プチトマト転がす
泣きながら帰って来た猫は
プチトマトを転がす
赤い玉が
段に合わせて
ポンポンポンと
散らばり
それは一番下で
潰れた
中から果肉が見え
内包していた果汁が
ドット柄の
レジャーシートみたいに
床を彩った
壊れた玉は
誰にも気づかれず
頭を引き抜いた
人形の身体を以って
生きている人間とした
作った光は
人工ダイヤモンドみたいに
綺麗で
天然ダイヤモンドとの
違いは全く無い
ただ隔離されている
天然である価値を
担保する為に
藍色の水筒に
ミルクティーを入れて
冒険に出る
行き先は近くの公園
行く側は初めてで
見送る側も初めてで
心配とワクワクを
何方も楽しむから成り立っている
そんな気概も
今や無くなり
人間は無菌室に入った
全ての物に触れられない
触れてはならない
酷く毒されるから
切り離されている
人工物だけの世界に
置き去りにしている未来
それを選んだ
人間はそれを選んだ
誰も責任は取らないと思う
それで構わないと思う
時代の所為にして
逃げ出す人間が居るなら
進んでいると思い込んで
前だけを向く人間が居るなら
それで構わないと思う
人類は滅びると思う?
プチトマトを片付けていると
唐突に
そう聞かれた
良い物を悪い物だと思ったり
悪い物を良い物だと勘違いしているなら
滅びるんじゃないかな
曖昧な物は
曖昧に答えれば良い
何で私が料理してるの?
これには明確に答えた
泣いて帰って来たから
気分を変えるには
別の事をしたら良い
納得したらしい
笑って
いつもより手の込んだ料理名を
あげている
単純も守る為の武器だった
段があるなら
レールを敷けば良い
転がるにしろ
落ちるにしろ
玉が使えなくなるなら
意味など無い
転がったプチトマトは
潰れなければ
洗って食べれた
選択肢は増えていたのだ
何処へ向かうか
悩んでいる
悩めるだけのレールがあるのか
何を以って
そのレールを信じているのか
良い匂いがして
味見をして
食卓に並ぶ料理は
いつもより多めだった
美味しいよと言うと
いつもより嬉しそうだった
単純である事は
単純で居る事より
必要かもしれない
消せる者と作る者の間に
立って居るのなら