本編就業編・6-5.5 ニケ視点
進行上本編にやむなく投稿しなかったお話を
こちらに投稿せさせていただきます。
「この札には不思議な力があります」
知り合いとなった友人の友人、友人というよりは職場の同僚先輩と言うべきだろうが、その人、ゾゾ・パラスタという人はどうも占いの類いが好きらしいと言うことを友人であるナナリーからはかねてより聞いていた。
合同の調査が終わったのち親睦を深めるためにと騎士団側とハーレの三人で飲みに行こうとなったが、今日この場に嫌がるナナリーを引っ張ってくるのには苦労した。いやだお酒はいいけどアイツがいる場所で飲みたくない、と駄々をこねる彼女は六年前から本当に変わらずで良いのやら悪いのやら。アイツというのはそれが誰を指すのか名前を聞かなくても分かるくらいには、もっと言えば飲みに行きたくないだろうなと誘う前から駄々をこねることを分かっていたくらいには理解している。
泣き落としが一番効果的であると長い付き合いの中で学んだので今回もそれでどうにか連れてくることに成功はしたけれど、ただでさえ男所帯で久々の普通の女の子…騎士でも娼婦のお姉さんでもない普通の女性であるナナリーやパラスタさんに対し下心のある男達の巣窟へと連れ込んでしまったことは悪いと思っている。何かあれば全力で守ってあげなければ。
まぁ私が守らなくても彼女達ならば自分でどうにかしてしまうだろうことは想像に容易い。
騎士団側のほうは一人や二人くらい殿下なども含めて来ないだろうと思っていたのに、今日はなんと見事に全員が出席した。お酒という言葉に目がない人達ばかりなのである程度は予想していたけれど、まさか殿下まで来るとは思わない。
それにはナナリーもびっくりしていたようなので、やはり私の感覚は間違っていなかったのだと安心した。
隊長であるロックマンと共に同じテーブルについているのが見えるが、たまにはこういう場で息抜きをすることも必要なのだろう。
ナナリーに突っかかっていたウェルディはロックマンの隣で頬を染めながら二人の話を盗み聞いている。さすがに殿下を交えた彼との会話には入れないと思ったのだろう。端から見てもあそこの2席は異様なきらびやかさを放っている。
時折ナナリーが気になるのかウェルディはこちらをチラチラ見てくるのだが、私がそれに気づいていることを彼女は気づいていない。
ああまた3分くらいしたらこっちを見てくるんだろうな。そんなことが分かるくらいにはウェルディはナナリーのことを恋敵として認識してしまったらしい。
「占いできるんですか?」
「いえまぁ、そのあれよ、この札は今月号の付録っていうか、メラキッソ様監修の札みたいな?」
ナナリーの乙女の件が解決して乾杯の音頭をしたのち、パラスタさんが占いでもやってみる? とテーブルにつく皆へと提案したのは札占いだった。
ヴィクトル先輩やゴーラ先輩達がノリノリでその話しに乗っかって来たのでパラスタさんは嬉々として45枚ほどある絵の描かれた札をテーブル上に並べ出した。
ついにやる側にまで手を出したんですねとナナリーが隣で呟いている。
「やっぱり年頃の男女が気になることと言えば恋愛よね。否応なしに皆の恋愛を占うわよ~」
「俺! 俺先!」
ヴィクトル先輩が我先にと手をあげた。他にも手を上げている人がいたけれど先輩の念に押されたパラスタさんは、はいそこの一番元気な人! とヴィクトル先輩を指差して自分の前へ移動して来るようにと言う。テーブルの向こう側に移動した先輩は並べられた札をジロジロと興味津々な感じで見ていた。
「これから先、俺が素敵な恋人を手にできるか……を占ってください!」
「お安いご用よ」
先輩が席に着くと、裏返しになっている乱雑に並べられた札から三枚選ぶようにとパラスタさんが言う。
三枚の札の順番が大事なようで、一枚目の札次第で二枚目の役割、三枚目の役割が変わってくるのだと説明される。例えば一枚目が悪魔の札だったとして二枚目が喜びを表す札だったとしたら、いやなことがあるけれどのちに喜びになる、みたいな解釈になったりする。逆に一枚目が喜びの札で二枚目が悪魔の札だったら、喜びから悪魔……災いが訪れる、という解釈になる。
「その相手が彼女だったらなおのこと……」
「先輩?」
「なんだ、なんでもないぞブルネル」
札を裏返しながら私の友人を見てぶつぶつと言う先輩に冷めた視線を送りつける。
その間にも結果は出たようで、パラスタさんの札からの解釈によれば先輩の出生地、つまり地元。そこでふくよかな女性と出会い付き合うことになるものの、長くは続かないと出た。もともと惚れやすい性格みたいなので気持ちの移り変わりも早そうだし、当たっているのかもしれない。
しかし、よし俺絶対ふくよかな子とは付き合わないぞ! と違う方向に希望を見出だして再度私の友人のほうを振り向いた先輩には流石にあきれた。ナナリーがふくよかじゃないからと言って先輩が彼女と恋人になれる可能性は万にひとつも、いや頑張ればもしかしたらなれるかもしれないけれど、そうなれる未来が全く想像できないのは彼女の性分を知っているからか否か。
「次は女の子ね。ニケちゃんどうかしら?」
「私ですか!?」
「何か恋の悩みとかない?」
「悩み……」
「ニケってそういう話あんまりしないから、私も気になる」
気のせいかその碧い瞳をキラキラと輝かせて私を見るナナリーに、思わず苦笑が漏れる。
「特にないですね」
「じゃあどんな人が運命の相手なのか占いましょ!」
本当に否応なしに進めていくらしく、いっくわよーん、とパラスタさんは強引に私の前へ札を並べて選ばせ始めた。
じゃあ、と一枚一枚引いていく。
「なになに、一角獣と太陽、逆さのフェニクスね」
パラスタさんは選ばれた三枚を私の前に並べた。
「モノケロースは天の使いとも言われる存在で、貴女のことをいい方向へ導いてくれる力を持つってことね。お金持ちとか出世とか、あとは健康な食生活とか?」
「健康な、食生活」
「太陽は恵みの光だから、幸福だとか繁栄とか、凄く良い意味ね。結婚したら子沢山になるかもしれないわ。最後は逆さのフェニクスだけど……」
間をあけて、ほほう、と喉を唸らせた。
「これは頑固よ、すんごく頑固。いつもって訳じゃないけど融通のきかない一面を持った頑固者」
逆さになったフェニクスを見つめる。
「まとめると、ニケちゃんの運命の相手は……お金持ちの頑固者?」
「お金持ちの捻くれ者なら一人知ってるけどね」
嫌そうに遠目でロックマンを確認するナナリーは、ニケの運命の人はきっとあれとは正反対の良い人だと拳を掲げて断言された。
騎士団にはお金持ちというか貴族が多いので、占い通りにいけばその中の誰かとそういうことになってもおかしくはないのかもしれない。玉の輿にのりたい願望はないけれど、いつか本当に好きな人が出来たらなんてことを、自分の小さい頃の淡い初恋を思い出しては胸を撫でる。
幼児の恋と今の恋ではずいぶん違うだろうが、ベンジャミンのサタナースヘの情熱的な想いを見ていると、ときおり羨ましくなってしまうのだ。
「次はナナリーね」
「私はいいですよ。いつも魔法型占いとか流行誌で見させてもらっていますし」
「じゃあ一気に飛び越えて将来の旦那でも占いましょうか」
「旦那?! ならニケと同じ運命の人でいいですって」
「運命の人は必ずしも、結婚するとは限らない人。でも将来の旦那なら、確実に結婚相手になる男を占うことになるわ」
「そんなこと占わなくても……」
「はい、いっきまーす」
パラスタさんの勢いにのせられてナナリーは、ええとではこの辺の三枚で、と悩むことなく適当にしぶしぶ札を裏返す。
占いが嫌というより、将来の旦那という言葉に対してどこか恥ずかしがっているような姿がなんとも言えない。きっとこういうちょっとした可愛いところが、苛めがいがあると見られて毎度喧嘩にもなるのだろう。
仕方のない友人達である。
ナナリーが選んだ札を見て、パラスタさんは据付けの説明書を取り出す。これは――と紙に視線を滑らせながらナナリーのほうを向いた。
「これはあの世とか天罰が下るとか、地獄とかを意味する札ね。次は栄光を手にする人、英雄とか勝者とかそんな感じ」
一枚目の札のせいで良いのか悪いのか全く分からない。ナナリーもぱちくりと瞼を大きく瞬かせた。
「最後は花に囲まれた乙女ね。純白の衣を纏ってるから結婚とかの意味でもあるわよ。あと処女性も備えてる」
つまり。
「えーと要するに、天罰が下っても栄光を勝ち取る強い人と結婚?」
「地獄での英雄?」
「犯罪者との結婚?」
「すでにもう死んでたり?」
三人目ともなると、皆がこうじゃないのかああじゃないのかと、占いの解釈をしだす。
「そんな物騒な人嫌です!」
「きゃー! 私に言われても~」
どうか友人の将来の旦那様が物騒な人物ではないこと祈った。