1-3女神様との交渉
読んでくださる方、ありがとうございます。
基本、短めなのはお許しを。
本日一話目です。
30分もの間、俺があの手この手で泣き止ませようとしたかいもあって、ようやく泣き止んでくれたイファリア様に俺は定番の質問してみた。
「あの、イファリア様。ダメもとで聞いてみるんですけど、俺が元の世界に戻ることは可能なんですか」
「すみませんが、不可能なんです。あなた向こうの世界で亡くなったときに私の世界に魂を引っ張ってきて、私の世界の人間として再構成してしまっているので」
「そうですか」
中学校時代から中毒といえるレベルまで本を読んでいた俺だ。当然のように多数のラノベも読破している。
なので、別に戻れないと聞いてもそこまで不信感は感じない。
地球にいる知り合いといっても、大半が同僚やら仕事系の知り合いばかりだし、友人もそんなにいない。結婚はしておらず、両親も早くに他界しているので、正直いって、地球にほとんど未練はなかった。
「あの、お詫びと言っては何なんですが………。私の世界で転生するときにお好きな場所に生まれ変われるよう調整します」
「ほんとうですか」
どうやらこちらの世界では、手違いの件のおかげでかなりの好待遇が期待できそうだ。かけらほどしかなかった地球への未練が完璧に消え去った。
にしても、好きな場所へか……。 俺の好きなものといえばやっぱり本だ、それしかないともいえるが。
ともかく本が周りにいっぱいあるところがいい。それさえあれば、あとは少しのお金と食事があればいい。
そう考えたおれはそっくりそのままイファリア様に伝えてみた。
「なるほど、でしたら異世界図書館の館長をやってもらうというのはどうでしょうか」
「ア、アカシックレコード。あの、世界中の過去から未来に至るまでのすべての知が得られるという」
「いえ、少し違いまして。簡単に言うと、私の世界にある周りにある世界の情報を集積して記録する機関です。ですので、全部の世界の情報とか、未来の情報となるとちょっと……」
イファリア様は申し訳なさそうにしているが、最高じゃないか。しかも館長という好待遇でだ。
「実は、前任の館長がこの間、亡くなられまして。そこでよければ今すぐにでもお連れしますけど」
「断る理由がありませんね」
「本当ですか。実は仕事もあるというものなので候補としては最後の方だったのですが」
「そこ以上に蔵書数の多い場所があるのなら考えますけど」
「ないですね。そもそも、神の管理する図書館より蔵書の多い図書館ってたぶんありえないと思うのですが…」
「それもそうですね。仕事内容はどんなものなんですか」
「それは向こうに着いてから、司書長が教えてくれるかと」
「わかりました」
「ほんとうにいいんですね」
「はい、さっさとやっちゃてください」
「では彼を………」
このときの俺は、異常なくらいハイテンションだったと思う。本当に異世界に飛ばされていたことはもちろん、中毒にまでなってしまっている本に囲まれて過ごせるということが頭から冷静な思考を奪っていたのだろう。
「…………剣と魔法の異世界メルヴィアの異世界図書館へ。頑張ってくださいね、館長さん」
「ま、魔法? 魔法があるんですか。 ちょっと聞いてない。イ、イファリア様ストーッ……」
俺が慌てたころにはもう遅く、足元に魔法陣のような文様が広がり、そこから出てくる光に体を溶かされていくような感覚の中、俺はまた意識を失った。
「ふう、これで一仕事終わりましたね。でもやっぱり慰謝料代わりにいくつかスキルをつけておきますか。
さて新館長さんはどんなことをやってくれるんですかね、楽しみです。フフフフ」
彼が消えた後の空間では、イファリア様が幼い外見に似合わない妖艶な笑みを浮かべていた。
普段は「異世界でも貴女と研究だけを愛する」という作品を上げてますので、そちらもよろしくお願いします。