一夜
趣味全開で申し訳ありません。
宜しくお願い致します!
「皆さん、おはようございます!
今日も最高に良い天気です!!
唐突ですか、俺は、鬼城兜太と申しますます。
何故、自己紹介かと言いますとこれが最後の言葉になるかもしれないからです。
16年と短い人生でしたが楽しく生きてくる事が出来ました!
これもお母さん、お父さん、そして妹のお陰だと思っております。
先立つ不孝をお許し下さい。
これを聞いた方はどうか、父か母までこの録音を届けて頂ければ幸いです 」
ふーぅ、こんなもんで良いだろう。
何故、俺がこんな遺言を録音しているかと申しますと、先程からずっとナイフ片手にキャッキャッ言いながら女の子に追われているからであります。
なんで追われているかって?
そんなの知らねぇーよ!こっちが聞きたいよ。
学校からの帰宅路でいきなり
「兜太様、やっと見つけた! 」
って、高校の隣にある中学校の制服に身を包んだ女の子に声かけられて
「どちら様でしょうか?」
と、聞き返したらいきなり学生鞄からナイフ取り出して
「なんで、なんで覚えていないんですか!約束したのに!絶対に許さない!! 」
これですよ。
意味わかんねぇーですよ、知らない人とナイフ使った鬼ごっこなんて、予想の斜め上すぎるわ!
そんなこんなで命からがら、近くの工事現場に逃げて来た訳です。
もっと人がいるところに逃げれば良かったんだけど、生憎と近くに隠れられる所が予算の関係で放置されたこの建物ぐらいしかなかったんです。
勿論、追いかけてくるあの子もその事は知ってるだろう。
迷いなく工事現場に入ってきた。
今は、死刑宣告の様な足音が静かに俺を探して彷徨っている。
怖えーよ、めちゃくちゃ、怖えーよ。
夕暮れ時に、寂れた工事現場で女の子と二人きり。
凄く、嬉しい。
相手のネジがダース単位で吹っ飛んでなければ、だが。
足音が近づいてきた。
「兜太さまー。どこにいったんですー?? 」
「怒ってないから、出てきて下さいー 」
足音が俺が隠れている鉄骨の束の方へ近づいてきた。
うわーん、もう泣きそうだよ。
トテトテトテと足音が大きくなってきた。
やばい、やばい、やばい、やばい。
音が止んだ、どうやら完全にロックオンされてしまったらしい。
だが、音が止んでから五分ぐらい。
なにもおこらない、もう諦めてくれたんだろうか。
そっーと、隠れ場所から顔を出す。
いない、良かった、助かった。
でも、これってフラグだよね、振り向いたら
「ばぁーー!兜太様、見つけたぁーー!! 」
ほらね、わかってたよ、知ってたよ。
怖くて見れなかっただけて、女の子のいい匂いが背後からしてたもん。
こんな時なのにちょっと前屈みだよ、男子高校生舐めんな!!
押し倒される形で地面に磔にされた。
コンクリート冷めてー。
「あー、もう、なんなんだよさっきから。なんで追いかけてくるんだよ! 」
「ねぇ、本当にわからないんですか?私ですよ、忘れたなんて!許せない、許せない、許せない、許さない!! 」
「そんな事言ったて、全く知らないんだからしょうがないだろ! 」
「私との約束も忘れたの?約束したのに、ねぇ、約束しましたよね? 私と一緒にいるって!! 」
「約束?なんの事言ってるの?!いいから離してくれよ! 」
彼女は俺の言葉に目を見開く、なにかを察した様にブツブツ言っている。
駄目だ、完全に死んだな。
短い人生だったなぁ、女の子とキスぐらいしてみたかたなぁ。
そんな事を考えていたら唐突に唇を奪われた。
「んーー?!」
「いいから黙って!大人しくしていなさい !! 」
いきなり唇を奪われた。
やわらか〜い、絶対、柔軟剤使ってるよこれ。
どれぐらいの時間をがたっただろう。
五分?三分?三十秒くらいかもしれない。
とても長い時間に感じた。
「ぷは、どう?思い出して頂けました? 」
「いきなりなにすんだよ!思い出すってなにか勘違いしてんじゃ ・・・」
最後まで文句を言う前に頭痛が襲ってくる。
あ、あー、思い出した!思い出した!!
なんで忘れてたんだ。
あんな事、忘れるなんてありえない。
この状況を説明するには、時間を丸一週間、遡らなけばならない。
ちょうど、一週間前の、同じぐらいの時間の事だった。
下校中、俺は近道に良く使う工事現場の敷地を丁度通り抜ける所だった。
親父の長期出張の為、母親はそれに付き添っている。
妹もいるが、全寮制の女子校に通っている為、長期休暇になるまでは帰ってこない。
二日前から一人暮らしの予行練習みたいな事をしていた。
家に一人というのは少し寂しいが、開放感が中々、癖になりそうだ。
今日の晩飯の献立を考えながら帰路についていた。
そんな時、彼女は現れた。
この世界の者とは、到底思えない。
ドス黒い何かを、引き連れて。
彼女と目があった。
とても綺麗な子だった、顔の作りは人形と間違えるほど整っている。
髪と肌は透き通るぐらい白い。
身長は俺の肩ぐらいかな?
胸は大きくないが、スラッとしていて格好良い。
思わず口を開けっぱなしにして惚けていると、彼女の背後にいた黒い影のような者が話しかけてくる。
言葉ではない、頭に響くようだ。
なんだと、こいつ直接、頭に。
なんて思ってる余裕は無い!
「結界をやぶり、此処にあらわれるとは何者か。ただの人間では無いようだ。ふむ、念のため殺しておくか 」
何言ってんだ、こいつ。
人間じゃないっていうならなんだって言うんだ。
いやいや、そうじゃない。
大事な事は俺を殺すと言ってる事だ。
この黒影さん、冗談とか言わないだろうなぁー、殺すんだろうなぁ。
何故だか、すっと理解できるんだよな。
そんな事を思っていると、黒い影が近づいてきた。
瞬間、腹の方から激痛が走る。
恐る恐る確認してみる。
俺の腹からは、黒影さんの腕が生えていた。
声も出せない。
そのまま、倒れ込む。
激痛の中、彼女が黒影さんとなにやら揉めているのが見える。
音はもう聞こえない。
視界が消えていく中、最後に見た光景は彼女が少し、頬を紅くして眼を閉じている。
そんな景色だった。
「おーい、兜太 」
懐かしい声が聞こえる。
「兜太。可愛い嫁さん見つけて羨ましいのぉー、で、どこまでいったんじゃ。ほれ、隠さず言ってみろ 」
この絶妙なウザさは間違いない。
死んだ爺さんだろう。
「ほれ、今時の子は早いというしなぁ。羨ましいのぉー、羨ましいのぉー 」
「爺ちゃん、俺、死んだんだな 」
「そんな事はえーのー、それより詳しく説明してみれ。ほれほれ 」
こいつ、自分の孫が死んだのそんな事とか言ってるし。
「まぁーえー、兜太。お前がこっちに来るにはまだ早いのぉ。せっかく可愛い嫁さん見つけたんだ。次、来るときは子供の話でも持ってこいや 」
そう言って、俺の背中に張り手を打ち込んでくる爺ちゃん。
それが、年寄りとは思えない力で、打ち込まれるものだから堪らない。
「逝って!じゃない、痛ってー!!」
思わず叫んでしまった。
目の前には先程の白髪の彼女がいる。
かなり心配そうな顔をしているのがわかる。
訳がわからないが、とりあえず、俺は生きているらしい。
「君は、それより俺は死んだはずじゃ・・・。黒い影の奴はどこに、どこにいったんだ!! 」
「良かった。なんとか蘇生には成功したようですね。色々、質問はあるでしょうけど、とりあえずは、本当にごめんなさい! 」
蘇生、そういえば最後に覚えている光景。
彼女の顔が近づいてきた事を思い出す。
人口呼吸ってやつですかい?!マウストューマウスじゃないですか!!
こんな可愛い子にして頂いたなんて、なんてラッキーなんだろう!違う、そうじゃない。
制服には大きな穴が空いている。
それは間違いなく、俺の腹に穴が空いていたって事だ。
人口呼吸じゃ腹の穴まで治らないだろう。
「とりあえず、助けて貰ったみたいで。ありがとう?なのかな。でも、その、じ、人口呼吸?してくれたのかなぁ?俺は腹に穴が空いていたはずじゃなかったけ? 」
なんか絶妙に気持ち悪い感じがするが、この際、気にしていられない。
「はい、あなたは瀕死されていました。ですから、申し訳ないと思ったのですが、私の魔力を直接、体に送り再生魔術を行使させて頂きました。蘇生は時間との勝負と言いますから、間に合って良かったです 」
「それは、大変ご迷惑をお掛けしました。って違う!魔法?なにそれ??再生?ごめん、全然頭が追いつかない 」
何言ってんだこの子、すげー電波ちゃんなのか??あれか、噂の厨二病ってやつか。
それより、黒い影の奴だ。
あいつにまた会う前に移動しなければ。
「とりあえず、ここを離れよう!あの、黒い影が帰ってきたら、君まで酷い目にあうかもしれない! 」
「いえ、ご心配には及びません。彼方で粛清の為、正座をさせております 」
粛清?あ、さっきの影の人だ。
正座して、膝には鉄骨を乗せている。
声はしないが、唸っているジェスチャーだ。
すげー、シュールな場面だなぁ。
なんか、怖がってたのが阿呆らしくなってきた。
「あのさ、俺にもわかるように説明して貰える?何故、殺されたのか知りたいし 」
「話せば長くなるのですが・・・・」
そう言ってポツポツと彼女は事情を話し始めた。
彼女は、魔界のお姫様。
パラレルワールド、並列世界、色々と呼ばれ方はあるが、この世界ではない所から来たそうだ。
しかも、魔法や魔道具が存在する世界。
彼女の国は魔界の中でも二番目に大きな国で、その国の姫である彼女、リリト=ミドラーシュは第二王女にあたる。
彼女の家系は、女性しか生まれてくる事が無い為、十五歳の成人式の後に婿探しの旅に出るのだそうだ。
その婿探しの中で、魔法で俺達が住んでいるこの地球に、旅行がてらやって来た、という訳だ。
そこで、魔法が無いこの世界で、魔法を使っているところ見られない様に結界を張っていた。
そこに、俺が結界を破り入ってきた、という事らしい。
幼い頃から彼女に使えてきた黒影さんは、そんな俺を敵とみなし殺した訳だ。
お姫様が、ホイホイ違う世界に旅行に来て良いのか?と聞いてみたが、この地球にも結構な異世界人が住んでるらしい。
地球旅行も、修学旅行で来るぐらいポピュラーな事らしい。
「なるほどね、信じられないけど、体験しちゃったしなぁ。信じるしかないよなぁ 」
「本当に、ご迷惑お掛けしました 」
「あー、もう終わった事だから良いよ。リリトさん?で良いんだよね? 」
「リリで結構です。兜太様 」
「じゃあリリ、お互い悪かったって事で良しとしないか?確かに、痛い思いはしたけど蘇生魔法?だけ?でこうして生きている訳だしね 」
それに、覚えてないけどこんな可愛い子にキスして貰ったんだ。
それなりに対価は貰った気がする。
早く家に帰って、この記憶を忘れないうちに
、おっと、この先は口には出せないな。
あ、でも、セオリー通りだと記憶消されたりするのかなぁ?嫌だなぁ。
そんな事を考えてる俺にリリが、少しモジモジしながら
「それと、あの・・・・」
「ん?どうしたのリリ 」
「私の国ではその、接吻というのは、婚約という意味になりまして、あの、その・・・・」
今、婚約者って言ったよね?なにこんな可愛い子と結婚出来るって事?
マジで?!
「わたしの、私のお婿さん候補として、国へ、一緒にきてくだちゃい!! 」
噛んだよ、んー、可愛い。
「俺で良ければ、是非喜んでお供申しあげましゅ! 」
慣れない事言ったから、俺も噛んだよ。
すげー恥ずかしい。
これ、思い出したらベットでジタバタする感じのやつだ。
ともあれ、今すぐ一緒にリリの国へ行くとは言えず、準備の為に一旦、家に帰る事にした。
そして、一週間が経過して冒頭に戻る訳である。
「思い出したよ、リリ。なんでこんな事忘れてたんだろう。でも、ちゃんと思い出したから! 」
「本当ですか、兜太様?私、かなり傷つきましたよ、私。婚約者に本気で逃げられたのですから。こうして、地球に溶けこめる様に、制服まで用意しましたのに 」
プンプンしながらも少しホットした様な顔のリリがいる。
いやー、可愛いなぁ。
手に持ってるナイフさえ離してくれれば凄く可愛い。
でも、なんでこんな大切な事を忘れていたんだろう?
「リリト様、転移の準備が整いました 」
音もなく、黒い影を纏い、奴が現れる。
一度、俺を殺して下さった、アイツだ。
今日は普通に喋ってやがる。
「それでは、兜太様、こちらへ 」
リリの声に着いて行く俺は、きっとヘラヘラしていただろう。
男なら一度は夢見る異世界旅行、可愛い婚約者と一緒なら尚更だ。
だから聞き逃していた。
黒影の舌打ちの音を。
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