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赤の正義  作者: 千歳実悠
第1章 自分らしく
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事の始まり

「ほら、席つけー。2時間目はホームルームだ。いいかー?決める事が沢山あるからな!しっかり行くぞ!」


ガヤガヤしていた教室が少し静まりかえった。

出歩いていた生徒達が次々に自分の席へと戻る。

その様子を俺は一番後ろの席から眺めていた。


ふと、横を見る。

自然に赤いリボンへと目が移った。

真っ白な肌に血のように垂れる赤いリボン。


この教室に、これに気づいている人は何人いるのだろう。



「なに?」


「…え!?」


あまりに見つめすぎてしまったのか。

木瀬が不愉快そうに尋ねてきた。


不意打ちをくらい、口篭る。

すぐさま顔を背け自分の机上を見つめた。


俺は奥手な性格。女子などと絡むことさえ少ない。

不意打ちなど喰らえば、まともに答えられない。


そんな自分の思いに、嫌気がさした。



ちらりと、目だけで彼女を盗み見る。



木瀬は、こちらの事などもう忘れたかのように前を向いて座っていた。



「よし、相澤さん、号令頼む」

「はい、起立、礼………着席」


出席番号1番の女子生徒が代理で授業開始の号令をかけた。

これでまともに今年度が始まる。


「はい、今年度も1組の担任となりました。三杉みすぎ拓志たくじです。どうぞ1年間よろしくお願いします」

先ほどの始業式で正式に担任と発表された三杉先生が頭を下げる。


「やったね、今年も三杉先生だ」

「よろしくお願いしまぁす」


生徒からチラホラと返事も出た。

先生は顔をあげ、教室中をぐるりと見渡す。

うん、と1つ頷いてから話を続けた。


今年度の主な行事予定、テスト、遠足。

そして、高校二年生というものの大事さ。


つらつらと述べられるその項目を俺は1通り頭に通した。


「いいか、中だるみの年と言われるこの学年だ。でも気を抜くなよ、未来が全てかかっていると言っても過言ではありないからな?」


そうかもしれない。何事も過程が大事というのはこの歳にもなれば身にしみて分かっている。

大学という目標に進むためにはこの高校二年生がいかに大切かは理解出来た。


だが、未来なんて予測できない。


それも充分に理解していた。



そして、同時にこうも理解している。

ーーー俺がどう足掻いたって、周りの流れにかき消されてしまう。


この世界で決まっていく物事は全て多数決。

AとB。例えBが正しくても、大勢がAを正とすれば、必然的にBは誤になる。


俺は人事のように先生の話を聞いていた。



「さて、と。じゃあそろそろ先生も喋り疲れたからな。ここからは誰かにバトンタッチだ。……と、言うわけで。前期の学級委員を決めます、はい立候補する人!」


気がつけば話は進み、学級委員の選定まで進んでいた。


立候補ね、そんな事する人いるのかな…なんて思っていた。

わざわざそんな面倒な役を買う人などなかなかいない。

案の定、誰もが下を向く。

しばらく無言の時間が続いた。



「あの、もし、誰もいなければ」


学級委員の話題になった瞬間に顔を下へ向けた生徒達も、その一瞬である1点を見つめる。


「お、手が上がったな。流石だ、西さん」


ただ1人背筋を伸ばし手を上げる女子生徒ーー西にし美菜子みなこだった。


「では西さん、今期も頼むよ。賛成の人は拍手」


異論がある訳ない。

クラス中から惜しみない拍手が起きた。



正直、学級委員なんて誰でも出来る。

ただ言いつけられた雑用をこなすだけ。

とてもシンプルだ。


だが“上手くできる”人は少ない。

要領が悪いヤツが「学級委員」なんて肩書きを背負った日には、嫌われ者になる未来しか用意されていない。

どれだけみんなの為に行動しても疎まれるのがオチだ。


その点で西美菜子は優れていた。

去年も、前期後期ともに学級委員長を全うした。

うまくクラスの調和を保ちつつ、みんなを良い方向へと引っ張っていく。

なぜか彼女には「協力してもいいかな」と思ってしまった。

それ故、彼女が学級委員に立候補した所で反対する人もいない。


まあ、大半の人が“自分じゃなければ誰でもいい”と思っているだろうが。



それでも俺は感心する。

こういう場面で堂々と手を上げる度胸。

素直に羨ましいと思った。



「それじゃあ、女子は決まりだな、後は男子だ諸君。男気をみせたまえ」

三杉先生が冗談めかしく言う。


1番窓側の1番後ろ。

俺の席からはクラス全体が見える。

面白いくらいに男子が一斉に下を向いた。


「なんだよお前らぁ…情けないなぁ!手を上げるだけじゃないか」


そうだ、手を上げるだけだ。

誰でもいいから俺以外の誰かに決まって欲しい。

こういう役はクラスの人気者が受ければいいのだ。

榊原あたり手を上げてしまえば……!?




そこまで思考が向いた時、背筋がヒヤリとした。


いつからだろうか。

例の転校生ーーー木瀬渚がずっとこちらを見ていたのだ。


隣の席のため1メートル離れているかいないかの距離。


その距離で顔ごとこちらを向けていた。



「………な、なに…?」

「………」


耐えきれずに小声で話しかけると、彼女は無言で前を向いた。


突然の出来事に驚く。

ドクドクと早まる鼓動を落ち着かせようと膝の上で手を強く握った。

たった一瞬ではあったが強く印象に残る。

まるで心を見透かされたような感覚。

誤魔化すように俺は机の木目をひたすら見つめた。


こういう時はやけに沈黙が長く感じる。

つう、と生ぬるい汗が額を濡らす。



「先生」

「!!」


その沈黙を破ったのは凛とした声。


その声に驚いて顔を上げると、その出どころはまたもや彼女だった。

先生もその出来事に少々驚いた様子。

「ん?なんだ木瀬。立候補か?んー、出来れば男女1名ずつって言うのが理想なんだが…」

頬をぽりぽりと書きながら頭をひねる。

「先生」

「ん?」

「違います」


淡々と答える木瀬に前の方の席の子は後ろを振り返った。





「遠藤さんが立候補したいようです」










「……………え?」


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