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14話:辺境伯キリク2

 昨日に投稿すると予告していたのですが、一時間ほど日付が超えてしまいました。申し訳ありません。


 手短にティナにキリクを紹介し、弟のクーが病気であること、治すには今のところ『ゲヘナの祠』にある薬草をとってくるしか方法がないこと、騎士団でも勝てるか分からないことをキリクに伝えた。

 彼はそれらを熱心に聞いていたが、


「ようするに倒せばいいんだろ魔物を」


 ティナさんが眼鏡を落とした。


 いやね。

 だから。

 話聞いてた?


 落とした眼鏡を拾ったティナさんがぶった切る。


「一人では無理です。村を壊滅させるぐらいの力の持ち主であられますかキリク様は」

「ああそうだとも」


 す、すごいですね。


「この前は木を切ったぞ」

「木を切ったぐらいでよくその自信が湧いてきますね」

「え、普通にすごいだろ? 太さがこれぐらいの木をな」


 と言って、両手で大きな輪っかをつくる。

 うん普通ぐらい。


「ティナさんちょっと来て」

「なんでしょう」

「ずるい俺にも聞かせて」

「女同士で話がしたいの」


 彼の追従を制し、私達は書庫室から出た。


「ねぇキリクって……」

「相当頭が足りていないようですね。もしくは理想家か。私は両方だと思いますけど」

「ティナ……貴方結構きついこと言うのね」

「前からです」

「で、結局『ゲヘナの祠』には……」

「行きません。行かせません」


 ティナさんの意志はどんな鉱物よりかも固かった。


「少し外に涼みに行ってもいい? 独りにしてほしいの。キリクには上手く説明しておいて」


 返答を聞く前に私はその場から立ち去った。

 すぐにティナさんの声が聞こえなくなったので諦めたのだろう。




◇◇◇




 城内には公爵の家が数多くある。その家の持つ権力の大きさは外壁を見れば一目瞭然というらしいが、私にはさっぱりだった。白漆喰っぽい色の外壁がそこにはある。

 私はそれを背にして、その場に座り込んだ。

 座るといっても地べたにではない。大きな切り株があったのでそこへ。勿論雪がかかっているから払った。

 切り株は当然湿っていたので、お尻が冷たい。

 あとで怒られそうだが、今は気にならなかった。

 乾いた風が吹き、私の黒髪をたなびかせる。息を吸う。雪で熟成された土壌のにおいが鼻梁(びりょう)を突き抜けた。

 今日は良い天気である。雲間からは青い空が顔をのぞかせていた。

 普段の私なら晴れてるとなるが、今日はどうも違うらしい。

 雲にぽっかりと穴でもあいていると見えてしまう。 


「このまま進展がないのが続くのはだめだよなぁ」


 助走期間なんだからと怒鳴り散らすくせに存在が社会に与える影響力はゼロに等しいあれと一緒になってしまう。

 毎晩ブルーライトがんがんに放出しているパソコンの画面と向き合い続け、それだけで、他は全く何もしようとしない。ただ過ぎる日だけを感じ、気付いた時には絶望しているあれだ。


 それだけは避けたい。

 おそらくはクーが死んでも今後の物語にはなんら影響ない。寧ろ元あったルートをたどっているだけだ。別に見殺しにしてもいいじゃない。




 クーの顔が浮かんだ。

 天使のするそれとよく似ている。

 彼から流れる空気は傷んだ心を治すそんな力がある。近くにいるだけで嬉しくなる。

 思い出して間もないけど大事な大事な弟。

 死なせるわけにはいかない。




「あれシルヴィア?」


 声。

 変声期を迎えていない子供の声。

 身体全体を後ろに傾けると、壁から顔を覗かせているレイボルトがいた。


「レイボルト!!」


 無意識だった。反射だった。こんなに声出るんだっていうぐらいの叫びだった。もちろんレイボルトも驚いたようで、彼は肩を揺らした。


「シルヴィアやけに……うれしそうだね」

「早く降りてきてよ!」

「分かった!」


 胸が高鳴る。レイボルトに再会出来た。


「ぼくやっぱりシルヴィアのことだいすき!」


 何の引け目も(てら)いもなく、レイボルトは好意をぶつけてくる。

 その度に居心地が悪くなるような。手足に落ち着きがなくなるような気がする。臆面もなくぐいぐいこちらに来るもんだからこっちもその勢いに圧倒されてしまう。

 それでもやっぱりレイボルトに再会できたのは嬉しかった。


 私は微妙な表情を浮かべる。

 しかし、彼はとても嬉しそうに私へ寄ってきた。触れていないのに伝わってくる熱が互いの温度を行き()じらせて、曖昧にしていく。

 その曖昧さが心の中のコップを満たして。

 なのに決壊できないまま、表面張力の許す限りの力で、この張り裂けそうな胸を支えていた。

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