五夜
怖いよー、地球に帰りたいよー。
現在、俺は裏路地に怖ーい、お兄さん?鬼さん?と一緒にいる。
相手は三人、俺は一人。
前方には二メートル級が二人、三メートル級が一人控えている。
後方は壁、行き止まり、袋小路ってやつだね!うん、終わった。
それにしても、この細い道に鬼顔のデカイのが三人。
めちゃくちゃ、暑苦しい。
「なぁー、人間の兄さんよぉ。俺がこの世で一番、嫌いな物知ってるか? 」
知らねぇーよ!どこの俺様だよ!!バーカ、バーカ!大体、男なんて興味無いわ!
でも、面と向かってそんな事言える訳無く。
「さ、さぁ。なんでしょうか? 」
一応、惚けてみる。
「人間だよ、俺は人間が大嫌いなんだ。」
ですよねぇ、わかってましたよ。
面倒くさいのに絡まれたな。
「俺は傭兵だったんだ。だけど、人間の国との戦争が停戦したらお払い箱よ。人間を殺すのが生きがいだったのに。この鬱憤は人間のお前が責任をもって受け持つ、当然だろ? 」
「いやー、俺は人間ですけど、地球から来たんで。その、関係無いかなぁーと 」
「ほう、地球から迷い込んできたのか?あっちの人間はマニアに高く売れるらしいからなぁ。良い拾い物だったなぁ 」
勝手にベラベラ語りやがって、ウザい、本気でウザくなってきた。
売るって言ったよなアイツ、人が下手に出てれば調子に乗りやがって。
「うるせなぁ、人の事、物みたいに言いやがって!大体、人間、人間って。俺は兜太、鬼城兜太だ!文句があるならやってやる。さっさとこい!! 」
あー、言っちゃったよ。
今からでも謝ったら許してくれないかなぁ。
無理だな、青筋がビキビキしてらっしゃる。
「いい度胸じゃないか。嫌いじゃねぇーが、こっちにも面子がある。売るのは辞めだ!痛い目みて貰うぜ。お前ら、少し遊んでやんな!! 」
「はい、兄貴。やっちまうでヤンス!! 」
くそー、こんな小物臭い奴らに!なんだよ、ヤンスって。
漫画でも聞かないわ、そんなセリフ!
ジリジリと、子分二人が近づいてくる。
腰にぶら下がっていた棍棒を手に取り、ジリジリっと。
やめて!そんな立派な棒で殴られったら痛いっじゃすまないから!死んじゃうから!!
「そこまでですよ。そこの人間は私達の保護下にあります。お引取りを 」
マールさん!素敵!!影を纏って颯爽と現れた彼に惚れてしまいそうだ。
兄貴分の、大男がマールに問う。
「あん?なんだおめぇーは?!魔族の癖に人間の味方するってぇーのか!! 」
「自分は第二王女、リリト=ミドラーシュ様付きの近衛騎士です。そこの男はどうでも良いんですが、リリト様の御命令ですので 」
「やばいでヤンスよ、兄貴!づらかりヤショウよ、兄貴!! 」
王女のネームバリューって、やっぱり凄いんだなぁ。
子分、二人の動揺が半端じゃない。
「馬鹿野郎!落ち着け!!もう、顔を見られてるんだ。今更、逃げてもしょうがねぇーだろう!なぁ、影の兄さんよ。なんなら、アンタから殺っても良いんだぜ?鬼神のドーナル、名前ぐらい聞いた事あんだろう? 」
「ほう、鬼神のドーナル。前の戦ではご活躍だった様ですね、自分も噂は聞いていますよ 」
あれ?強いのこの人?すげー小物っぽいのに。
「あのー、マールさん。この方達って、その、強いんでしょうか? 」
「そうですねぇ。勝てない、とは申しませんが・・・・。貴方を守りきる自信はありませんねぇ。位置どりも悪いですし。ドナールと戦っているうちに、貴方は殺されるんじゃないでしょうか?そこの、子分、A、Bさんに 」
マジか?でも、時間を稼いでリリが来てくれれば。
なんとかなるんじゃないか?いや、リリは攻撃魔法は使えないっと、魔導院で言っていた。
だったら、来ない方がいい。
でも、これってフラグだよね、ほら、リリトさん来ちゃったよ。
ぜぇぜぇと、肩で息をしている。
お姫様だもの、運動とかあんまりしないんだろうなぁ。
「と、兜太様!御無事ですか?!」
「大丈夫、大丈夫。今のところは無傷だよー 」
「良かった。今すぐに、この不届き者を殺し、退かしますから!! 」
今、殺すって言わなかった?!駄目、駄目!!殺すのは良くない。
「リリ!まだ、なにもされてないから、お手柔らかに、ね 」
「お優しい、兜太様。マール、下がっていなさい。この人達は兜太様に、兜太様に。許しません、絶対に許しません。私がこの手で、この手で ・・・・」
リリが怖い、ドナールなんて比じゃない。
ドナールにしても、リリの気迫に飲み込まれている様だ。
マールも大人しく、リリの背後に控えている。
「馬鹿にしやがって!王女だろうが関係ねぇ、纏めて相手してやらぁ!!」
ドナールが、自分に気合を入れるように吠える。
リリの周りには、なんだか得体の知れない力の様なものを感じる。
魔導院で魔力を測った時に少し似ている様な気もする。
なにやら、ブツブツと言っている。呪文を唱えているのだろか?
リリがどんな呪文を唱えてるのか気になる。
聴力をリリの方に集中させると、聞こえてきた。
「私の兜太様を、許さない、許さないゆるさないユルサナイ。殺してやる、殺す、コロス ・・・・ 」
聞かなきゃ良かった。
呪文じゃ無かった、ただの呪いの言葉だった。
「消えなさい、ゴミ。私と、兜太様の前から。」
リリがドナールに向かって淡々と伝える。
リリの前に得体のしれない力が纏まり、形を作っていく。
なんだろうか、牛の様に見えるが。
「顕現しなさい。炎の雄牛、ファラリス!」
ファラリス、聞いた事がある。
ローマの拷問具だ、漫画で見た。
ドナールが鋼鉄の身体を持つ牛に突っ込んでいく。
棍棒で殴りかかるつもり、なんだろ。
一メートルで棍棒が届くといった時に、ファラリスの雄牛の腹が開く。
吸い込まれる様にドナールは、腹の中へ、鍵が閉まる音がする。
「おい、出せ!なんの真似だ!おい、コラ!!」
「炎に包まれ、兜太様に懺悔しなさい。ファラリス、やって下さい 」
リリが言い終えると同時に、牛の腹が真っ赤になっていく。
中で叫んでいたドナールの声も聞こえなくなった。
「ご苦労様です、ファラリス。戻って良いですよ 」
霧状になり飛散していくファラリスの雄牛。
完全に消えて無くなると、後には煙を上げて白目を剥いてるドナールだけが残った。
まだ息はある様で、ピクピク痙攣している。
怖ぇー!リリトさん半端ねぇー!!パンツが少しだけ湿っているのは内緒だぞ。
「殺してはいません。でも、まだ引き下がらないと仰るなら・・・・わかりますね? 」
子分二人に、光が無い眼で静かに睨みつけるリリは、マゾ、大歓喜だろう。
ドナールを引きづり、子分二人はマールと一緒に、衛兵の所へ向かって行った。
「お怪我はありませんか?兜太様?!」
「本当に大丈夫だよ。ありがとう、女の子に助けられるなんて格好つかないけど・・・・ 」
「いえ、そんな事ありません。自分を襲った相手にも気を配られるなんて、流石です 」
リリは俺が連れ去られた事にすぐに気づき、側に控えている筈のマールを呼んだそうだ。
マールに俺を探す様指示して、自分も街の中を駆けずり回った様だった。
青のワンピースに泥や、砂がついていて必死に探してくれた事が俺でもわかった。
膝を少し擦りむいている様だったので、背中に負ぶさる様に伝えた。
今回は下心はないよ?いや、マジで。
「兜太様、大丈夫です!それに、その。走っていたから汗臭いかもしれませんし 」
「俺の為に汗をかいたんだし。それに全然、いい匂いしかしないよ 」
強引に背負うと、城に向かって歩き出す。
そういえば、リリは攻撃系の魔法は使えないって言ってたよね?
さっきのは、召喚魔法ってやつじゃないだろうか?
「はい、私達の一族には召喚魔法に適正がある者が多いんです。お母様の召喚魔法はもっとすごいですよ?」
「もっと凄いのか。まぁー、魔力が無い俺にはあんまり想像出来ないや。」
「そんな事ないですよ、私も召喚魔法と治癒魔法以外は駄目駄目なんです。魔力に任せて、無理矢理、行使してるに過ぎません。お母様は歴代、二位の実力者なんですよ。とても敵いません 」
「それでも二位なんだ、一位はどんな人だったの?」
「お母様の妹が歴代では、群を抜いて凄い魔力量だったと聞いてます。わたしが小さい頃に失踪されてしまったので、覚えてはいないのですが 」
なんかマズイ事、聞いちゃったかなぁ。
ごめんね、と謝ると、気にしないでくださいと笑顔を向けてくれる。
本当に良い子だなぁ、時々出てくる裏の顔が怖いけど。
「それにしても、マールでも相手にするのが大変なのに、リリは強いんだね。びっくりしたよ 」
え?っと言った後にリリが答えてくれた。
「いえ、マールなら一分もかからない筈ですよ。ドナールは有名ですけど、マールには子供を相手にするのと同じぐらいの事だと思います 」
やっぱりアイツ嫌いだ、ちょっと格好良いとか思った気持ちを返せ!
本当にリリ以外はどうでもいいんだなぁ、マールめ!!
怒りと一緒に、俺の腹が空腹を訴えてグーっとなる。
とりあえずは、怒りより飯だな。
「兜太様、とりあえずはお食事にしましょうか? 」
とりあえずは城に帰って夕飯をご馳走になろう!!
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