六夜
食堂に入ると既に給仕のメイドさん達が待機していた。
犬耳メイドさんに案内されて席に着く。
夕食も女王様は執務があるので自室で食べるそうだ、大変だなぁ、女王って。
メインの料理は鶏肉のソテーだった。
柑橘系の香りを効かせ、外はカリッと香ばしい。
鶏肉のとは思えない程の肉汁が口の中を満たしてくれる。
「美味いなぁーこの肉。これってなんの肉? 」
犬耳メイドさんが答えてくれる。
「怪鳥ガダールの肉でございます。ソースは旬のデポンを使用いたしました 」
なるほど、謎肉に、謎果樹のソースをかけた物らしい。
まぁー上手ければ良いか。
メイン料理も終わり、デザートに挑戦しようとスプーンを持ち上げた所で、リリが話しかけてきた。
「兜太様。食事後は修練場にて魔道具を使ってはみませんか?食後の運動にもなりますし 」
「良いね、是非使ってみたい!楽しみにしてたんだよ 、魔道具 !! 」
修練場に到着すると、時間も遅いのに中々活気があった。
サッカー場程の大きさの広場に二十人はいるだろうか。
魔道具の光に照らされながら、訓練をしているようだった。
剣や槍の素振りをしている人、走り込みをしている人、雑談をしている人と好きに過ごしている様だ。
「ここは、訓練がない時は城に勤めている方に自由に使って貰ってるんです 」
「なんか、放課後のグランドを見ているみたいで落ち着くよ 」
修練場の人達もこちらに気づいたのか、挨拶や頭を下げている。
「こんばんはー、リリト王女様。こちらにいらっしゃるなんて珍しいですねぇ 」
「こんばんは、ムー。丁度良い所に、初心者向けの魔道具を貸して頂きたいのですけど 」
リリと話しているのは国お抱えの魔導師らしい。
名前はムーさん、下半身が蛇の様な姿をしている。
上半身は非常に妖艶で、メロンサイズの胸にたまに覗く長い舌が素敵だ。
隣から殺気を感じ、急いでメロンから目を離す。
「兜太様、メロンの事は忘れて下さい。ここには魔道具の試射に来たんですから 」
「なぜ、メロンの事を?!」
リリトさんは俺の頭の中も読めるらしい。
この子、なんて恐ろしい子!
ムーさんはそれを見てクスクス笑っている。
この城に勤めっている人ってフレンドリーなんだよね、王族のリリにもあんまり畏まらないし。
街にいたドナールみたいに人間の俺を見ても、嫌そうな態度は取らないし。
「なるほどねぇ、この人が噂のリリト王女様のお婿さん候補ですかぁ。本当に人間なんですねぇ 」
「どうも、鬼城兜太です。ムーさん宜しくお願いします 」
とりあえず挨拶を交わし、握手をする。
ムーさんが、じーっと俺の顔を見ている。
握手をしていた手を、両手で握り始めるムーさん。
なんだろう、俺の事が好きになってしまったんだろうか?リリが横にいるのに駄目ですよ、ムーさん。
「ムー、どうかされましたか?」
ほら、リリのこめかみに青筋がたってるじゃん!これ以上はムーさんが危ない!!
「いえ、リリト王女様、魔力が凄いものですから。驚いてしまってぇ 」
「魔力?あの、兜太様には。その、魔力は無い筈なんですけど・・・・ 」
「またまたぁ、私も魔導師の端くれですぅ。ここまでの魔力の人を間違える筈はありませんよぉ? 」
「魔道院の測定器では反応は無かったのですが、本当ですか?ムー 」
え?俺に魔力があるの?!しかも沢山??
ムーさんが言うには、リミッターが作動したのではないか?という事らしい。
魔力の口は、5,000P以上の負荷を掛けると測定をしない仕組みらしい。
魔導師には子供も勉強に来ている為、悪戯で複数人で測定器を作動させ壊す事が多々あるのだそうだ。
魔力の口があんな反応、測定中にするからいけない気もするけど。
だが、ざっくりと測る方法はある様だ。
魔道具に魔力を補充し、何個補充出来るか数えれば良いらしい。
例えば、満タンで300Pの魔道具を十個補充出来れば3,000Pの魔力量になる。
「とりあえず、測ってみましょうかぁ?魔道具取って来ますねぇー 」
ムーさんが魔道具を取りに、地面を高速で這っていった。
移動の仕方が怖い、優雅さが欠片もない。
ムーさんが持って来た魔道具は、魔力を補充するのみの電池の様な物らしい。
一個に付き500Pの魔力を補充出来る物だ。
「これに魔力を補充して下さいねぇ。500P補充と念じれば勝手に動きますからぁ 」
「わかりました。はぁー、緊張しますね 」
「頑張って下さい、兜太様。大丈夫、魔道院の子供でもやってる事ですから! 」
リリトさん、めちゃくちゃプレシャーですよ。
出来なかったら子供以下って事になるよね、それ。
深呼吸をして、心の中で500P補充と念じる。
手に持っている魔道具が振動して、しばらくすると収まる。
「はい、無事に終わりました。無事、補充できましたよぉ 」
「さすがです、兜太様。500P補充しても息切れ一つしないなんて 」
「それでは、ドンドン補充していきましょー。いやー助かりますぅ、実験に使う魔力が足りなくなってたんですぅ 」
ムーさんにも下心があったらしい、運がいいわぁとか言ってるし。
次々に渡される補充用魔道具に、せっせと魔力を流す。
途中、リリとムーさんが口をパクパクさせていた。
丁度、20個目に魔力を補充した所で急に眩暈に襲われた。
「あれ、力が。なんかフラフラするし ・・・・」
意識が薄くなっていく中で、何か柔らかい物に包まれる。
俺は夢を見ていた、メロンが沢山、メロンが沢山、メロンが沢山。
「まぁー、リリト王女様のお婿さんは大胆ですねぇ 」
気づいた時には、ムーさんの胸に顔を埋めていた。
俺は、すぐに状況を理解した。
そして、そのまま幸せを噛み締め、目を閉じる事にした。
リリの気配が近づき、耳元で囁かれる。
「兜太様、悪さをする頭にはお仕置きが必要ですよね。ちょん切りましょう 」
「はい、もう大丈夫です。リリトさん! 」
あはは、と誤魔化す。
次は無いと、静かに釘を刺さされた。
目が笑って無くて本当に怖かったです。
「今のは魔力切れですね、兜太様。魔力を使い切るまで自覚症状が出ないので注意して下さい 」
「了解であります!! 」
体調も少し良くなってきた。
俺の魔力は500P補充できる魔道具、20個分なので10,000P程。
実は、かなりぶっ飛んでる魔力量らしい。
この国で現在一位の魔力量を持つ女王、リリの母親でさえ5,000Pとの事。
「魔力量が多いとは思ったけどぉ、こんなに凄いとは思わなかったわぁ 」
「私の目に狂いは無かったという事です!さすが私のお婿様です! 」
リリは胸を張って、ドヤ顔に決めている。
なんにしても、少しは期待に応えられたかな? まさか俺に隠された力があったとは。
本人も知らない才能ってあるんだね、なんか落ちがありそうで怖いけど。
「ではぁ、時間も遅くなってきましたしぃ、実際に魔法を使ってみましょー。今回は初心者の兜太さんには レリーフを使って簡単な初級魔法を使ってもらいますぅ 」
ムーさんが言っているレリーフとは、巻物に特殊なインクで書かれた魔法陣の事をいう。
このレリーフは、魔法が使えない人でも、魔力さえ流せば魔法の効果が得られる物らしい。
子供が魔法を覚える際に、最初のステップになる。
「それでは、サクサクと魔法を使ってみましょー 。さっきと同じ感覚で大丈夫よぉ 」
初級、火球の魔術。
暖炉に火を入れるぐらいの小さな火の魔法、 これが俺の初めての魔法だ。
やはり、異世界に来たからには一度は自分で魔法を使ってみたい。
それが浪漫ってもんだろ!気合を入れてレリーフに魔力を流していく。
レリーフがゆっくりと赤く染まっていき、膨れていく。
さぁ、来い!火の魔法よ!!
カッ!!と視界が燃え上がり、俺の前方、五メートル四方が一瞬で煤になった。
あれぇ?俺、なに間違えた?!
城からは火消しの鐘が鳴り響いていた。
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