1-2 女神さまの手違い
読んでくださる方、ありがとうございます。
本日二話目です。
目を覚ますと、目の前に白い模様が見えた。病院の天井の色のようで、どうやら俺はなんとか助かったみたいだ。
そう思って一瞬のうちに俺は違和感を感じた。
白いのは天井だけではなかった。壁も床も、というか空間全体が白いモヤモヤッとしたものに覆われていた。
しかもさらに不思議なことに……
自分の体は宙に浮いていた。
「どこだよ、ここ」
しかし自分の声が響くばかりで、何も聞こえない。しばらくしてから俺は悟った。
「そうか、俺やっぱり死んだんだ。そして、ここは死後の世界か」
「いえ、少し違うんです」
突然どこからか少女のような声がした。まわりをみわたすと白いモヤのなかから人が出てきた。
その姿は透き通るような銀髪をした、中学生ぐらいの美人な女の子だった。
「ええと、どちらさまでしょうか」
「はっ、はい私はこの世界の女神をやっているイフィリアと言います」
「女神様、俺たちの世界の?」
「いえ、あなたの住む世界ウォルティアのすぐ隣に位置している世界メルヴィアの女神です」
「なぜほかの世界の女神さまが俺のところへ」
「じ、実は少し手違いがあったというかなんというか………」
「手違い?」
たどたどしくも話してくれていたイファリア様が急に黙ってしまい、俺の不安度が上がっていく。
ひょっとしてかなりまずいことに巻き込まれたのではと思っていると、イファリア様は固く結んでいた唇を開いていて、話の続きを話してくれた。
「手違いの話の前に、まず私の世界の話をしましょう」
「その話は手違いの件と何か、関係が」
「ええ、おおいにあります」
「では、お願いします。」
「まず、私の世界メルヴィアはあなたたちの世界の半分ぐらいの大きさで、人が住んでいる星は一つだけです」
「それは、いくらなんでも少なくないですか」
「別に調整をしなければもっと増えるんです、下手をすると数万ぐらいの人が住める星が一気にできてもおかしくありません」
「じゃあ、なんで増やさないんですか」
「管理ができないからです。私たちだって完璧に万能じゃなくて、百以上も人に近いレベルの文明の星があったら、過労死しちゃうかと」
「神様でも亡くなられるんですね」
「まあ、寿命はとてつもなく長いし、耐久力もすさまじいからめったにないんですが。……さて、話がそれてしまいましたね。
それでですね、私の世界で唯一の人が生きられる星はアーガイアって言うんですけど、アーガイアは百年程で文明の成長が必ず止まって、そこから50年程で衰退しちゃうんです。原因は私の前の女神の調整ミスなんですけど……。しかもその状態が簡単に修復できないほど時間がたってしまって……。そこで外部の世界から人間を100年ごとに連れてきて世界に刺激を与えることで発展を促すようにしているんです」
「なるほど、その外部の世界から連れてこられてきた人が俺ってことですよね。でもそうなると手違いじゃなく、むしろ正常な気がするんですが」
イファリア様はしばらく黙ってからおもむろに俺に向かって、
「……ごめんなさい」
と半泣きになりながら俺に向かって社会人の最終手段、土下座をしてくれた。
「ちょ、ちょっと顔を上げてください。イファリア様」
「ほんとうにもう謝ることしかできません。申し訳ありません」
「いや、手違いってことはわかりましたけどいったいなんでいきなり土下座なんて。いや女神さまの土下座なんて心臓に悪いですし、本当にもういいですから」
そして、ようやく半泣きの顔を上げてイファリア様が話してくれた内容は幼女を号泣させてしまったことに対する社会的制裁を喰らうんじゃないかとか、女神さまを泣かすというとんでもない罰あたりな事をしてしまって天罰が下るんじゃないかとか、そんなバカみたいな考えを一瞬で忘れさせてくれるほどのものだった。
「本当にこの世界に呼ぶのはあなたじゃなかったんです。トラックを突っ込ませる通りを一つ間違えました。本当に申し訳ありませんでした」
「……へっ、ほ、本当に」
「はい、本当に申し訳ありません」
「…………」
こうして、俺の死因は世界でただ一人であろう「女神さまの手違い」となった。
普段は「異世界でも貴女と研究だけを愛する」という作品を上げてますので、そちらもよろしくお願いします。