1-13二日酔いの魔導書研究~実践編~
「館長、いつまで経っても検証が進みません。早くしてください」
「すみません」
さてと、確か魔導書のお試しだっけ。すっかりスコーピオとのレア談義に講じてしまって軽く忘れてたな。
「それで、何からやればいいんだったけ」
「まずは、魔法の召喚からね、レベル1の魔法ならたかが知れてるし。それぐらいだったらこの部屋ならもつでしょうし、<魔法項 全項開放>の詠唱でいいわよ」
「さすがに、それは危ないのでは」
「大丈夫よ、高々レベル1だから」
「<魔法項 全項開放>」
「ちょっと、館長。行動がはやっ……」
その瞬間、部屋に光が広がった。
「うわあ。ど、どうなってんだ」
「これは……」
「だから、止めましょうって、言いましたよね」
しばらくして、光が止んだ。
「館長ご無事ですか」
「まあ、……なんとか。あれはただ光ってただけみたいだし」
「無事で何よりね。たぶんあれは一気に魔力が一点に注がれて起こった、ただの発光現象ね」
「そうですか、それならいいですけど」
「さてと、それじゃあステータスを確認してみて、たぶんあれだけの魔術素養を持っているから、さっきの魔法が発動しているのなら確実に魔法スキルがついているはずよ」
その言葉通りにステータスを確認すると、まず能力値に変化はなかった。しかしスキルが異常な事になっていた。
<スキル>
<異世界言語レベル10 司書魔法レベルEX 治療魔法レベル10
異空間収納レベル10 速読レベル10
NEW属性魔法レベル1 NEW精霊魔法レベル1 NEW空間魔法レベル1
NEW星魔法レベル1 NEW魔法薬調合レベル1
「どうなってるんですか、これは」
「なるほど、そういうことか」
「分かったんならパイシーズ、説明してくれ」
「たぶんあってると思うんだけど確証がないのよ。と言う訳で……」
そう言うと、パイシーズの前にタブレット大の青いウィンドウが降りてきた。
「これが、魔導書の棚の検索用端末。要は館長室の検索機能の劣化版ね」
「これで調べろってこと?」
「そういうこと」
「そうですね、こんな危ない人に聞くより数百倍安全ですね」
「ライラちゃん、さっきの爆発の件、根に持ってる?」
女子二人のところで、いざこざが発生しそうだが、俺はかかわらない。なぜなら学生時代に女子の口喧嘩に混ざると、ろくなことにならないと学んだからだ。
「さてと、いつも通り調べるか」
<なぜ、いきなりこんなに大量のスキルが?>
<世界の理に直結している魔導書<万象召喚術法書>の魔法項 全項開放を行ったため、この世界の特殊魔術や召喚魔術を除く、すべての魔術を使用したため、魔術素養の高い館長に、すべての魔術スキルが付いたからである。なお魔導書魔法だけはより効果の高い<司書魔法>に吸収された>
<属性魔法>
<基本8属性の全ての属性魔術を統合したスキル。レベル1の主な使用可能魔法は、火球、水球などのボール系攻撃魔法>
<精霊魔法>
<主にエルフが使う魔法。周囲の精霊の魔力を利用して、小量の魔力で大規模な魔法現象が起こせる>
<空間魔法>
<空間を操る魔法。異世界図書館長に与えられる異空間収納もこの魔法に含まれる。レベル1では一定空間の縮尺を変える<自在空間>などが使える>
<星魔法>
<星々の動きの法則性を利用して、行う大規模魔術。レベル1で使えるのは<星占い>のみ>
「なるほどね。まあ、理由は分かったし。ホッとしたけど………まだ召喚魔法とかが残ってるんだよな」
「じゃあ、次に行きましょう」
「もう少し休憩を下さい」
「さっさと終わらせますよ。まあ先延ばしにして痛い目に合ってもいいというならどうぞご自由に」
「………やろうか」
その後、<動物召喚>では大兎という中級の魔物が出てきた。部屋の中を自由に飛び回っていた。
「元気だな」
「そうですね」
「なんか、こっちに来てない」
「ええ。なんか私の方に、キャッ、キャアー、ちょっとそんなところに顔を入れないでくだしゃい、うっ、うう。いい加減にしてください、<雷帝の導き>」
ドッガーン バリバリ
さっきの俺の魔法より激しい光が部屋を満たした。その後には大兎の姿はどこにもなかった。
「第8階級雷魔法………」
「それはまた…… 白か」
「見てたんですか。か、館長セクハラで訴えますよ」
「何の話だ、おれは一言もそのことだとは言ってないぞ」
「うっ、うう」
まあ、大兎がライラのワンピースの中に突っ込むというちょっとしたトラブルになった。ちなみに第8階級魔法は全10階級の上から2番目で、威力は一撃でこの世界の王城を吹き飛ばせるそうだ。おれもあれを喰らわないよう気を付けよう。
「かわいいですね」
「とても便利よ、それ」
「そうなんですか」
召喚魔法では白い梟が出てきた。なんでもこの梟、召喚者の魔力を媒介する杖代わりになり、他の遠方の梟や、通信用の魔道具とも交信できるすごいやつらしい。
「レベル1の召喚魔法はランダム性が高いけど、その子は本当に当たりよ。そうよ、使い魔にしちゃえば」
「できるんですか」
「ええ、すぐにね」
「じゃあ、私が契約魔法陣を書きますね」
そうやって、ライラが魔法陣を書いている間に<星占い>と<魔法薬調合>をやってみたが、星占いは明日のラッキーカラーが出ただけだったし、魔法薬調合でできたポーションは店売りの数段下のものができただけだった。
「できましたよ」
「どうすればいいんだ」
「名前を付けてから、魔法陣の中心にこの子を置いて、自分の血を一滴落とせばいいわ」
さて名前かあ、一瞬ヘ〇ウィグという名前がでてきたがパクるのはなあ。たしか梟は英語でフールだったかホールだったか、いやフールは道化で、ホールは穴か。じゃあ白梟だし黒が何語だったか覚えてないけどノワールっていうし、
「よし、お前の名前はホワールだ」
「ホウ」
しかしネーミングセンスがないと自分でも思うな。まあ、そこは諦めよう。ホワールを魔法陣の上に置いて血を一滴たらす。
「よろしく頼むぞ、女神の息子よ」
「えっ、梟がしゃべった」
「なんだ、そんなに不思議か。まあ、わしのことについてはいずれ語ろう」
梟がしゃべるとはさすが異世界と思ったが、どうやら異世界でも常識ではないらしい。
「し、信じられない。普通の梟がしゃべるなんて」
「ライラちゃん落ち着いて。普通じゃないからしゃべるのよ」
はあ、面倒なスキルやらなにやらはもう御免なんだけどな。
このときはその程度にしか考えていなかった。しかし、この梟が後に大変なものだと知る時には、この数倍面倒な状況になっていることを俺はまだ知らない。
ともかくこうして、俺シュウヤ・イフィリアの異世界生活は始まったのである。