十七夜
俺には中学生の妹がいる、名前は椿学年で言うと三年生、普段は女子校の寮に住んでいる。
昔から俺とは仲が良い兄弟で、椿が寮に入るまでは俺が友達と遊ぶのにも、着いてきたぐらいだ。
別に友達がいない訳では無いみたいだが。
本人曰く、お兄ちゃんは私が見ていないと駄目だから、と言う。
俺はそんなに駄目な子なんだろうか。
「お兄ちゃん、どこいくの?椿も一緒に行く! 」
「大丈夫、椿が面倒見てあげるから。お兄ちゃんは何も心配しなくて良いんだよ! 」
「ねぇ、お兄ちゃん!大人になったら椿、お兄ちゃんと結婚してあげるね 」
はぁ、小さい頃はあんなに可愛かったのに。
しばらく見ないうちに反抗期に入ったみたいだ。
家に帰ってきた俺を見るなり、鬼の形相で、仁王立ちである。
お前、黙ってたら可愛いんだから大人しくしてれば良いのに。
椿は身内引きに見ても、可愛いと思う。
彼氏がいた事は無いと思うが、よく告白やラブレターなんかを貰っていた。
身長は小さく、胸は子供のまま成長が止まっているが、それを補う愛嬌があると思う。
なんか仔犬みたいな奴だな。
「で?お兄ちゃん、もちろん椿にちゃんと説明してくれるんだよね?!それに、誰?その後ろの女の人 」
「あー、まぁー、その、話せば長くなると言うか。椿に説明するのが面倒くさいと言うか 」
「面倒?!今、なんて言ったのお兄ちゃん?これはあれだね、お仕置きが必要みたいだね、違うよ、今日の椿は一味違うよ。見せちゃうからね、椿の本気!! 」
椿が宣言通り本気で、飛びかかってくる。
面倒くさいから、頭にチョップを入れてリビングまで妹を引きずっていく事にした。
お客様もいるのに、立ち話も、ね?
「リリト=ミドラーシュです。外国から転校して来ました。兜太様にはお世話になっています。椿ちゃん、宜しくね 」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします。って、違う!お兄ちゃん、誰なのこの人! 」
「だから、自己紹介してくれたじゃん。リリだって 」
「そういう事じゃ無くて!だから、お兄ちゃんとはどういう関係なの?! 」
はぁー、此奴ときたら。
今日は一段とうるさいなぁ、なんでこんなに興奮してるんだ?
さすがに、結婚するかも知れないです、とは言えない。
椿に言ってしまうと、俺の両親に話が伝わってしまうかもしれない。
まだ、リリの親にも認めて貰ってないんだ、
話すには早すぎる。
タイム!っと、椿に宣言して、リリを連れて部屋の隅へ、椿が何か文句を言っているが、とりあえずは無視だ。
「椿には、結婚の事とかは黙ってて欲しいんだ。先ずはリリの親に認めて貰ってから報告したい。リリに迷惑を掛けるかも知れないしね 」
「私は構わないのですが・・・・兜太様がそう言うのでしたら。友達として仲良くして頂いてると言う事で良いですか? 」
助かるよ、とリリに伝えてタイム終了。
ソファーに戻り、椿と向き合う。
わざとらしく咳払いをして、椿に話しかける。
「見ての通り、リリは外国の人だから学校に来てから苦労しててね。席が隣だから色々と話してるうちに仲良が良くなったんだ 」
「はい!兜太様には本当に良くして頂いて、助かっています 」
椿は昔から騙され易いタイプだ、これぐらいの言い訳で充分だろ。
「本当に?実は、か、彼女とか・・・・お兄ちゃん、言わない? 」
椿の癖に鋭いな、なんだから後ろめたくなってきた。
だが、ここで折れる訳にはいかない。
「言わないよ、リリとは仲が良い友達だよ 」
「なら良いんだけど。大体、お兄ちゃんに彼女なんて、早すぎるしね。彼女は二十歳を過ぎてからだよ 」
お酒とタバコみたいに言うなよ、ニヤニヤしやがって、さっきと全然態度がちがうじゃないか。
友達と強調した為か、リリはむくれてるし。
「じゃあ、次の質問ね! 」
「なんだよ、まだあるのか? 」
「大事な事だよ。この二日間何処に行ってたの? 」
えっ?土曜日からいたのか椿?!
そういえば寮に入ってる椿がなんで平日に自宅にいるんだ?
とりあえず、二日間の宿泊先は龍太の所にでもしておこう。
「龍太の所に泊まりで中間試験の勉強を教わりに行ってたんだよ。それより椿、学校はどうした?今日は月曜日なんだから、お前が家にいるのはおかしいだろう? 」
「龍太君の所?本当かなぁ?まぁ、いいや。それより、お兄ちゃんは椿の話を全然聞いて無いんだね?」
はて?なんの事やら、確かに椿の話を聞き流す事は良くあるが、学校関係の事を聞いた覚えは全く無い。
「前に帰ってきた時に言ったよね?ゴールデンウィーク前になったら、家から学校に通うよって。うちの学校の伝統で三年生は、家で家事の手伝いをする為に寮を出るんだよって。言ったよね?! 」
「な、なんだってぇー? 」
そんな会話、全く覚えて無いなぁ。
たぶんあれだ、聞き流したな、これは。
しかし困った、椿が家にいるからにはリリの家に行く事が出来なくなる。
これから試練を受けるのに、ミドラーシュ王国に行けなくなるのは不味い。
どうしたものか?うん、困った時の龍太だな。
俺は申し訳無さそうな顔を作り上げ、椿に頭を下げる。
「すまん、椿!実は、中間試験が終わるまでは龍太の所に泊まる予定なんだ。今日だってほら、その為の準備をしに家に帰って来た訳だから。いやー、成績が悪いと大変だよ。リリにも付き合って貰っちゃって 」
どうだ?ちょっと苦しいが椿ならいけるか?
はぁー、っと溜息を吐き、椿が立ち上がる。
「全く、お兄ちゃんは。お客さん巻き込んで準備をするつもりだったの?椿が準備するから、お茶でもリリトさんに出しなさい 」
そう言って、部屋がある二階に椿は上がっていった。
ふー、誤魔化せたみたいだ。
「兜太様、私、椿ちゃんに悪い事をしている気がするのですが。なんだか可哀想になってきました 」
「いやー、実は俺もなんだよ。最初に嘘を吐いたもんだから、後に引けなくなっちゃて。近いうちに謝るよ、椿には 」
二人で溜息を吐く事になるとは、嘘はいけないな。
リリにお茶を淹れて二人で飲んでいると、二階から声がかかる。
「準備出来たよー!お兄ちゃん!椿は自分の部屋にいるから、荷物取って勝手に行ってね。寝ちゃうかもしれないか鍵は閉めていて! 」
「悪いな、今度なんか奢るよ! 」
楽しみにしてるよ、っと椿に返事を貰い、二階へ。
自分の部屋に着くとキャスター付きの鞄が用意してあった。
一階に持って降り、結構な時間を使ってしまたので、早々に家を出る事にした。
一応、行ってきますと玄関で声を掛けたが、寝ってしまったのか返事が無い。
家を後にして、ゲートへリリと二人で向かう。
ゲートに着くと既にマールが準備していたのか、城への道が開かれている。
さすがマール、痒い所に手が届くサービスだな!
早速二人でゲートを潜った。
城に戻り自室へ荷物を置く、この後は夕食までリリとムーに肉体強化の練習に付き合って貰う予定だ。
机に立てかけてある、ロック鳥の剣を手に取り修練場へ向かう。
誰も来てないみたいだな、とりあえずは自主練習といこう。
ポケットから試しの木の実を出し、指先で弄ぶ。
少し慣れてきたようで、十個に一個ぐらいは綺麗に割れる様になってきた。
関係ないが、この木の実、意外と美味しい、割るたびにパクパク頂いている。
おっ!また上手く割れたな、頂きます。
ちょうど実を口に放り込む所で、城の方から土煙が近づいてくるのが見えた。
「兜太さーん、大変ですぅ!! 」
全速力で、地べたを這う様にして高速移動してくるムー、久しぶりに見たけど怖いな。
肩で息をしながらムーが到着する。
ちょっと引き気味でムーに何があったか尋ねてみる。
「大変って、何かあったのか? 」
「それが大変なんですぅ。いもぉ、いもぉ、いもぉ」
「芋がなんだって?ムー、落ち着いて 」
「兜太さんの妹さんが、城にいますぅ」
えっ?なんだって?!
妹って椿の事だよね?なんであいつが城にいる?あっ!荷物に紛れて来やがったな。
椿は自分の身長を活かして、荷物に紛れて着いて来ようとする事が過去にもあった。
修学旅行にも着いて来ようとしたし。
もう、溜息しか出ない。
こうなったら説明するしかないだろう。
頭を抱えながら、俺は城に戻る事になった。
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