十八夜
「で?椿、お前は俺のパンツを被って何故ここにいる? 」
「これは無理やり、鞄に入ったからたまたまだから!! 」
そう言って慌ててパンツを頭から脱ぐ妹を睨みつける、本当、なにやってんだ此奴。
「そういうお兄ちゃんだって、龍太さんの所行く、とか言ってたじゃん!! どこなのさ、ここ! 」
「ぐっ?!ここはあれだよ、リリの家だよ 」
「えっ?家って大きさじゃなくない?! 」
まぁー、うちの家と比べればね。
どうしたものか、椿になんと説明しよう。
リリに目配せしても、眼を反らすのみ、お任せと言う事だろう。
ムーなんか笑いを堪えてやがる、楽しんでんじゃねぇーよ。
因みに、最初に椿を見つけたのがリリだった事が幸いして、ここが異世界だとは椿は思っていない。
ムーもロングスカートを履いている為、足元は見えない。
「ここは私の家で間違いないですよ、椿ちゃん 」
「はへー、リリさんってお金持ちなんだぁ。お姫様みたい 」
「!!!」
リリがめちゃくちゃ動揺している、椿も変な時だけ感が良いんだよなぁ。
もう、思い切って言ってやろうか。
此処は異世界で、リリは魔界のお姫様なんだよ、お兄ちゃんは魔法を使える様になったんだよってさ。
若干、頭がおかしい奴だが・・・・事実は小説より奇なり、本当の事だからな。
街の様子を見れば椿も納得するだろうし。
よし!これで行こう。
「椿、今から話す事は全て事実だ。正直、信じられないと思うが本当の事だ 」
「大丈夫だよお兄ちゃん!椿、異世界に来てるんだもん、なんでも信じられるよ! 」
「そう、信じられないと思うが此処は異世界・・・・で? 」
うん、異世界って言ったね、完全に言ったね。
いや、良いんだけどね間違ってないし。
でもさぁ、なんか予想してた反応と違うというかね、どうせならビックリして欲しいというか。
まぁ、理解が早くて助かるよ。
街中を椿とリリと一緒に歩く、二人が目立つ為、すれ違う人が皆振り向く。
椿には結婚の話以外は、大体説明してある。
結婚の話をすると、もうひと騒ぎありそうだから説明しなかった、っというか面倒くさかった。
椿に何故、異世界だとわかったか聞いたら
「んー、なんとなく空気が違うと思いましたよ!椿は!! 」
だ、そうだ。
いつから俺の妹は、電波を受信出来る様になったんだろう。
当の妹様は、街に来てテンションが最高レベルに到達している様だ。
「見て、お兄ちゃん!凄いよ、見たこと無い食べ物しかない!!なにこれ?!可愛い!猫耳の女の子?!お兄ちゃん、この子持って帰って良い?!ねぇーってば! 」
「いにゃー!はにゃしてー!! 」
とりあえず猫耳の子を解放し、椿の頭にチョップを入れる。
他人に迷惑をかけるのは宜しくないと思います。
「落ち着け椿。別に異世界は逃げないから、とりあえずテンションを少しは下げろ 」
「そんな事言ったて、だって凄いよ!ハロウィンみたい!! 」
「ふふふ、仮装している訳では無いんですよ、椿ちゃん。でも私達、魔族は外見で偏見を持たれる事が多いので嬉しいですよ。そう言ってくれて 」
リリは本当に嬉しそうに笑っている。
こうやって二人で話してるいる所を見ると、
髪の色は違うものの、姉妹の様に見えるの。
仲良きことは良いことだな!
その後は三人で適当に街にある店を冷やかしながら、帰りにギルドに寄って椿の登録をしてきた。
兄としての感が正しければ、椿はミドラーシュ王国にこれからも来るだろう。
ワクワクしてしょうがない、と顔に書いてある。
この後、俺は訓練学校に行く予定だ。
今日を入れても後五日しか、試練迄の時間がない。
どんな試練を言い渡されるかわからないが、
魔力のコントロールぐらい出来ないと、どうにもならない気がするんだよね。
リリに椿の面倒を頼むのは心苦しいが、二人で楽しそうに会話している様なので大丈夫だろう。
「リリ、悪いけど椿の事頼めるかなぁ?訓練学校へ行こうと思ってるんだ 」
「それは構いませが・・・・椿ちゃん、それでは二人で行きましょうか?美味しいお茶が飲める店があるんですよ 」
「ありがとう、リリトさん。でも椿、お兄ちゃんと学校にいってみたいかな 」
「学校たって、面白くないぞ?一緒に来ても 」
「良いから!椿も行くから!! 」
まぁ、一緒に行くと言うなら良いか。
三人で訓練学校に向かう事にした。
「いつまで寝てるんだ、貴様!そんなに地面が好きならキスでもすればどうだ? 」
「ぐぬ、こんちくしょー!! 」
相変わらず、剣を持つと性格が変わるハートン教官に、罵倒されながらの稽古だ。
腕輪の石を二個解放して挑んでいるが、まるで子供扱いだ。
今日は木刀での模擬戦闘が訓練項目だ、肉体強化に集中する為に、ロック鳥の剣は使っていない。
リリと椿がハラハラしているのが見えるが、
構っている余裕など全くない。
「腰が引けてるぞ、貴様!どうした、その無駄な魔力で肉体強化するんじゃ無いのか?そんな剣速じゃ、蟻も殺せないぞ!! 」
そう言いながら、ハートン教官は俺の背中を強打する。
大怪我はしないが、痛みは身体にハッキリ残る、絶妙な力加減だ。
背後を取る様な位置にいるハートン教官に、
振り向きざまに剣を叩き込む、勿論、弾かれるが距離を取る事は出来た。
「逃げ足だけは一人前か!男なら向かってこい、逃げ腰で強くなれると思ってるのか!! 」
「サー、イエス、サー! 」
お決まり返事をハートン教官に返し、腕輪の石を更に一個解放する。
これで合計三個の石を解放した。
リリのお父さんと戦った時には、三個は使えたんだ、今回も大丈夫だろう。
地面を思いっきり蹴り、ハートン教官に向かって行く。
下段に構えた木刀を、すれ違いざまに叩き込む、が逆に腕を木刀で打たれ、俺は木刀を落す事になった。
カウンターで返された一撃で、腕を痛めたみたいだ、剣が握れない。
剣を置き、此方に向かってくるハートン教官。
「最後のは中々、良かったですよ。今日はこのぐらいにしましょう。リリト王女様、申し訳ありませんが、兜太さんの治療をお願いします 」
「はい、お任せ下さい。大丈夫ですか?兜太様 」
「大丈夫、大丈夫!ハートン教官、ありがとうございました 」
ハートン教官を見送り、リリに治療をして貰う、リリが触れている所がほんのり暖かく、痛みが薄れていくのがわかる。
「お兄ちゃん、本当に平気なの?ほかに痛い所は無いの?大丈夫? 」
「大丈夫だ、椿。心配するな 」
泣き出しそうな顔をしてる椿の頭を撫でる。
何故かリリの視線が刺さるが、気のせいだろう。
「洋服の汚れが取れないですね。ハンカチを濡らして来ますので、待ってて下さい 」
「ごめんね、リリ。ありがとう 」
本当に気がきくなぁ、リリは。
リリの姿が見えなくなったところで、椿が
「お兄ちゃんはなんで頑張ってるの? 」
「なんだよ、藪から棒に。今週末に試練があるって言っただろう?その為だよ 」
椿には結婚の為の試練だとは伝えていない。
「そうなんだけど、違うって言うか。お兄ちゃんらしく無いって椿は思うんだよね。
なんか、頑張り過ぎてるっていうか・・・・」
「まぁー、たまにはさ。頑張らないとな 」
俺は今までこいつの中でどんな兄貴だったんだ、頑張った事ぐらいあるよ、試験勉強とかさ。
んー?と首を傾げてる椿を横目に、リリが戻って来た事を確認する。
「さて、城に戻ろう。外も暗くなってきた しね 」
二人の返事を聞き、城に戻る事にした。
今日は椿もいる為、リリと椿と三人で夕食をとった。
リリの両親は二人で食事を取るそうだ。
一応、椿の事で挨拶に行ったのだが、執務中で会う事が出来なかった。
明日の朝にでも、もう一度、挨拶に行こうと思う。
椿は明日の朝、一緒に日本に帰る事になった、日に何度もゲートを開くのは大変らしい。
椿が俺と同じ部屋を希望したので、今は椿と二人で部屋のベットに入っている。
大きなベットだし、一緒にいるのは妹だ、気にならん。
少し、いい匂いがするが・・・・全く、気にならん!
ちなみにリリも、部屋に来たかったみたいだが、マールに引きづられていった。
「お兄ちゃん、まだ起きてる? 」
「あぁ、起きてるぞ。どうした? 」
モゾモゾっと布団が動く感じがある、椿は背を向けている俺に背中合わせにくっついた様だ。
「おい、なにしてんだ? 」
「子供の頃、良く一緒にベットで寝たよね 」
「あー、そんな事もあったなぁ 」
部屋が別れる前は、毎日一緒のベットで寝ていた時期もあった。
「椿さ、明日からお兄ちゃんと一緒に魔法の練習しようと思うんだ。ほら、お兄ちゃんは椿がいないと駄目駄目だから。それにせっかくだもん、魔法使ってみたいし! 」
「いや、使ってみたいしって。良いけどさぁ、試練には連れてかないぞ 」
試練は別の話だか、魔法を覚えたいと言うなら別に構わない。
その辺は椿の自由だと思うんだ。
「やった!じゃあ、明日から学校終わったら訓練学校だね!! 」
「いや、訓練学校には連れてかないよ?ムーに頼んでやるから、そっちで勉強してきなよ 」
「えっ?なんで?!椿も学校がいい! 」
「訓練学校は肉体強化の練習に行ってるんだ、怪我もするし、危ないから駄目だ 」
「嫌だ、嫌だ!椿も学校に行くよ 」
「じゃあ、この話は無しだな 」
ぐぬ、と言いながらも椿は渋々納得してくれた。
だってさ、危ないのもあるけど恥ずかしいじゃん?学校に行く度にボコボコにされてる姿を見せるの。
「さぁ、椿。話が終わったなら離れてくれ 」
さすがに妹とはいえ、ベット中でくっついてるのは緊張する。
所詮、俺は殆ど女の子と触れ合った事が無い男子高校生だ、俺の教育に悪いから離れて欲しい。
「おい、椿。離れてくれ 」
やっと離れてくれる様だ、モゾモゾと椿が動く。背中合わせから転がり、俺の背中を抱き締める形で動きが止まる。
「おい、なにしてんだ。ふざけて無いで離れてくれ。おーい、椿さーん? 」
こいつ、まさか!!
やっぱりだ、スヤスヤ寝てやがる。
まぁ、いろいろあったからな、今日は特別だ。
「お休み、椿 」
寝付けそうに無いが、俺は眼を閉じた。
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