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Armonia  作者: ArmoniaProject
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プロローグ

私が中学1年生の時のこと。



「やったね、和音!」


「う、うん…!合唱コンクールで最優秀賞なんて…!」



そこで初めて、私は合唱というものを好きになりました。



あの時私たちが歌った曲。


その時から私は、気づけばこの曲を口ずさむようになっていました。


「…♪」

「どしたの?ご機嫌だね、和音」

「わわっ、唯ちゃん!?」

「またその曲歌ってるの?」

「えへへ、気に入っちゃったから」



その曲、『COSMOS』は、コンクールのおかげで私にとって、とても思い出深いものになりました。


大の仲良しの唯ちゃんと帰りながら、一緒にこの曲を歌ったこともありました。



合唱で素敵な音楽を作って、たくさんの人に届けたいな…。



そんな帰り道には、決まってこんな夢を思い描くようになっていました。


そして、高校に入学したら合唱をやりたい、という思いもそこから生まれてきました。

____そう思っては、いたものの…。


この高校にも…こっちにも合唱部がない…。


「和音?」

「わわっ!?な、なあに、唯ちゃん…?」

突然声をかけられ、驚きながら返事をしました。

「いや、だってそんなに泣きそうになりながら進路のこと調べてるんだもん」

「あ、あのね…。実は、合唱部のある高校を知りたかったの。でも、全然見つからなくて…」

「なるほど、そうだったの」


近くの高校に合唱部があればそこで合唱ができる、と軽い気持ちで考えていました。

ですが、現実はそれほど甘くなかったのです。


「唯ちゃんも、こ、高校で合唱部に入りたいって言ってたよね?」

「そうそう。姉ちゃんが二高の合唱部員だから、私もそこ行こうかなって」

「二高…。私の学力じゃ…。それに、距離的にも…」

私の目の前がどんどん暗くなっていきます…。

「大会の情報からは調べた?もしかすると近くに出てる高校があるかもしれないし」

「た、大会…。そっか…!」

唯ちゃんのその言葉で、一筋の光が差し込みました。

「きっとそっちのほうが見つけやすいんじゃないかな。Nコンと全日本の2つは有名なコンクールだし、まずはそれを調べればいいと思うよ」

「あ、ありがとう…!」


唯ちゃんにアドバイスをもらったその日は、帰ってから勉強もそこそこに、合唱部のある高校を調べ始めたのでした。

しかし…。


まずはNコンかな…。

県予選に出た学校は…。


5校…!?少ない…。


じゃ、じゃあ全日本のほうは…。


こっちは、11校…。


通えるか通えないかくらいの距離に3校。

でも全部二高クラスの学力がないと無理…。


調べれば調べるほど、私にとって大変な事実ばかりが出てきました。

私は頭を抱え、唸ることしかできませんでした。


現実的な距離のところが一高、二高、四高…。


「おねーちゃーん…」


県でもトップレベルの学校…。


「おねーちゃーん」


全然、現実的じゃないなあ…。


「おねーちゃーん!」

ドアが開かれ、聞こえてきた大きな声に驚くと、

「わわっ!な、なに!?鈴音…!!」

そこに立っていたのは、妹の鈴音でした。

「久しぶりだねー。かずおねーちゃんがその呼び方するなんて」

「だ、だって…。すずが急に入ってくるんだもん…」

「えへへ、ごめんごめん。それで、どうしたの?そんなにぼーっとして」

「あ、あのね…。私、合唱やりたいなって思ってるんだけど、合唱部がある高校がどこも行きにくくて…」

「行きにくいって、どういうこと…?」

核心を突く質問に、私の口は重くなりました。

「せ、成績とか、距離とか…」

「そっかあ、うーん…」

すずはそう言って、自分のことのように真剣に考え始めてくれました。



そうして、2人で考えていると、

「あっ!いいこと思いついた!」

突然、すずがそう叫びました。

「"いいこと"って何…?」

「うん!あのね、部活がないなら、新しく作っちゃえばいいんじゃないかなーって」

「あっ、そっか…」

「志望校のことはよくわかんないけど、これならどこでも合唱ができそうじゃない?」

「それ、いいかも…!」

ゆいちゃんのアドバイスに引き続き、またしても光が差し込んできました。

「あたしが今入ってる演劇部も、割と最近できた部だって先輩が言ってたし」


そういえばそんな話、私も友達から聞いたような気がする…。


「そしたら、それで決まりかなあ?どう?」

「うん、それで考えてみる!すず、ありがとう…!」




次の日。


「あ!和音、おはよー!」

教室に着くと、唯ちゃんに話しかけられました。

「ゆいちゃん。お、おはよ…!」

「お?和音、なんか、今日…どした?」

唯ちゃんは、不思議そうな表情で私に尋ねました。

「な、何か変?」

「いや、いつもとちょっと違う感じの顔してたからさー」

「うーん…。ど、どうだろ?」

難題を1つ解決したことで、私は少し元気になっていたのかもしれません。

「何かいいことあったの?」

唯ちゃんの口調が少し明るくなりました。

「いいこと、かはわかんないんだけど…」

私が曖昧に言うと、

「なーに?」

と、唯ちゃんが興味深そうに言いました。

「昨日の、し、進路の話でさ」

「うんうん」


私は、昨日のことを話し始めました。


「合唱部のある高校がなくって、どうしようって思ってたんだけどね」

「見つからなかったの?いいとこ」

「そうなの」

「そうだったんだ…。でも、じゃあ____ 」

「ううん、大丈夫!ないなら作ればいいって、そう思ったから!」

不安そうな唯ちゃんの言葉を遮って、私は言いました。

「和音…」

「唯ちゃん!私も絶対、高校で合唱やるから!」

「……」

唯ちゃんは複雑な表情のまま、何も言いませんでした。

「だから、場所は変わっちゃうけど…唯ちゃんも素敵な音楽を作ってね!」

「…うん」

「私も、合唱をやりたいと思ってる人たちと一緒に、みんなで頑張るから!」

「…そうだね。一緒に頑張ろう!」



そうして私はあのとき、唯ちゃんと約束をしました。





それは、別々のところに進学してもお互い合唱に打ち込もう、というものでした。


その約束を果たす最初の一歩を踏み出せて、私はとっても嬉しいです…!



…なんて、まだ流石に言えません。

とっても長くて、照れくさいお話だもの。

でも、いつか言えたらいいな。

その想いを胸にしまって、私はこの合唱同好会で、たくさんの人に素敵な音楽を届けていきたいです。


まだぼんやりとしている私の夢も、いつか、はっきりとしたものになることを願って。

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