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アホ様。それっぽい事を仰せられ申す

「これはこれは大賢者様。お目通り叶いましてありがとうございます。さて、これが先日我が国の騎士団の調査隊がエルフの古代遺跡で発掘した謎の石板なのですが……」


 西の王様はうんたらかんたら言うておったけど、途中からさっぱり耳に入らんかった。

 だってワシおじいちゃんだもん。長い話聞くの大変なんじゃもん。


 長々とした説明が途切れたのを見計らって、ワシはドーナちゃんにお願いした。


「ふむ……メイドーナよ。石板をこちらへ」


「ハッ!」


 ドーナちゃんが石板を渡してくる。


「ふぅむ……」


 石板を見つめる。全く見た事のない文字が掘られとる。

 ふぅむ、わからん……さっぱりわからん……

 手に取ってみたらなんか奇跡が起きないかなと思ったけどそんな事はないな……


「しばし待たれよ」


「ははーっ!」


 時間を稼ぐために何か調べるフリをして奥の部屋に引っ込む。

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴ


 備え付けの魔導マッサージチェアに座って石板を眺める。


「なんでワシに聞いてくるんじゃろ……おるじゃろ、他に。なんかそういう方面の専門家とかが」 


 まぁ、すごい魔法使いなのは否定せんけど、それって頭の良さと関係ないじゃろ……


「魔法……解読の魔法とか持ってると思われとるんかのう……いや。ちょ、待てよ。魔法?」


 そうじゃ。魔法とはちょっと違うけど、この世界に来た時に授かったもんがあるじゃろ。

 ワシは閃いて石板に手をかざした。


「チート能力……異世界言語!」


 これは、こっちの世界に来た時に神様からもらったオマケのような能力で、異世界の言語が自動的に翻訳されると言う代物。

 古代エルフ語も異世界っちゃ異世界じゃからこれでなんとかならんじゃろうか。

 

「おぉ! 読める。ワシにも文字が読めるぞ! えぇ~っと、どれどれ?」


『燃えるゴミは月木。燃えないゴミは水曜日でお願いします。最近、ユニコーンの糞が散見されて掃除当番の人が困っています。この集落はペット禁止ですので、ルールを守ってくださいね』


「回覧版か!」


バシィン!


 ワシは石板を地面に叩きつけた。


「回覧版か!」


 大事な事じゃから2回言った。そう、謎の石板はただの回覧版じゃった。



「なんで!? なんでこんなクソ硬い石にわざわざ手彫りでゴミ出しの日伝えとるの!? エルフ族どんだけ暇なんじゃ!?」


 はー、もうヤダヤダ。不老長寿とかボケ老人大量生産するだけで地獄絵図になるわのぅ。エルフは滅ぶべくして滅んだのかもしれん……



「あー、これ回覧版でしたって言ってもあいつら納得せんじゃろうなぁ……またまた御冗談をとかなんだのとぬかしおって……」


 そう考えてみれば遺跡だのなんだのと言っても、要は昔誰かが使ってた人ん家なんじゃよな。

 例えばおぬしの家が1000年後に古代遺跡になったとして、後世の人達のためになんか書き記しておいたりする? せんじゃろ?

 当時の人達が日常で使っとった品物がただ落ちとるだけなんじゃ。


 そう考えると別に回覧板が家に落ちとったとしてもエルフを責めるのは筋違いと言うものじゃ。

 むしろ諸悪の根源は、自分達が必死に見つけてきたもんだから絶対に価値があるはずだと言う人間達の思い込みじゃろう。

 なんでそんな昔の人達が自分達のためにわざわざ役に立つもの残しておいてくれると思い込むの? アホなの? バカなの?

 調査隊だの騎士団だのと言うても要はあいつら泥棒じゃからね。家の人がおらんってだけで。



「……適当な事言って誤魔化すか」


 ワシは意を決して謁見の間に舞い戻った。





「待たせたな。人間の王よ」


「おぉ! それでは!」


 王様たちが色めきだす。こいつらホントに自分達の聞きたい言葉しか耳に入らんのだから困ったもんじゃのう。

 ワシはどっかで聞いた詩をさもそれっぽい口調で語った。


「来る日の7の月。空から恐怖の大王が降りてくる。アンゴルモアの大王を蘇らせるために。その前後、マルスは幸運によって支配するだろう」


「おぉぉ!?」


「それっぽい! それっぽいですぞ!」


 王様や従者たちがおおはしゃぎする。嬉しそうじゃのうこやつら。



「そ、それで大賢者さま」


「うむ」


「解読に成功できたのはいいのですが、これは一体全体どういう意味で……?」


「これはやはり魔王復活の!?」


「しかしマルスは幸運によって支配とある。これは聖王が誕生するということでは!?」



 ゴミどもがやいのやいのと囃し立てる。知らんよ、そんなもん。

 ワシはさももったいぶってこう言った。



「教えるのは容易だが、それは自分達で探すのじゃ……未来はまだ定まってはおらぬ」



「!!」


「なんと!」


「承知いたしました。この度は誠にありがとうございます!」


 こうしてゴミどもは去っていった。




ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ


「あー、やれやれ、ようやく帰ってくれたわい」


「……よろしいのですか?」


 部屋に戻って魔導マッサージチェアに座っておると、ドーナちゃんがお茶を入れてくれた。


「なにがじゃ?」


「あんな……適当な事言っちゃって……」


 ふー、とワシは一息ついていった。


「いや、そんなん言われてもワシ、知らんし……」


 ワシの名は大賢者ハンゾウ。なんか偉い人達が訪ねてきたときにそれっぽい事を言うのだけが仕事の……

 チート魔法しか取り柄のないただの引きこもりである。



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