アホ様。ハードルを上げられ申す
ワシ、高宇半蔵はちょっぴりおバカな普通の高校生じゃった。
バカと言ってもスマフォの使い方がわからずに家で黒電話使っておったり、ICカードの使い方がわからずに会計に毎回5分くらいかかったり、と言った程度で大した事はなかったんじゃが。
それがある日突然トラックにひかれ、死んだかと思ったら異世界におった。
その時に女神様がチート能力をくれるって言うもんじゃから、ワシは最強の魔法を願った。
そしてワシはエルフとか言うすげぇ寿命の長い種族に転生した。なんかこれが一番魔法適正が高かったらしい。
チート能力を駆使して魔王を倒し220年。ワシは塔に引き籠っておった。
だってそうじゃろう。ワシが何か言うと「おぉ! 大賢者様のお言葉だ。みんな心して聞くように!」とか言って大騒ぎするんじゃもん。
で、ワシが大勢の前で「あ、いや。僕の眼鏡どこでしたっけ……」とか言うと空気がヒエッヒエになるんじゃ。
「なんだよ、そんな事で騒がせんなよ……」って言う目線がたまらんかった。別に騒いでくれとか頼んどらんかったのに……
大賢者となったワシに課せられたハードルは高かった。
なんか頭良い事以外言っちゃいかん雰囲気になっとった。
しかもそのうち「大賢者様なら当然ご存知でしょうけど……」とか言ってやたらクイズふっかけてくるやつらがあとを絶たんくなった。
別に賢くはないのは百も承知じゃけど、「大賢者様に知恵比べで勝ったぞ!」とか言われるのもそれはそれで腹がたったもんじゃ。
じゃからそういう輩には痛風と老眼とインポのトリプルセットをかけておいてやった。ワシ、頭は悪いけどそういう魔法は凄かったからね。
そしてワシはやたら挑戦的なクイズ王達から逃れるため、人里離れた秘境に塔を建ててそこに引きこもる事にしたんじゃ。
軽いノリの連中は減ったが、その分訪ねてくるのが勇者やら王様やら預言者ばっかになって余計質問のハードルがあがってもうた。
そして今日も……
「アホ様」
「なんじゃ、ドーナちゃん」
彼女はワシの身の回りの世話をしてくれているメイドーナちゃん。
ワシが魔法で作り出したホムンクルスじゃ。
彼女は自分を作り出した存在であるワシを「父のごとき存在」、亜父と呼んでおる。
「本日は西のイーコック王が面会を求めております。なんでもエルフの古代遺跡で石板を見つけたものの、誰も解読できないとかで……」
「またか……適当にお土産持たせて帰ってもらえんじゃろうか?」
「いえ、それが『この石板を解読できるのはエルフの大賢者であるハンゾウ様において他にない!』と強い口調で申されまして……」
なぜじゃ……なぜ同じエルフって言うだけでそんな強い口調で断言できるんじゃ……
そんなもん古文とか漢文で書かれた資料が発掘された時に「日本人だから読めるでしょ?」って言って渡すようなもんじゃぞ?
重要なのは考古学とか言語学に詳しいかどうかであって、アメリカ人だろうが日本人だろうが関係ないからね?
「そうか……一国の主となれば会わぬ訳にもいくまい……謁見の間に通すがよい」
「はっ」
そしてわしは西の王様に会う事になった……