1-10魔導書との契約
読んでくださる方、ありがとうございます。
明日より、別作品の投稿をメインにしますので、こちらは不定期投稿となります。
本日二話目です。
「なるほど、そういうことがあったのね。それでもライラちゃんが泣くなんて珍しいわね」
「だから泣いてませんって」
「はいはい、じゃあそういうことにしておきましょうか」
さてライラを落ち着かせてくれた、11番司書さんは茶色いロングヘアーの40手前ぐらいの女の人だった。その人の特徴はとてつもなく美人だということともう一つ……
「ところで、ローブ着てますけどひょっとしてあなたの担当は」
「ええ、あなたの思っている通りよ。自己紹介が遅れたわね、10番書庫、魔導書の棚を預かるパイシーズよ」
そう、紫色の分厚いローブを着ていたのだった。なんでさっき気づかなかったんだろう、俺。
「新館長のシュウヤ・イフィリアです」
「その名前の事情はアリエスから聞いているわ。よろしくね、女神の息子さん」
「やめましょうよその言い方は」
「冗談よ。それより、そろそろ復活したかしら、ライラちゃん」
「はい、落ち着きました」
あの後、おれたちはパイシーズの司書室でのんびりとお茶を飲みながら会話していた。
俺の横にいたライラがようやく落ち着いたところでパイシーズは会話を再開した。
「それで、当然このフロアには顔合わせだけの目的で来たわけじゃないわよね、ライラ」
「はい、パイシーズさんには魔法学についてのお話と魔導書契約にについて、館長にお話ししていただこうと思っています。館長の元いた世界には、魔法がなかったそうなので」
「わかったわ。じゃあ何から話そうかしら」
「ちょっと待て。魔導書契約ってなんだ」
「それは後で話すわ」
ちょっと、また面倒なことになりそうな単語が出てきたぞ。魔導書契約って…… まあ、後で話してくれるみたいだし、俺としてはやばいことにならないように、祈るだけだな。
「さてと、まず4大精霊ってわかる?」
「火、水、土、風の4精霊のことか」
「そうよ、その4体の精霊は4属性の魔素のことで、空間上にある魔力微粒子から生成されるの。空間上にある魔力元素と呼ばれるものの大半がこれよ」
「館長の世界で言えば、魔力微粒子が原子、魔素が分子だと思ってください」
「つまり、その魔力元素を操作して、現象を引きおこせるのが魔導士ってことか」
「そういうことね、多くの人間は、自分の体内で魔力微粒子から魔素を生み出せるの。そして、その生成量と蓄積量の推移がMPで、自身のMPを消費して体外の魔力微粒子に干渉することで魔法が発動するの」
「つまり、MPが多い人ほど干渉量が増えるから大規模な魔法が使えると」
「そいうことよ、ちなみに<魔力>は、一度に放出できる魔素の量。<知力>は一度に操れる魔力の量と考えてね。だから、その3つの能力値の最低値が実質的なその人の魔法の実力ね」
そうなると、カンストした上の領域にある俺のステータスはどうなるのだろうか。というか、前館長がどうだったのか聞けばいい。しかし帰ってきた回答はとんでもないものだった。
「実は、前館長は確かにカンストはしていたんだけどEXまではいってないの。だから……」
「どうなるのかは分からない、ということですか」
「そういうことになるわね。おそらく異世界図書館長>の体内の魔力は直接星の魔核に通じているのだと思うわ。経緯は分からないけど」
「ライラ、魔核ってなんだ」
「はい、魔核というのは星の通常の核とは別の位相にある星の魔力の源です。人が持っている魔素への変換機構の巨大版みたいなものと、言えばいいでしょうか」
どんどん話が大きくなっている気がする。つまり、俺は星中のすべての魔力を操れるということか。もう半分神さまみたいな……も、の、か。異世界図書館長って。
「館長の非常識な能力のことはいったん置いて考えてね。情報がなさすぎるし、話が進まないから」
「わかった」
「それで、4属性が基本の魔素なのだけど、実は特殊な属性があと4つあるの。木、雷、聖、闇の4つ。これらは自然界には存在するんだけど、人間は使える人はほとんどいないわ。8属性すべてを使えるのなんて、ここの人間を除くと大賢者ぐらいでしょうね。まあ、他にも特殊魔法がいくつかあるけど、それはまた今度でいいでしょ」
「俺は、1つも属性魔法、使えないけど」
「あれだけの魔術素養がありますから、逆に使えない方がおかしいので。大丈夫です、すぐに覚えられます」
「はい、修也館長なら大丈夫です」
「あっ、ありがとう……」
普通に使えないと言っただけなのに結構本気でフォローされた。別に気にしてないよ、うん。
「では、まあだいたいの話も終わりましたし、<魔導書契約>に移りましょうか」
「そう、その説明を待ってたんだよ。で、どういうこと」
「異世界図書館の館長は、館内では絶大な権限を持ちますが、館外では魔導書召喚などのスキルもすべて効率が置いてしまいます。最もそれでも絶大な力があるのですが…… ともかく館内の一冊の魔導書と契約を行い、その力を館外でも維持することで、館長の身を守る事を目的とした契約です」
「あと、館長と異世界図書館とのつながりを強化するという目的もあるのだけどね」
そういいつつ、パイシーズは館長室に転移した。
「さてと。館長、ここの扉を開けてくれない」
「ここを開ければいいのか?」
「ええ、お願い」
館長室の中から通じる扉は、館長以外には開けられないらしい。言われたとおりに扉を開くと、そこには巨大な魔法陣が光を放っていた。
「ここは?」
「魔導書契約魔法陣よ、とりあえず真ん中に立って」
そう言われて魔法陣の真ん中に向かう。うん、なんか光が強くなってないか。
「私に続いて唱えて、<我のみに従うもの 書という概念を持って ここに顕現せよ 原初の魔導書>
「ええっと、<我のみに従うもの 書という概念を持って ここに顕現せよ 原初の魔導書>
そう唱え切った瞬間、光が爆発した。空間が光に包まれる。
「どうしたのですか、パイシーズさん。こんな状況、見たことないですよ」
「私も知らない、何なのこの膨大な魔力エネルギーは、顕現するのにここまでの力を必要とするなんて」
「ということは、あれは魔力の塊ということですか」
「そうよ」
「ということは、館長が巻き込まれてるんじゃ」
「大丈夫よ、おそらく館長の魔力質はこの星のものに極めて近いから。ほとんど影響を受けないはずよ」
「それは、どういう意味だ」
「修也館長」
司書二人の会話を聞いているうちに光はすっかり収まっていた。さて、そうしたときに気づいたのだがおれのローブの中の左手には本が握られていた。
「召喚した魔導書って、たぶんこれなんだと思うんだけど」
「さて、あんな膨大なエネルギーを放つとか、いったいどんな本なの、か……」
「どうしましたパイシーズ。その本がどうか……」
「どうしたんだよ二人とも。この本がどうかしたのか」
二人とも魔導書を見た瞬間から表情が固まっている。見た目は普通の魔導書、まあ普通の魔導書がどんなだか知らんが。
「館長、その本の題名、読めますか」
「ああ、<万象召喚術法書>って書いてあるな」
「その本は、禁書庫の最深部にあるものです」
「効果は世界で生み出されるものを召喚すること。すなわち持ち運び可能、しかも書き込み可能な<万象の理>と、捉えていただければ……」
「………………チェンジってできる」
「不可能です。術式の効果を最大にするために、館長の死亡以外では解除できなくなっています」
「修也館長、私からは頑張ってくださいとしか…」
「なんで最後にそんなやばいもんが来るんだよ。どうなってやがるーーーーーーーー」
俺の魂の叫びは最下層のアリエスの元まで届いたそうだ。
しかし<万象の理>ってチート過ぎるだろ……
楽しんでいただけたら幸いです。
普段は「異世界でも貴女と研究だけを愛する」という作品を上げてますので、そちらもよろしくお願いします。