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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

現実からの逃避行の旅

現実からの逃避行の旅 B

作者: 川理 大利

この小説は、現実からの逃避行の旅 Tの関連小説となります。先に現実からの逃避行の旅 Tを読んでから読むようにしてください。

 反対側のドアに移らなかったせいだ。降りるタイミングを逃してしまった。降りる人の流れが途切れると、人がたくさん乗ってきた。絶対に降りたいというわけでは無かったのでよかったのだが。大都会名古屋だ。1人で好きに街を歩きたかったと思い、降りてみてもよかったなと後悔する八代だった。そして、誰かの視線を感じて後ろを振り向くとホームには八代がいた。完全に八代だった。思わず驚いてしまったが気のせいだと思うことにした。あれは幻覚だと思うことにしてドアの方を向き直す。もし、名古屋駅で降りていたらどんな未来が待っていたのだろう。今となっては分からない。でも、分かりたくもない。


 ガタンゴトンと、心地好い音を鳴らしながら電車は進んでいく。新幹線と比べてしまうと遅いが、しかし確実に進んでいく。どこへ向かっているのかを知らなくてもいい。ただ、どこかへ逃げたかった。ひたすらに逃げたかった。現実から。くだらないくらい、憎んでしまいたいくらい、弱い自分から逃げたかった。八代はただそれだけでここまで来たのだ。気づけば電車の外の世界は完全に暗くなり寂しさが漂っていた。


「次は、大垣。大垣。終点です」


 人もだいぶ少なくなった車内にアナウンスが流れた。どうやらもう終点らしい。ここから先どうするか……何も考えていなかった。ただ、逃げる。逃げてそこから先は……。逃げる。ただ逃げる。それだけだ。


「間もなく、大垣に到着いたします。降り口は右側です」


 ピンポンピンポンという音とともにドアが開き八代はホームに出る。周囲はもう暗く明かりは建物から漏れる光と街灯の光のみであり、周りがどのようになっているのかを知ることはできない。ここから先どうしようかと迷い結局、駅で次の電車を待つことにした。


 やがて、電車が来たがその電車の行き先は美濃赤坂となっている。出発まで時間があるようなので、一旦改札から出て路線図を見たところ二駅行ったところで終点となっておりそれより先へいく路線は無いようだ。しばらく路線図を見て行き先を決めた八代は改札を通りホームへと戻った。美濃赤坂行きの電車を見送り、電車が来るのを待つ。目的の電車はいつ来るだろうか。まぁいいかと八代は思った。ただ、ひたすらに、目的の電車が来るのが待つだけだ。そして、次来た電車である米原行きの特別快速に乗り込んだ。


「この電車は、米原行き特別快速です。次は、垂井。垂井です」


 あと、どれほど行けば米原駅に着くのか。いや、そもそも米原駅に着いてもまた別の電車に乗る必要があるのだ。気がつけば鞄からスマホを出して眺めていた。そして、電源は切れた。充電が無くなったのだ。もういいかと思った。どうせ……。


 これまで長時間乗っていた快速より速いであろうスピードで米原行き新快速は進んでいく。それはまるで一筋の光のように、ただただとてつもないスピードで目的地へと向かっていく八代とは正反対の存在だった。


 八代は昔から言いたいことが素直に言えなかった。周りに話を会わせて生きてきた。だから、就職しようと思ったのも本心からではなかっただろう。ただ、楽そうだった。それだけで決めたのだ。夢を置き去りにして就職試験を受けた。そして、その結果が今の八代だ。


「無様だな……。でも、もういいんだ」


 全て……全て、自分のせい。だから誰かが八代を責めることはできない。ただ自分が嫌いだった。何度も何度も自分で自分を責めた。もう、いいや。


 やがて、米原に着いた電車を降りて乗り換えてその電車で目的地の近くにある駅で降りてバスに乗る。そのバスは既に最後のバスだった。もう、決して戻ることの無い片道切符だ。整理券を握りしめてバスが目的地のバス停に着くのを待つ。何も怖くない。そう、怖くない。だって、もういまさら戻れないから。戻るわけにはいかないから。ここまで逃げてきた意味が無くなっちゃうから。やがて、バスは目的地へと着いた。日本で一番大きい湖の上を横断する橋だ。


 八代は、バスから降りるためボタンを押した。すぐにバスはバス停に着き停まる。整理券と共にお金を入れるとバスを降りた。さすがに時間が遅いからか、車はもう通っていなかった。時間を確認したいと思いスマホを取り出し、電源を付けようとするも付かない。鞄のなかに何か時間が確認できるものがないかと探していると、腕時計があった。探したときは見つからなかったはずなのにあった。青色のアナログの腕時計だ。腕時計の電池は既に切れており、12時25分を示して止まっていた。12時25分。どこかで見た覚えがあるが思い出せなかった。そして、腕時計。誰にもらったのか。なぜ、鞄のなかにあるのか。いや、この腕時計は……。まぁ、いいか。もう済んだことだ。あの少女と出会ったことも、あの約束も。


 八代は、高いところへと橋に据え付けられている歩道を歩いた。橋は長かった。そして、一番高いところまできたとき鞄を置いて柵を飛び越えた。背中を下にして落ちたためか橋がどんどんと遠ざかっていく。もう、未練はない。もうこれで全てが終わる。


 水面に落ちた直後、八代の体をとてつもない衝撃と痛みが襲った。そして、痛みのあまり意識が薄れていった。八代は薄れ行く視界のなかで安堵を覚えた。良かった。失敗しなかった。この後、どうなるかなんて考えなくていい。もう、死ぬのだから。


 八代が逃避行の果てに決断したのは自ら命を絶つことだった。しかし、数日後八代が見たのは白いベッドと天井だった。

Bad Ending 逃避行の末


読んでくださりありがとうございます。

朝に投稿するにはテーマが重かったので夜に投稿しました。名古屋駅で降りるか降りないか。それ1つで運命は変わってしまいました。

どんなに辛くても自殺はしてはいけないと作者は思います。たまには、逃げ出しても良いんじゃないんでしょうか。


最後に1つ。あと一作品ありますがそちらは、現実からの逃避行の旅 Tの続編です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ある地点からの八代の行動によって物語が分岐する……。あまり他では見ないジャンルですね。 とても面白かったです。 [気になる点] 初めから短編の三部作で投稿する予定みたいでしたが、この…
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