九夜
俺は火魔法のレリーフと睨み合っている。
昨日は、高校生にもなって正座で一時間以上も怒られる事になった。
その、怒られる原因・・・・ボヤ騒ぎの原因になったのが、目の前にあるレリーフである。
レリーフめ!今こそ、仇を取ってやる!!今回は秘密兵器も用意したからな。
さぁ、ムーさん!この秘密兵器、魔力抑制の腕輪の使い方を教えて下さい!
「やっとぉ、説明させてもらえるんですねぇ 」
「頼むよー、ムーえもん。レリーフをぎゃふんと言わしてやりたいんだ!! 」
「よ、よくわからないけどぉ、わかったわぁ 」
ムーさんが、おほんっと咳払いを一つ入れて説明を始めた。
どこから出したのか、逆三角形の眼鏡と指し棒を持っている。
「この腕輪はぁ、兜太さんの無駄に多いぃ、馬鹿みたいな魔力を腕輪に付いた十個の石で抑制、リミッターをかけますぅ 」
「いや、無駄で馬鹿って。酷くない?! 」
お静かにぃ!っとビシッと指し棒で刺され、しぶしぶ黙る。
なんか理不尽だ。
「腕輪の石はぁ、魔力測定器のリミッターにも使われていた物ですぅ。腕輪の石一個で、一割の魔力を抑制しますぅ。つまりぃ!!石が十個作動している場合はぁ、全ての魔力が外に出る事が出来ません。五個作動させた場合は、五割、半分の魔力を抑制する訳ですねぇ 」
成る程、そんなに難しい物では無いようだ。
ムーさんは眼鏡をカチャカチャしている・・・・ノリノリである。
ここまでで質問はありますか?っと聞かれたので、どうすれば石が作動するのか聞いてみる。
「ムー先生、この腕輪の石はどうやったら作動するんですか? 」
「石が緑の状態が作動中、青が停止中ですぅ。切り替えは石に触れるだけの簡単、安心設計ですぅ 」
今は、緑の石が九個という事は、このままレリーフに触れば一割の魔力が流れるという事だな!
俺の魔力は10,000Pだから、レリーフには1,000P流れるわけか。
「兜太様、物は試しです!レリーフを使ってみましょう 」
「そうだね、リリ。怖がってもしょうがないし、やってみるか! 」
腕輪の石を再度確認して、レリーフと向き合う。
気持ちを落ち着かせる為、深呼吸を行う。
レリーフに軽く触れ、身体から魔力が流れていく様なイメージをする。
前回の様にレリーフが膨らむ事は無さそうだ、ゆっくりとレリーフが赤く染まっていく。
完全に赤く染め上がると、ボッ!っという音と共に、強めの焚火ぐらいの火が現れる。
成功?成功したよね?!
「かなり強火だけどぉ、とりあえずは成功ねぇ 」
「兜太様!おめでとうございます!! 」
「ありがとうございます、ムーさん!リリ! 」
これが初めての俺の魔法だ、なんか感極まって泣きそう。
ムーさんが言うには、本当は火種ぐらいの火力の魔法らしいが、成功は成功だろう。
これ以上、細かく腕輪で制御する事は難しいそうだ。
いやー、思えば長かった。
魔力の口で魔力測定をした結果は魔力0。
ムーさんのおかげで魔力がある事がわかったが、今度は多すぎて修練場の一角を焼け野原に。
やっと、大雑把ではあるが魔法が使えた。
まぁ、二日間の出来事なんですけどね。
「兜太様、次はロック鳥の剣を試してみて下さい! 」
「そうだね。今ならいける気がするよ!! 」
腰に腕を回し、買ったばかりの剣を鞘から引き抜く。
骨から作られた剣は、鉄の様に光を反射する事は無いが、白く、薄い刃が真珠の様に輝いている。
試し切りの為、角材を地面に刺してある一角に移動する事に。
城の兵士だろうか、二人ほど先客がいた。
リリの事を確認すると、二人とも小走りにこちらへ向かってくる。
「お疲れ様です、王女様。御見学ですか? 」
「ご苦労様です。鍛錬に励まれている様で何よりです 」
こういう会話を聞くとリリが王女様なんだと実感する。
王女の婿って凄い事なんだよな、実際。
兵士の名前は、トロイとバッシュ。
トロイは小柄なイケメン、色黒な肌と長めの黒髪、頭から生えた二本の角が印象的だ。
バッシュは単眼の大男、ガッシリした身体で見るからに力がありそうだ。
二人とも兵士になって1年目、同期だそうだ。
「邪魔をして御免なさい。今日は、兜太様の剣の試し切りにきたんです」
「いえ、邪魔だなんてとんでもないっす、です 」
リリに話かけてられてバッシュの方はテンパっている様だ。
無理もないか、新米兵士が王女様と話す機会なんて無いだろうし。
「姫様、今日もお美しい。修練場が花畑の様です 」
そう言って膝をついているのは、トロイ。
イケメンめ、キザなセリフなのに違和感がない。
こいつは俺の敵な気がする、爆発してしまえ!
「トロイはお上手ですね。良ければ兜太様の為に、少し見本をみせて欲しいのですが。宜しいですか? 」
もちろんですっと、二人は心よく引き受けてくれた。
そうだ、俺の為に働け、特にトロイ!
トロイは半身になり細身の剣を中段に構え、バッシュは正面から上段に大剣を構える。
同時に二人の刃が角材に当たる。
角材と言っても一本が丸太程の太さを持っていて、そう簡単に両断出来るとは思えない。
木が弾ける様な音の後、角材を確認するとトロイの方は中程まで刃が食い込んでいる。
バッシュの方は、見事に両断?いや力任せにへし折っただけだな。
「ほー、やっぱり兵士って凄いんだな! 」
少しアホっぽい気がするが、俺の素直な感想だった。
これで兵士1年目となると昨日、説教を貰ったダーマンさんは山でも切るのだろうかと思ってしまうよ。
「さぁー、次は兜太さんの番ですねぇ 」
「頑張って下さい!兜太様!! 」
いやー、ムーさん、リリトさん。
この二人の締めが俺ってどうなのよ?すげー、やりにくいんですけど。
兵士の二人も、あれが噂になってる王女様の婿候補か、楽しみだな!とか言ってるし。
おい、トロイ!そのニヤニヤ顔を今すぐやめろ!!
ムーさんに背中を押されて角材の前へ、俺、体育の授業で剣道やった事あるぐらいだけど。
どうにでもなってしまえ、形も何も無い!だって知らないんだから!
全力で角材に骨剣を打ち込む。
コン!っと軽い音がする、見事に刃は先っちょだけ刺さっていた。
は、恥ずかしー!!だから嫌だったのにーーーーーー
「兜太様、最初は皆んなそれぐらいですから! 」
リリの励ましが胸に刺さる。
優しさは時には凶器になるんだよ、リリ。
トロイ、その口を押さえてる手はなんだ、目が笑ってるぞ!
ムーさんも、予想通りですぅとか言ってるしね!
「でわでわぁ、兜太さん。次は魔力を通して剣を振って下さいぃ。石、三個分くらいなら剣も壊れないと思いますけど、最初は一個だけ解除してみましょうぅ 」
ここまで恥ずかしい思いをしたら、逆に開き直れるわ!なんでもこい!
石、三個って事は3,000Pまでは耐えられるって事だな、とりあえずはお試しで一個分か。
石に触れて一個、青色に変わった事を確認する。
角材にヤケクソ気味に切りかかると、バターの様に切れる。
え?なにこれ、嘘みたーい!楽しくなって、地面すれすれまで角材をきざんでしまった。
「なんだこれ・・・・凄いな!この剣!! 」
「剣も良いもので間違いないんだけどぉ。兜太さんの、馬鹿げた魔力の力ですねぇ。普通の人は1,000Pも魔力を流したら気絶しますからねぇ 」
「そうなのか。リリ!本当にありがとう。最高だよ、この剣!」
「いえ、私はきっかけを少しだけ。後は兜太様の力ですよ 」
そう言ってリリは微笑んでくれる、本当に優しい奴だ。
桃色な空間を作り、リリとムーさんと修練場を後にした。
ちょっとはトロイとバッシュにも、格好がついたと思う。
ムーさんと別れてリリと二人になった。
今は二人で中庭の噴水に腰掛けている。
もう一度、リリに剣のお礼を言っておこうと思い、声をかける。
「リリには、こっちに来てから世話してもらって感謝してる。剣まで買って貰って。本当にありがとう 」
「いえ、私こそ。無理を言ってミドラーシュまで来て貰って。こちらこそありがとうございます。御迷惑でしたよね? 」
「最初は戸惑ったけど、今は楽しいよ!地球にも普通に帰れるし。迷惑なんて思ってないよ 」
二人で見つめ合っていると、変な沈黙が訪れる。
リリが少し考え込む様に目を閉じた。
あれか、これは良いのか?その、キス、しても。
目を閉じているって事はそういう事だよね?
ちゃんとしたキスは初めてだ、緊張しながら顔を近づけていく。
カッとリリの目が開く。
「そうだ!兜太様!!腕輪を貰って魔力の制御が出来る様になったんですから、レリーフ無しの魔法も使ってみましょう! 」
「あ、うん。そっだね 」
知ってましたよ、こんな事だろうって。
悔しくなんて、無いんだからね!!
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