3話
ユートは山道を走った。
「うわーーーーっ!!!やば、やば、やばいーーー!!!!」
レンは木に登った。
「お、お、おたすけーーーーっ!!!」
リアは川を泳いだ。
「ぷはぁっ!!なんなのよ、もーー!!」
3人とも、必死に逃げていた。
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「第一試験はキノコ狩りだ!」
カルナバルは2回言った。
大事なことのようだ。
あまりに漠然としたような拍子抜けしたような試験内容に会場内から質問の声が飛ぶ。
「あ、あの!キノコとは山に生えているあの…??」
「いかにも!ただし、手に入れてもらうのは非常に希少なキノコだ。この絵を見てもらおう。これは〝ミノキノコ〝という名だ。これを持ち帰ってくるように。期限は日が真上に登る正午までとする。それでは、始め!!」
ミノキノコはミノムシのミノのような傘をしたナスの様な形だった。
再び会場内が騒めく。
そして、参加者たちは思い思いに動き出す。
「なーんだ。キノコなんて山育ちの俺たちには朝飯前だな。拍子抜けしたぜ」
「はぁ…レン、お願い」
「はいはい。いいですかユート、ミノキノコはこの国の希少特産品で年間100本採れたら豊作なキノコなのです。国王でも稀にしか食べれない貴重な食材なんですよ」
「えぇっ?そんなに珍しい物なのか?」
「はい。市場価格は一本30万ルギ。一般的な成人男性の稼ぎが1ヶ月20万ルギと言えばわかりやすいでしょうか」
「30万!?そんなにか!」
「あたしも小さい時に村長がたまたま一本手に入ったって噂を聞いたことしかないわよ」
「む〜、その辺に生えてるキノコじゃダメなのか…」
「なぜそこまで貴重かと言うと数自体が少ないのもありますが、そのキノコは野生の危険な動物の巣のそばにしか生えないという習性を持っているからなのです」
「動物?クマとかイノシシとか?」
「そうです。動物達を隠れ蓑のようにして身を守らせる習性を持つ故に〝ミノキノコ〝と呼ばれていて、その芳醇な味と香りは一度知ったら一生忘れられないと言われています。しかも今は春先、冬の冬眠から腹を空かせた動物達が…」
「ま、なんしかキノコだろ?パッと採ってパッと帰ってきたらいいのさ、行こうぜ!誰が一番早く採れるか競争な」
他の参加者が動き出す中ユートも一目散に山に向かって走っていった。
「あのバカ…完全に舐めてるわね」
「はぁ。まぁ〝ミノキノコ〝は一ヶ所につき一本しか生えないと聞きます。僕たちもそれぞれ探して、見つけた方から合流して手伝いましょう」
「そうね、レンを頼りにしてるわ」
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と、いうわけで3人はそれぞれ逃げていた。
ユートはイノシシから。
レンはクマから。
リアはハチから。
〜ユートの場合〜
山道を登り獣道を見つけたユートは森の奥へと進んで行った。
「この辺は結構藪が深いな。この辺なら…あっ!あれは!?」
深い藪の中から一部分が平らに踏みならされ、草木をドーム型にしたような巣穴を見つけた。
「この足跡は…やっぱりイノシシだ。てことはこの辺にキノコが生えてる可能性も…」
ガサ、、、ガサガサ、、、
「やべ!イノシシか??」
キュィーー
巣穴の中から可愛らしいウリ坊が出てきた。
「ふぅ。脅かすなよ、なんもしないから巣穴に帰るん…」
フゴォーーーーーっ!!!
「うわーーーーっ!!親イノシシかー!」
ウリ坊を巣に返そうと手を差し出した瞬間背後からイノシシの雄叫びが聞こえた。
(うん、見るからに怒ってる…)
前脚をふみ鳴らし完全に突撃準備に入るイノシシ。山育ちであるが故に、ユートは山の獣の怖さは身にしみて知っていた。
「に、逃げろーーー!!!」
全速力で駆け出した。
フゴッフゴォーーーーー!!
「やばやばやば、やばいーーー!!!」
できるだけジグザグに走りイノシシから逃げる。だが、藪の中を走る最中突然地面の感触が無くなった。
「お、落ちるーーー!!?」
ドサッ!!
崖にでも飛び出したかと思ったらそんなこともなく、ある程度の高さから落ちたくらいの衝撃を尻に感じた。
「いっててて、、、段差があったか。結構高いけど助かった…あれ?」
落ちた先にはほら穴があり、入り口の隅にヒッソリと生えていた物がある。
「み、、、ミノキノコだ!やったーー!」
ユートはミノキノコを手に入れた。
〜レンの場合〜
「うーん。この山の地形からするとこの辺りに…あ!あれは」
ほら穴を見つけた。やや偶然ではあるが、山で見たことのある記憶や条件を探して見つけたクマの巣穴である。
「ということはここの周辺に、、、あった!」
ほら穴の隅にヒッソリと生えている物を見つけた。
「みっ!……おっと、危ない危ない。巣穴にクマが居たら気付かれてしまうところでした」
声をあげそうになったのをこらえ忍び足で巣穴に近づいて行くレン。
(そ〜っと、そ〜っと……ここで物音立てて失敗したらユートのこと笑えませんね)
などと考えながら慎重に足を進めていく。
(うん。あと三歩……)
パキッ。。。。。
(っ!!?)
足元の枯れ枝を踏んで音を出してしまった。慌てて身をかがめ地面を見る。
(お、落ち着くんです。こんな生活音程度の物音、山の中でもいくらでもするでしょう。大丈夫、大丈夫、だいじょ……)
ポタ、、、ポタ、、、
地面を濡らす点ができたのが見えた。
(??雨、、、ですかね?いや、もしかするとこれはテンプレ…)
恐る恐るゆっくりと頭を上げると、腹を空かせているのが丸わかりのヨダレを垂らした森のクマさんと出会いました。
「でででで、ですよねーーーーっ!!」
一目散に逃げ出す。
レンは知っていた。山育ちが故に冬眠から覚めたばかりのクマは気が立って気性が荒いことを。
「はわわわ!!はや、はや、、はやいー!」
そして、クマの足がとても早いことも知っていた。
「おおおた、おたすけーーーっ!!?」
なので、目に見えた大きな木に大急ぎでしがみつき登り始める。ユートと出会ってから山を駆け回っているうちに木登りもまんざらではなくなっていたのである。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば、、、」
眼下でクマがレンを見上げ低い唸り声をあげている。
グルルルル、、、、ガァッ!
バキ!バキバキ!!
「うわぁっ!」
突然の衝撃を受けて木にしがみつく。
クマが木登りをすることは知っていたので警戒はしていた。だが、こいつは登らずに強靭な爪で木を切り倒そうとしてきた。
「わわっ、うわ!た、た、倒れる!?」
クマが数撃木を打ったあと、ひと際強烈な一撃を当てるとグラリと木が傾き始めた。
「おおおた、おた、おたす・・・」
慌てて木の頂上まで駆け登るが、やがてメキメキという音を立てて木は倒れていった。
「うわーーーーっ!!!」
ザシャーーーーンッ
木は90°傾いて倒れ、他の木の枝に寄りかかる様に止まった。なんとか踏ん張ってしがみ付いていたレンはクマの方を見る。
「ち、ちょうど倒れた先が崖の先だったんですね。このまま下まで降りてしまいましょう……あ、あれは?」
目の前の木の枝に大きな蜂の巣が見えた。かなり大きいが、この衝撃を受けたにも関わらずハチが全然飛んでこない。
「まだ使われていそうな巣なのに何故……あっ!」
蜂の巣のそばの枝にミノムシの様に生えている物を見つけた。
「ありました!ミノキノコ!」
ハチが出てこないか注意しながら手を伸ばす。
「ミノキノコ、ゲットです!」
レンはミノキノコを手に入れた。
〜リアの場合〜
「・・・まいったわね」
比較的に簡単にミノキノコを見つけることができた。だが、問題はどう採るか彼女は悩んでいた。
「あんな大きな蜂の巣のそばなんて…他の場所を探しても見つかる保証はないし…」
大きな木の上の方、枝にミノキノコを見つけたがすぐそばに蜂の巣があるのだ。巣の周りには警戒するかの様にハチが飛んでいるのが見える。
「割と大きいハチだし、刺激して大群が来られたら厄介ね。はぁ……やるしかないわね」
リアは意を決して周囲の石を探した。投げるに最適な石を。だが、リアは知らなかった。
「数打ちゃ当たって落ちてくれるわよ。巣に当たらないのを祈って・・・えいっ」
彼女はノーコンだということを。
パコッ・・・
ブブブブブブブーーーー
見事に巣に石が当たった直後、大量のハチが襲撃者を撃退するがために巣から飛び出してきた。
「ち、ちょ、ちょっと、、、たんまーーー!!?」
思わず駆け出すリア。
どこでもいい、とにかく離れなきゃ。
そう思い森の中を駆け抜ける。
「し、しつこい!全然追ってくるの止まらないじゃない!?」
走っているうちに木々の隙間から光が見えた。
「あれは、、、川ね!よーし!!」
水面に映る光に向けて全力で走る。そして、
ザブーンッ
リアは川に飛び込んだ。
(ゴボゴボ、、、水の中なら来れないわよね。。。そろそろいいかしら?)
数秒経って水上に顔をあげてみる。
ブブブブブブブ
「っ!!?」
ハチが待ち伏せしていた。
ゴポンッ
(なんなのよ!もう!!しつこいわね)
周囲を見ながら場所を変え泳いでいく。
念のため行きの続く限り離れてから静かに顔を出す。
「ぷはぁっ!!・・・さいあく」
ずぶ濡れになった服を絞りながら森の中へ入っていく。
「はぁ……また探し直さなきゃダメみたいね。ちょっとその前に服を絞らなきゃ」
開けた藪の中で上着を脱ぎ、服を絞る。
そして勢いよくパンと上着を払った瞬間何かが視界に入った。
「あら?・・・これって」
足元に、先ほど見た絵の通りの傘をしたキノコがあった。
「あ、、、あったぁ!!でも、なんでここに?」
プギー
プギー
そばの草木でできたドーム状の巣から可愛らしいイノシシの子供がでてきた。
「わぁ!可愛い。そっか、あんた達の家だったのね。ごめんね騒がしくして、すぐ居なくなるからね。親が来たら危ないだろうし」
ウインクしながらウリ坊に手を振りミノキノコを手に取った。
「ふぅ、これでOKね。あいつらも上手く採れたかしら」
リアはミノキノコを手に入れた。
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「おーいレン、リア!お前らも採れたか!?」
「もちろんです」
「ま、当然よね」
試験会場で丁度出くわした3人は笑顔で答えた。
「でもけっこうきつかったなぁ」
「はい。簡単、とは言えなかったですね」
「確かに、そうね」
「イノシシが」「クマが」「ハチが」
「「「・・・ん?」」」
こうして、3人は一次試験を無事合格することができたのであった。