4話:狂わされた私
ちょっと長くなりそうだったので分割しました。
勢いで更新してしまったため描写が荒いと思います。
もしかしたら直すかもしれないので予めご了承下さい。
夢を見ているのだろうか?
赤というより深紅に近い髪。
琥珀色の目。
どうしてあの人がここにいるのだろうか……?
って決めつけるの早すぎるよ私! 似てるけど! そうそう、よく似てるけど違うってのはよくある話じゃない! まだ焦ってはダメ。決して焦っては……。
飛び上がりそうな気持ちを抑えて、私は目の前にいる人物を隅々まで観察しようとする。
すると、私を見るや否や嬉々とした表情でこちらに向かってきた。入ってすぐの時に感じた精悍な雰囲気とは打って変わって、オレンジ色の雰囲気を醸し出している。
「やあ、久しぶり」
甘い旋律。
低い声がとても官能的で、私へと密接に絡みつき、瞬時に支配していく。
……けど、『久しぶり』ってどういうこと?
「あのーー初対面ですよね?」
少し語調を強めて訊いてみる。
相手は大きく目を見開きこっちを見ていた。
どうしてそんな目をするの……?
私だってこんなこと訊きたくないよ! でも、あの人と貴方を混同しちゃったら──。
途端に視界が黒で塗りつぶされた。
ちょ、え、え、何? 身動きが取れないんだけど。
ドクドクと心臓が力強く波打っているのが聞こえることと、背後に手が回されていることから私はロペスに抱き締められているんだな、と分かった。
あの人とこの人は違う人であるかもしれないのに、抱き締められていることに不快感は全くない。寧ろ自然であるような気がした。
「俺のことを君は──シルヴィアは忘れちゃったの?」
今にも泣きそうな声が私の耳へと届いてくる。
一層私を抱き締める力が強まった。
「うっ、うっ……」
「……ごめん!」
私が呻き声を上げると、彼は慌てて手を離して平謝りしてきた。
顔を下げてるこの人を見てると何だか申し訳なくなってくる。
「とりあえず、顔を上げていただけないでしょうか?」
ゆっくりと彼の首がもたげられる。
琥珀色の目はゆらゆらと揺れて、輝きを放っていた。
「泣いてるの?」
「な、泣いてなんか!」
そう言って目元に溜まった涙を拭いとる。
衣服に擦れたせいで彼の目元は赤く腫れていた。
ティナさんから聞いていたイメージとは違う彼を見て、何だか笑いが込み上げてくる。と同時に、ゲームをプレイした時の彼の姿が、まるで欠けていたパズルの一ピースがぴったりとはまったかのように鮮明に思い出された。
そして、実際の彼とゲームでプレイした時の彼の姿と違っていたことを知り、また笑いが込み上げてくる。
「な、何がおもしろいんだ!? 笑わないで! お願いだから笑わないでシルヴィア!」
顔をリンゴみたいに真っ赤にして彼は懇願してくる。
うん、そうそうこの動きなんかも……優夜そっくりだ。
いちいちあの時私を助けたくれた人を優夜に重ね、今目の前にいるこの人をあの人──つまり優夜に重ねている私は一体何なんだろうか。
駄目だと分かっていても、したくなる。
『この橋は危ないから渡ってはいけません』と書かれた高札が立てかけられている橋を渡ってみたくなってしまう人の心情と似ている。
さらに言えば、『あの人を好きになってはいけない、あの人とは付き合ってはいけない』ときつく周りから言われているのにも拘わらず、その人を好きなって、付き合ってしまう許されざる恋へと走ってしまう人の気持ちと、とてもよく似ているのかもしれない。
いずれもそこには好奇心や利己心などが渦巻いているのであろう。
しかし、私を取り巻く気持ちに任せて言葉を発するのはまずいかもしれない。
この人はロペス。
決してあの人なんかではない。
優夜なんかではない。
あの人も優夜なんかではない。
「……間違ってたら申し訳ないですが、貴方がこの前、私を助けてくれた人?」
──言ってしまった!!
しかし、まあ優夜と言わなかっただけまだマシだった。
言ってたらどれだけ気まずい雰囲気がやってくるのか知れたもんじゃない。
抑えるのよ……抑えるのよ私!
理性を保って理性を保って理性を保って理性を保って(以下略)。
あ。
これが、
好き好き好き好き(以下略)に変わってデレという要素が加わったら、ヤンデレという風になるんですよね。
あの時の私はこのゲームが好きすぎて、まさにこんな感じだったなぁ。対称はゲームなんだけどね。
勿論、優夜のことも好きだったけど。ついぞこのゲームを好きという気持ちにはかなわなかった。
とにかくこのゲームの幸福結末が見たかったのだ。どんなに周りが幸福結末はないと言おうとも私はあると信じて。
結局彼とはケンカして別れて、幸福結末も見れず終い。
散々な結果で私の前世は終わったのだ。
それをロペスの名を聞かされた時に私は思い出した。
しかも思い出した世界がまずかった。前世私が幸福結末を見れなかったゲームの世界と似た世界。というよりまんまの世界。
落ち着けと言われても落ち着けるはずがなかった。
津波が押し寄せてきて逃げている人に『止まれ』と言っているようなもの。
家を飛び出すほどじゃなかっとは思うけどね……。
家を飛び出した結果、つい先程口に出てしまったあの人に出会ったのだ。
まあ話を現実に戻して……。一番は勘違いだよと笑って受け流してくれればありがたいのだけれど。
下手に突っ込まれたくないな。
「…………そうだよ! 俺が君を助けたロペス・キャビネットだよ。約束をやっと果たすことが出来た……。待たせてごめんね」
うん、ちょっと処理しにくい答えが返ってきちゃったな。
どういう反応すれば……。
「貴方で合ってたの?」
無難だ。これなら大丈夫だろう。
「合ってるよ」
「……」
彼は表情を砕けさせ優しい微笑みを向けてくる。
その時、私の心臓が小さく跳ね上がったような気がした。
あの人がロペス? ロペスだったの!?
信じられなかった。でも彼は今、確かに私を助けたのは自分だということに対して肯定の意を示したのだ。それは覆しようのない事実であることに変わりはない。
私が何も言わないことに何を思ったのか、彼は申し訳なさそうに顔をしおたらして語り始めた。
「君を助け出した時、俺は公には内密にキャビネット王国に出向こうとしていたんだ。父さんに許可をいただいてね。政略結婚といえど、こうして今日会う前に一度、シルヴィアに会っておきたかったんだ。その行く先に雪の中で倒れてる君を見つけた。一面の白に反射した光が照らしている黒髪の輝きには思わずうっとりさせられたよ。けど君の頬が青白くなっているのを見て、自分が普段お忍びで狩りに出かける時に休憩所として使っている小屋に、急いで向かったというわけさ。それで君がシルヴィアだと知った時は驚いたよ。一目惚れってこういうことを指してるんだなと初めて実感した」
まくし立てるよう彼は話終えると、真剣な眼差しを私に向けてきた。
でもやっぱりこの人……自然にすごいこと言ってくる。
一目惚れって、え? 私に? つまりそれって告白ってことだよね……。変なとこで顔は赤くするのに、どうしてこういうことは恥ずかし気もなく言えるわけ?
うーん困ったなー。私もって言えばいいの?
彼氏がいたとはいえ、私の恋愛経験値は高くない。
よって私は、突如言われた告白とも取れる言葉にどぎまぎしていた。
「俺は君のことが好きだ──」
彼は私の頬に指を触れさせ、そっと顎へと移動させる。
くいっと顔を上げられ、彼の顔が近付いてきた。
私の唇と彼のそれとが重なる。
突然の展開に私の思考は、数秒間ぐるぐる回転していた。
とろけるような唇の感触。
高まっていく感情はすべて甘美な味となって溶けていき、深くなっていくキスに私は溺れていった。
「──ごめん」
彼は唇を離し、頬を紅潮させながら言う言葉に私は我に返った。
顔が熱い。
キスされた。
前世でも勿論キスはされたことはある。ただこのキスは違う。
どんなキスよりも深みがあって官能的だった。
「…………」
言葉が見つからなかった。謝る彼に何て言えばいいのか。
私を狂わせて、しかしそれがどこか気持ちよくて……怒るべきなのか、歓喜するべきなのか 分からなかった。
「……シルヴィア」
「……はい」
恐らく私も人のことを言えないほど、顔が真っ赤になってしまっているだろう。
恥ずかしい。
人に見せたくないあまり私は地面を見た。
きちんと掃除された床は私の顔を朧気にでも写してしまう。
赤くなった自分の顔を見て更に恥ずかしくなる。
「外に出歩こう」
「…………え?」
外に出歩く!?
嫌! こんな顔、人に見せられないよ!
「嫌?」
まるで私の気持ちを丸々見ているのってくらい、彼はそこを突いてくる。
「ゃじゃない……」
「なら一緒に出歩いてもいい?」
頷くしかなかった。
「じゃあ着替えてこないといけないね。すまないが、えっと、そこの君は何て言うんだっけ?」
「ティナと申します」
「ティナね。うん、ありがと。外を出歩く件を王様に確認を取ってはもらえないだろうか? それと生憎だが俺は着替えをもってこなかった。シルヴィアも含めて、外に出歩ける衣服を用意していただけるとありがたい」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
え、ティナさんいたの!?
っていたね……。バッチリ付いてきてたもんね。
ティナさんを尻目に私ってばとんでもないことを彼とした気がする。
「二人きりになったね」
見なくても分かるほど嬉しそうに、彼は言った。
PVが1000超えててびびりました。
この作品を見て下さった方々にお礼を言わせて下さい。
ありがとうございます。