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少年と悪徳商人

作者: 太祥太

「さぁさぁ、お立ち寄りください。本日のみの特価品だよ!」

男の声が通りに響く。此処はとある国の一都市の中央から少し外れた通りだ。そこでは、一人の30代前半の特に何の特徴もないような男が商売をしていた。男が話す内容からすると、彼は行商人で様々な品を扱っているようでそこそこ客もいる様だった。

彼の商売の様子を観察してみよう。


奥様「あら、行商人さん。今日はどのような商品が入りましたか」

商人「奥様、いらっしゃいませ。そうですね、それではこちらの商品はいかがでしょうか。こちらは吸い取り紙という商品でして、ボックス・ティッシュ氏が開発なされた画期的な一品なんですよ。使い方はいたって簡単。箱の上から出ているこのペラペラの紙を取って、汚れや濡れてしまった部分を拭くだけでおや、綺麗になる優れものでございます」

奥様「新商品、なのですか。それでは価格の方は…」

商人「はい。これ一箱で200枚、今ならこのホウキもお付けいたしまして、な、なんと!25ペリルです!」


ちなみにホウキ一本平均10ペリルである。吸い取り紙自体は3箱で25ペリルで売られていた。

そして、ボックス・ティッシュなんて人間は商人も知らない。


次の客が来たようだ。

商人「そこの旦那!家の商品見ていってくれないかい」

男「まあ、見るだけなら」

商人「旦那は見たところ、旅人さんかい?」

男改め旅人「ああ、そうだ」

商人「旅のお供にこれなんてどうだい?きっと役立つぞ」

旅人「これは、革でできた袋か?」

商人「そうだ。しかし、ただの袋ではないぞ。なんと、ミニゲートラガルトの皮で職人が手間暇かけて作った一品物なんだ。なんといっても、頑丈で、そしてとある魔術士が魔術を付与しているのでいくら物を入れても重くならない!」

旅人「ふむ………旅には有用そうだがいかんせん手持ちがあまりない」

商人「おや、そうかい。良ければ予算の範囲内を教えてくれないかい。こっちも勉強するよ」

旅人「そうだな………他にも買う物はあるから300~600といった所か」

商人「それなら交渉成立だ。旅人さん。その袋は480ペリルだよ。それと旅人さん、消耗品の方はどうだい?今なら安くしておくよ」

旅人「480ペリルか。それなら買おう。消耗品はそうだな、日持ちする食糧と後は布、ロープを探そうと思っているが」

商人「旅人さんは運が良いね~。ちょうど良い品が入った所だよ。まずはロープ、今扱っているのはこの二つ、ヅダから作られたものとブラッドタランチュラの糸を集めたものだよ」


ヅダは植物で葉をほぐし、結えば結構頑丈な紐状になる。比較的安価である。ブラッドタランチュラは、でかい蜘蛛のことで魔力が付与され、頑丈になった糸を作るのだとか。


旅人「それぞれいくらだ」

商人「ヅダの方はこのぐらいの長さで10ペリル。ブラッドタランチュラの方は、同じ長さで23ペリルだ」

旅人「ふむ、ではブラッドタランチュラの方をその2本分くれ」

商人「まいどあり。次は布だな。旅ならこの辺りか」

旅人「ふむ、そうだな………この麻布は?」

商人「それなら1枚6ペリルだ」

旅人「なら、10枚程買おう。後はこっちの布は……キャタピラー系か」


キャタピラーとはでかい芋虫で食べる物により、吐く糸の色が変わり、それらの糸の多くは布にされ、使用される。なおキャタピラーは温厚な性格をしているため、良く人に飼われている。それの多くは糸を目的としていたり、食用として飼われているが中には愛玩目的に飼う者もいるようだ。後、食用されるがその味は……好きな人はとことん好きな味である。それと栄養豊富だ。


商人「そっちは1枚10ペリルだな。」

旅人「それなら5枚くれ。」

商人「まいどあり。後は食糧だな。」

旅人「そうだな。何かあるか?」

商人「今なら………そうだな、干し肉に堅パン、塩ならあるが」

旅人「20日分でいくらほどになる?」

商人「950ペリルでどうだい?」

旅人「それなら買おう」

商人「飲み水はどうだい?」

旅人「何がある?」

商人「黒バクの皮を使ったものと白バクの皮を使ったものがあるよ。黒バクの方は20日分で600ペリル、白バクの方は900ペリルだ」


黒バクと白バクとは、この国ではよく飼われる家畜だ。どちらも食用や皮が道具に利用される。味は白バクの方が良い。しかし、白バクは飼うことが難しい。基本、臆病で力強いため、刺激すると暴れ、被害が大きくなりやすいためだ。

皮では、黒バクはよく水筒や雨避けに利用される。白バクは、黒バクに比べ、価値が高くあまり見かけられないが水筒に利用される。白バクの皮は黒バクに比べ、保温性に優れている。つまり、いつでも冷たい水を飲むことができるのだ。


旅人「あー、それなら…黒バクの方をくれ」

商人「まいどあり」

それで旅人は去っていった。


商人の男は周りを見渡し、誰も聞いていないことを確認すると呟いた。

「これでいいのかね。希代の変人さん」


商人は以前、とある魔術士と知り合った。その魔術士は周りから希代の変人と呼ばれていた。

商人は町から町に移動する際に道中の山にて遭難した。ソウナンです。いやはや大変でした。

兎に角、遭難した商人はそこでその変人と知り合い、目的の町までたどり着いたのだった。

商人は助けてもらう代わりにある約束を変人とした。それは、旅で手にいれた珍品やら呪われた道具やらを変人にまわす、というものだった。変人はとある魔術陣を渡した。それは、変人の元に品を送る転送の魔術陣であった。


商人はあるとき、気付いた。あれ、これを利用すれば俺に損なく、約束を果たせるんじゃね?と。商人は、袋にその魔術陣をつけ、売った者が何かしら入れれば転送されるのでは?と考えた。結果的にそれは大成功した。変人には借り物である、などと伝え、最後は送り返してもらう様に言い含めたのだった。


現在に戻ろう。商人はそろそろ店じまいをしようと片付けをしていた。すると、そこにみすぼらしいボロボロの衣服の様な布を纏った少年が来た。

少年「その、すいません!水や食べ物を売ってくれませんか」

商人「ふん、金はあるのか」

少年「い、今はこれぐらいあります」


少年はあかぎれや傷の多いその赤い手を差し出した。その手のひらには、数枚の10ペリル硬貨があった。


商人「それなら、これだけだな」

商人はそう言い、正直、売り物?と思う程の代物を投げ渡した。それはカビたカピカピのパンや何かデロッとした野菜?などと後、何か小さな瓶だった。

少年「あ、有り難うございます」

商人「ふん、金をだせ」

商人は硬貨を受け取ると片付けを再開した。


少年「その、この小瓶は……」

商人「ああ、それは何でもいくらでも飲める魔法の小瓶だ」

少年「そ、そんな凄い物を」

商人「ああ、お前を見ていたらやっても良いかと考えた」

少年「あ、有り難うございます!」


なお、小瓶は特に何の変哲もないただの瓶である。もちろん魔法なんてかかっていない。何でもいくらでも飲める、ということは、それを入れれば、という大前提が抜けている。

小瓶は、商人が取引の際、対価がないと代わりに受け取ったものだった。


少年は品物を大事に抱え、去っていった。

商人「………くくっ。あのガキはどんな反応をするのかねぇ。おっと、さっさと片付けるか」

商人はその場を片付けると、宿に戻っていった。


少年は品物を大事そうに抱えながら自分の暮らす……住居?家?…壁と屋根がある所に戻った。

少年「ハァハァ、ただいま。母さん!」

すると、布にくるまって寝ていた影が起き出す。

母親「うっ、ハァハァ。お帰り、ハル」

母親は大変やつれており、体を起こすのもつらそうであった。

少年「駄目だよ!母さん。寝てて。ほら!ご飯は買ってきたから。それだけじゃなくてこれ、魔法の小瓶なんだって!何でも飲めるんだよ」

母親「ハァハァ。………フフッ、ハルそれはね………」

母親は、少年に商人に担がれたことを教えた。

少年「ごめん、なさい。グスッ」

母親「ああ、ほら、泣かないの。魔法の道具ではないけれどこんなに綺麗な瓶をもらったんじゃない」

少年「うん、……ごめんなさい。ありがとう、母さん」

母親「フフッ。じゃあ、ご飯にしましょうか…………うっ!」

母親が突然倒れた。

少年「どうしたの!母さん!返事をして!」

母親は返事をしなかった。

少年「待ってて!母さん、お医者様を呼んでくるから」

少年は駆け出した。


バンバンッ!少年は扉を力の限り叩く。

医者「なんだ。…ハア、スラムのガキか」

少年「お医者様!母さんを、母さんを助けて!急に倒れたんだ!」

医者「ハア、おい、ガキ。つまらないことで扉を叩くんじゃねぇ。それに、てめぇ金は払えんのか?」

少年「今は無理だけど………でもいつかは!」

医者「んじゃ、無理だ。てめぇがおっちぬ方が早ぇ」

少年「そんな!お金は何とかしますから!」少年は医者の足にしがみつく。

すると、医者は少年を振り払い、叫んだ。

医者「うるせぇ!二度と来るんじゃねぇ!」医者は扉を思い切り閉める。


少年は少しの間、扉に向かって叫んでいたが、走り出した。どうやら、他の医者の所に向かう様だ。

しかし………



道の真ん中で少年が蹲っていた。少年は他の医者を訪ねてみたが全て断られてしまった。

少年「うう、母さん、ごめん、ごめん、…」

その時、ガラガラという音が響いた。馬車の様だ。

すると、豪奢な馬車の姿が見えた。馬車はそのまま、走っていたが少年の近くに来ると止まった。


馬車から何人か降りてきた。先に進むその人物は……美しい、少女であった。

少女「あの、そこで倒れているキミ、何があったの?」

少年は少女の姿に見とれていたが、慌てて、母親のことを話した。

少女「そうなの。大変だったわね。………私の父もお医者様なの!良ければ頼んでみない?」

少年「有り難う、ございます。……ですが、お金が…」

少女「お金なんて、いらないわ」

そこで周りにいた人が少女に言った。

従者「いけません、お嬢様!見返りも無しに助けては他の患者方にしめしがつきません!」

少女「本当にいらないのに……ねぇ、キミ!本当に何も持っていないの?」

少年は考えた。お金はもう、ない。物もない。あるものといえば先程買った、食料品?だけだった。そこで少年は思い出す。あの小瓶を懐に入れていたことを。

少年「あの、出せる物といったら、これだけしか……」

少女「あら、綺麗な小瓶!……あれ、これって………ねぇ、持って見ても良いかしら」

少年は小瓶を渡した。


少女は周りの人と話した。

少女「ねぇ、この小瓶って」

従者「はい。もしや、これは………ですが、なぜこんな物をあのような子供が持っていたのでしょうか」

少女「そうね。……ねぇ、キミ、これは何処で?」

少年は、商人のことを話した。

少女「ひどい話ね………ええ、これなら大丈夫よね」

従者「はい。……大丈夫である、と判断いたします」

少女「良し。キミ、お母さんの元に案内して」

少年は最初何を言われたのか、分からなかった。だが、徐々に意味が分かると喜色をその表情に浮かべた。


少女の馬車に乗せてもらえ、母親を少女の父親の元に連れていってもらった。

少女の父親は良い人で、事情を聞くと直ぐに治療してくれた。

少女「キミ、良かったわね」

少年「有り難うございます!………その、貴女のお名前は」

少女「ああ、ごめんなさい。私はフローラよ。貴方は?」

少年「す、すいません。僕はハルと言います」

少女「よろしく、ハル。ねぇ、本当に良いの?あの小瓶を手放して」

少年「はい。大丈夫です。その、あの小瓶ってそんなに良いものだったんですか」

少女「あの小瓶はね、今は既に失われた製法で作られていて、凄い高いのよ。本当に良いの?」

少年「そうだったんですか。いえ、大丈夫です」

少女「ハルは欲が無いわね。……はい、これお釣りの5000ペリル」

少年「えっ。お釣りなんていりません!」

少女「良いから。あの小瓶はね、8000ペリル以上の価値があるの。父の治療は大体3000ペリルだから、お釣りは当然なのよ」

少年「でも、……」

少女「大丈夫よ。どうしても、と言うのならそれで良い生活をして、大人になったら、私の役にたちなさい」

少年「………はい。分かりました。頑張って、貴女の役に立ちます」

少女「フフッ。その時はよろしくね、ハル」


結果、母親は助かった。少年は少女との約束を守るため、体を鍛え、色々な人に話を聞き、多くの知識を得ようとした。




―――――十数年後、とある都市で大々的に結婚式が行われていた。新郎は数々の偉業を成し遂げた『勇者』と呼ばれる男性で、新婦は数多くの病人やケガ人を救った『聖女』と呼ばれる女性だった。勇者と聖女の結婚を多くの人が喜んだ。

市民「勇者様バンザーイ!聖女様バンザーイ!」

市民A「やっぱり凄いよな、勇者様は!スラムの出身なのに腐らず、学んで、今では立派なお人なんだから」

市民B「それよりも知っているか!勇者様と聖女様が知り合ったのは、幼い時からなんだとよ!」

市民C「もちろん知っているわよ!昔からお互いを想い合っていたってことなんだから!」

市民一同「めでたい、めでたい!」「勇者様バンザーイ」「聖女様バンザーイ」「お二人にバンザーイ」「末永くお幸せにー!」


新婦「貴方と出会えて良かったわ。貴方を騙したクズ商人には感謝してもし足りないわ」

新郎「感謝しなくても良いと思うけど………でも、あれが無ければ君と出会えなかったんだよなー」

新婦「それにしても、まさか、道で出会ったあの子とこんな関係になるなんて思わなかったわ」

新郎「アハハ、僕もだよ。でも、僕はさ、多分、あの時から君のことが、好きだった、と思うんだ」

新婦「ハァ、そこで多分とか、思う、って言わなければ格好良いのに」

新郎「アハハ、ごめん。でも、それが僕……」

新婦「でも、それが貴方なのよね。そんな……肝心な所で決まらないけど、直ぐに嘘を信じる貴方だけど………どんな時でも決断できて、人を信頼し、信頼される、そんな貴方のことが昔から好きよ………ハル」

新郎「……うん。僕も昔から好きだよ。ふ、フローラ」

新婦「フフッ、そこで、つっかえるなんて、如何にも貴方らしいわね」

新郎「アハハ、ごめん。………フローラ、僕は、君を幸せにする、なんては言えないよ。でも、笑顔を見たいと思うし、そのために頑張ろうと思ってる。だから、……僕と、結婚して下さい」

新婦「今は結婚式の最中なのに………それに、片方が片方を一方的に幸せにする、何て出来ないわ。だから、……一緒に頑張っていきましょ、ハル」

新郎「うん。そうだね、フローラ」

そう言って二人は笑い合い、どちらともなく近づき、そして…………二人は口付けをしたのだった。




その後の二人は幸せに暮らしたと伝わる。数々の偉業を成し遂げた勇者を騙した、かの商人は実は聖女と出会わせる為に一芝居うった神であった、と伝わっている。




神様「え、イヤイヤ、チガウ。あの商人はただの詐欺師だから。」



こうして、尊い神の犠牲を払いながらこの話は終わったのです。めでたしめでたし?

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