋。
やっぱり、怒ってる。
「りくちゃん、怒ってる?」
部屋の真ん中に立たされて、まるでいたずらした子供みたい。
ゆっくりとドアを閉める音が寂しく響く。
「だからちゃん付けやめろ」
「う、ん」
こんなに怒ったことはきっと今までに一回もなかった。
本当にあたしの知らないうちに変わってしまった。
「あんま怒ってないから、とりあえず聞け」
「あ、んまり……?」
声はいつもどおりに戻ったけどやっぱり怒っているらしい。
彼はため息をついてベッドに腰掛けた。
「いいから聞け。俺らは双子だ。だからある程度仲がいいのは分かる」
「うん」
彼の視線は真っ直ぐあたしの目をとらえていた。
急に恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「ただいつまでもその態度だと勘違いされる」
「かん、ちがい?」
彼の顔はいつの間にか笑顔になっていた。
こんな顔みたの、久しぶり。
「だから、さあ……。まあ、その、あれだ、兄妹なのに、付き合ってる、とか、なんだか」
だんだん声が小さくなっていくから笑いを堪えられなかった。
「あははっ、やっぱりりくちゃんも変わってないね」
「お前なあ……。とりあえずちゃん付けはやめろ」
優しくて可愛い。あたしの、だいすきなりくちゃん。
変わっていったのはあたしのためだった。
「そういえば、最近、名前で呼んでくれない」
オンナノコが得意な上目遣い、はあたしは出来ないから、彼を真っ直ぐ見て言った。
あたしも変わっていってしまおうかな。もっともっとわがままに。
「……。ななみ」
彼は少し寝癖がついた髪の毛をかきながら言った。
こういうときには視線は逸らしちゃうから、ずるい。
「なに?」
「……呼んだだけ」
視線だけじゃなくて今度は頭ごとそっぽを向いてしまった。
昔からの癖。やっぱり変わってない。
変わったと思っていたのは気のせいだったのかもしれない。
「ありがとう、だいすき、りく」
「ん」
きっと誰も知らない。
付き合うとかそんなことじゃない。
あたしの、あたしだけの。
すきのかたち。
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お付き合いありがとうございました!
二作目ですが、ペース、遅い! すいません。
一度書いてみたかった双子のお話です。
やっぱり表現がイマイチです。難しい!
これからもたくさん書いていって勉強したいと思います。
本当にありがとうございました!