突発的なハジマリ
初投稿です。よろしくお願いします!
「いい加減とまりなさい!きみっ!」
突然だが俺は今、警官に追われている。
なんでって?
おそらく真冬にノースリーブ、パンツ一丁っていう斬新なファッションセンスが警官の目を惹いてしまったのだろう。
「はあ…はあ…。ちょ、止まって、まじで。ほんとに。
も、もう、……止まれやてめえこらぁっ!」
…え?
「もう決めた、絶対許さねぇ。絶対お前を捕まえてやるっ!」
なんか変なスイッチが入っちゃったみたいだ
だが無理もない。別にあのおまわりさんの頭がおかしいとかでもないと思う。
なにせ俺たちがこの追いかけっこ始めてから
かれこれ2時間近くたっているのだから。
しかし、ますます捕まったら何されるかわからなくなってしまったぞ。
まあ、それ以前に俺には捕まりたくない理由が他にある。
第一に捕まればまず、この格好のことやらその他諸々根掘り葉掘り聞かれることだろう。
当然連絡を受けた親が俺を迎えにくることになるはずだ。問題はここだ。
捕まったら親に会うことになる。
ーーそれだけは、いやだ…。絶対いやだ…。死んでもいやだ…。
家族にはもう二度と会わない。
そう決心して俺は家を出てきたんだ。
なので必然的に俺には「大人しく捕まる」ということ自体がそもそも選択肢にはない。
だが、この状況をどうにかする手段がぱっと思い浮かばないのも事実。
俺は藁にもすがる思いで辺りを見渡し、やつの想像を上回る狂逸的な打開策を探っていた。
「……!」
あったぞ。この状況をなんとかする方法が。
俺は限界に達していた残りの体力を無理矢理振り絞り、青信号の合図で走り出そうとしていたトラックの荷台に向かって見事な空中四回転ひねりを放った。
「とうっ!とうっ、とう…(エコー)……
…………ぎゃんっ!」
そして見事な顔面着地を決めた。
間に合ったみたいだ。
〈狂逸的〉とかよく意味もわからんが、何となく格好いい言葉を使ってカッコつけていたが、普通にトラックに飛び乗っただけである。
だが、俺の四回転ひねりはやつの想像を遥かに上回っていたことだろう。
故に俺の完全勝利。
などとくだらない事を考えている内にあの警官との距離は随分離れていたようだ。
「うわ、あの人まだ走って追ってきてるよ。すごい執念だな」
だが流石に追いつかれる心配はないだろう。
しかし、このトラックがたまたま目にとまってよかったぜ。
じゃなきゃほんとに捕まってただろうな。
さすがにあの人には勝てそうにないし…。
見た所、荷物を配達しているトラックらしい。
荷台には冷蔵庫くらいの大きさの四角い箱がいくつか積んであった。
寒さが限界に来てた俺は、毛布に包まれた比較的小さな荷物に目をつけた。
「乗せてもらってる身分で気がひけるけど、さすがにこの格好は現代に生きる人間としてふさわしい姿ではない。」
俺は寒さで感覚が麻痺している指先で毛布をぐいっと引っぱった。
次の瞬間、
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
毛布を奪われ姿を現した『それ』は、一瞬にして指先どころか俺の全身の感覚を麻痺させてしまった。
透き通るような肌に整った顔立ち。
スレンダーなのに出るとこはしっかり出ていて、
…まるで男子の憧れをそのまま具現化したような、『エッチなお姉さん』
ーーの腹には包丁が容赦無く突き刺さっていた。
死ぬほど寒いはずなのに、全身の毛穴から汗がふきだしてくる。
「し、しんでる。ど、どうしよう…。
そうだ!け、警察だ!警察呼ばなきゃっ!」
俺はさっきまで自分が何から逃げていたのかも忘れるほど頭が真っ白になっていた。
幸い携帯だけは肌身離さず持っていたので、連絡手段はあった。
「え、えーと、警察って何番だっけ?!」
完全に俺が取り乱しあたふたしていると、
目の前ではさらに驚愕の展開が繰り広げられていた。
『あ、なた…だ……れ…?』
死体が喋った。
「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今日だけで昨日の俺では想像もつかないような状況がいくつ起こったことだろう。
だが、さすがにこれは俺の中での許容範囲ボーダーラインを軽く超えてしまったようだ。
俺は自分の情けない悲鳴に意識も思考もかき消され口からはよだれを、鼻からは血を流し、あほ丸出しでその場に気絶してしまった。
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