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Armonia  作者: ArmoniaProject
11/28

9輪

合宿最終日、練習部屋に全員が集まると、宝条先輩が本のような物を取り出した。

「じゃーん!」

表紙を見てみると、女声合唱用の楽譜であることがわかった。

「実は、この合宿で使えたらなって思って、楽譜を注文していたの。

それで昨日の午後に届いたの」

嬉しそうに宝条先輩が説明すると、

「…すみれ、そういうのはみんなに相談してからにするべきだと思う。

でも、ありがとう」

と一ノ瀬先輩が言った。

確かに驚いたが、女声合唱用の楽譜という未知の物に対して、私は少しワクワクした。

「それで、今日歌う曲を決めたいのだけど…これとかどうかしら?」

そう言って、宝条先輩は適当にページを開いた。

「『ひこうき雲』…知らない曲ですね…」

「確か、アニメ映画の主題歌になった曲ね」

「私も知ってます!あのシリーズのアニメ好きなんです!」

そう言った和音は少し興奮していて、よっぽど好きなんだろうなと思った。

「私も聴いたことはあります」

「…私は知らないけど、それでも構わないわ」

「じゃあ、改めて聞くわ。『ひこうき雲』でいいかしら?」

宝条先輩の言葉に全員が賛成し、歌う曲が決まった。


「それでは練習を始めるです」

園内さんの掛け声で、昨日と同じ基礎練習を始めた。

和音はやはり筋トレに苦戦していたが、少しは慣れたのか、昨日よりは辛くなさそうだった。


基礎練習が終わると、

「次は『ひこうき雲』を歌う為のパート決めですが、その前に一応パートの確認をするです」

園内さんはそう言って紙とペンを取り出すと、楽譜のような線を描き始めた。


挿絵(By みてみん)


「一般的に、上からソプラノ、メゾソプラノ、アルトの音域です。

今からこのように皆さんの音域を調べるです」

園内さんの説明によると、発声練習でよくやる、"ドレミファソファミレド"を半音ずつ上げ下げしていき、限界が来たら挙手。

上も下も全員が歌えなくなったら終了という方法で調べるらしい。

「ピアノ担当と声域をチェックする人が必要なので、2組に分かれて交代してやるです。

最初は橋留さんと宝条先輩で、ピアノは一ノ瀬先輩、次は中篠さんと一ノ瀬先輩で、ピアノは宝条先輩お願いするです。

何か質問あるですか?」

園内さんのその問いに、私はふと思ったことを訊ねた。

「園内さんはやらないのか?」

「ええ、自分の音域は把握しているので」

「そっか、ありがとう」

少し驚いたが、経験者なら当然なのかなと思いながら礼を言った。


そして園内さんによるチェックが終わり、講評が始まった。

「お疲れ様でした。まずは最初のお二人です。

宝条先輩があそこまで高い声を出せるとは驚きました。橋留さんも練習次第ではもう少し高い声を出せると思うです。

次のお二人ですが、一ノ瀬先輩は申し分ない結果ですね。中篠さんもまずまずといったところです」

園内さんの講評に、宝条先輩と和音は少し嬉しそうで、一ノ瀬先輩は少し照れているように見えた。

私は、どうやら悪くはないようでほっとした。

「それで、肝心のパートですが、宝条先輩と橋留さんがソプラノ、私がメゾソプラノ、中篠さんと一ノ瀬先輩がアルトでどうでしょうか?

人数の都合上、ソプラノかメゾを1人にしないといけないのですが、パートごとの実力差をほぼ均等にする為にはこうするべきかと」

「うん、私じゃ2人分にならないから園内さんお願い」

「そうね、良いんじゃないかしら」

「私はよく分からないから任せるよ」

「…良いと思うわ」

「では、決定ですね」




パートが決まり、パートごとに練習をする為、私と一ノ瀬先輩は別の部屋へ移動した。

園内さんは1人で練習しようとしたが、宝条先輩に誘われ、和音と3人で練習することにしたようだ。

「一ノ瀬先輩、よろしくお願いします」

「…こちらこそよろしく」

簡単に挨拶をして、練習を始めた。

「…まず、簡単に弾いてみるから聴いてもらえるかしら?」

そう言って電子ピアノの前に座る一ノ瀬先輩に、私は驚きを隠せなかった。

「えっ、一ノ瀬先輩この曲知らないんじゃ…」

「…ええ。でも、そんなに難しくなさそうだから弾けると思う」

「凄い…」

「…ピアノをやっていると、知らない曲でも楽譜を見れば弾けるようになるの。すみれもそうね」

「そうなんですね…」

私が感心している間に一ノ瀬先輩は準備を終え、ピアノを弾き始めた。

演奏を聴いていると、ぼんやりとどんな曲だったかを思い出すことは出来たが、口ずさむことすら出来なさそうで、不安に駆られた。

「…この曲、アルトが主旋律みたいね。頑張りましょう」

演奏を終えた一ノ瀬先輩がそう言った。

「はい…」

私にとっては追い討ちでしかなかったが、どうにか返事をすることは出来た。


「…次は、フレーズごとに区切って音取りをしましょう」

「わかりました」

音痴を改善する練習と同じ要領だった為、戸惑うことはなかった。

しかし、聞き慣れない曲の為、同じフレーズを何度も繰り返し歌うが、中々思ったように声が出せず、少しずつ焦りと不安が募ってきた。

そんな私を見て、

「…一旦休憩にしましょう」

と一ノ瀬先輩が言った。

「すみません、ありがとうございます」


そういえば、一ノ瀬先輩と二人きりって初めてだな…

何か話した方がいいのかな…


「一ノ瀬先輩って、どうして合唱始めたんですか?」

「…大した理由じゃないわ。音楽をやりたかったけど目立つのは嫌だったからってだけ」

一ノ瀬先輩らしいなと思ったと同時に、やっぱり音楽が好きなんだなと思った。

「そうなんですか。でも、音楽をやりたいっていう気持ちは素敵だと思います」

「…ありがとう」


口数が少なくて、何を考えてるんだろうって思ってたけど、思ってたより熱い人なのかな…

もっと仲良くなって、たくさん話してみたいな…


休憩の後、先ほど苦戦していたサビのフレーズをもう一度歌うも、やはり上手くはいかなかった。

すると、

「…サビはハモりのパートだから余計に難しいのかもしれない。私がソプラノを歌ってみるから、それに合わせて歌ってみてもらえるかしら?」

一ノ瀬先輩がそう提案してくれた。

「分かりました。お願いします」

言われた通り、一ノ瀬先輩の声に被せることを意識してみるも、ソプラノにつられてしまい、期待通りにはならなかった。

「…じゃあ、アルトパートを弾きながら歌ってみるわ」

ピアノの音を頼りに歌ってみると、先ほどよりは上手く歌えた気がした。

それを繰り返し、4回目でようやく綺麗にハモることが出来た。

「…良さそうね」

「はい!」


その後も少しずつ先に進み、なんとか最後まで歌ったところで午前の練習は終わりになった。


みんなでお昼ごはんを食べながら、お互いのグループの練習の進捗を報告した。

「こっちは順調よ。やっぱりこはるちゃんは上手ね」

「…そう。こっちは少し苦戦してるわ。もう少しペースを上げないと、合わせるのは難しいかもしれない」

「すみません…私のせいで…」

「そこまで気にすることないです。経験の差が出るのは当然ですし、予想もしてるです」

「そうだよ若菜ちゃん!みんな若菜ちゃんが頑張ってるの分かってるから」

「園内さん…和音…」

2人の力強い言葉に、折れかけてた心が活気を取り戻した。




お昼の休憩が終わり、午後の練習に入った。

まずは全員で発声練習をするとのことで、練習室に集合した。

「一口に発声練習と言っても、種類がたくさんあるです。

昨日やった練習も含め、いくつか大まかに説明するです」

園内さんはそう言ってから少し考える素振りを見せた後、もう一度話し始めた。

「まずは、パート決めの時にもやった、"ドレミファソファミレド"を半音ずつ上げ下げしていく練習です。これは半音、全音の間隔に慣れ、色々な調の"ドレミファソ"を歌えるようにする練習です。

次は、8分音符で"ソソソソソファミレド"を"はははははへひほふ"とスタッカートで歌う練習です。スタッカートとハ行の発音の練習ですね。

あとは、4分音符で同じ音で"あーえーいーおーうー"と伸ばし、これを半音ずつあげていく練習です。これは母音の発音の練習です。

他にもいくつかありますが、今日やるのはこれくらいでいいでしょう」

説明の半分も理解出来なかったが、とにかくやってみるしかないのだろうと思い、聞き直さなかった。


発声練習の後は、もう一度パート練習をやることになったが、その前に宝条先輩が確認したいことがあると言い、全員の注目を集めた。

「『ひこうき雲』のラスト、楽譜では各パート2音ずつあるんだけど、メゾはこはるちゃんしかいないから、どうしたらいいのかなって」

「そうですね…今まで人数不足で音を削ったことはないので…」

「…ピアノで鳴らしてみたらどうかしら?」

宝条先輩が そうね と言い、ピアノを鳴らした。

「まずは楽譜通りね…

次は片方の音を削って…

もう片方の音を削って…」

3つのパターンを聴き比べてみると、音楽に詳しくない私にも分かる程、印象に違いが出た。

「この音を削るのが一番マシですかね…」

園内さんが渋々そう言い、先輩方が同意し、一応問題は解決したらしい。

そして、私たちは別の部屋に移り、パート練習を始めた。

午前の練習で苦しんだ部分を重点的に練習し、アルトパートの伴奏がなくても、サビでソプラノにつられることが無くなった。

「よし…!」

手応えを感じ、思わず呟いていた。

「…ここまで出来ればみんなと合わせても大丈夫そうね。お疲れ様」

「ありがとうございます!一ノ瀬先輩のお陰です!」




私たちはパート練習を切り上げ、練習部屋に移動し、全員で合わせて歌うことになった。


やや緊張しながらも、最後まで歌いきることが出来た。

その後、反省会となり、録音したものをみんなで聴いた。

「それでは、気になった部分を一箇所ずつ確認するです」

そう言って、園内さんは順番に指摘していった。

その中の半分程は私に原因があることだった為、少しヘコんだ。

「あと、最後の部分ですが、和音がおかしい気がするですが…」

園内さんがそう言いながら、もう一度録音したものを再生した。

改めて聴くと、確かに曲の最後には相応しくない、不安になるような感じがした。

「正しい和音はこんな感じなんだけど…もしかして、若菜ちゃんの音が半音高くなっているんじゃないかしら?」

そう言って、宝条先輩が録音した音を再現してみせた。

「凄い…!」

「中々やるですね…」

和音や園内さんも驚いていた為、そう簡単に出来ることではないのだろう。


その後、最後の和音を丁寧に確認し、もう一度合わせて歌ってみることになった。

「それでは」

という園内さんの声で全員が歌う姿勢を取った。


歌い終えると、先程まではなかった一体感や、高揚感があった。

興奮しながらみんなを見てみると、同じ様に興奮していて、私の勘違いではないと分かり、嬉しくなった。

「若菜ちゃん!やったね!」

「ああ!」

ふと、バスケをやっていた時を思い出し、ハイタッチをしようと手を出してみた。

和音は一瞬何のことか分からない様子を見せたが、すぐに笑顔で頷き、力強く手を叩いてくれた。

「このハーモニー、たくさんの人に聞いてほしいなあ…」

和音が誰に言うでもなく、そう呟くと、

「あ、それ!」

と、宝条先輩が食い気味に反応した。

「同好会の目標、これでどうかしら?」

「…そういえば、まだ決めてなかったわね」

「悪くないですね」

「良いと思います!」

こうして、合唱同好会の目標が決まった。

そして、

「みなさん、この目標を忘れずに、これから頑張っていきましょう」

という園内さんの言葉で合宿での練習が締めくくられた。

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