ドローグ
さて、あいつらどんな武器を選ぶかな?
まあ、この学校に来るのは、ある程度は武技をやってる奴ばっかりだからな、Dクラスでも殆どの奴が己が使う武器位決めてると思うが。
武器決めた奴は掛かってくるよう言ったが誰も来ねえ。
最近の子供は覇気がねえなぁ。
「お願いします」
誰も自ら名乗り出ないようならこっちから誰か指名するかと思ってた所に、一人の生徒が名乗り出る。
あれはフィリアか、ちょっと話題に上がってたな。
先ず珍しい悪魔族、この学校に今居るのは二人だけの筈だ。
そしてもう一人が三年の学年トップのファリオール、フィリアの兄だ。
そんな兄を持つ妹がDクラスの落ちこぼれ、話題にも上がるだろう。
確か武技試験の成績は悪かったと思うが、武器は何を使うのか……って武器持ってねえじゃねえか。
「武器はどうした?」
あっ、という顔をしたフィリアは手に持っていた使い魔から長い以外は何の変哲も無い布を取り出した。
使い魔の能力にも驚いたが、
「布?布技か、珍しいな」
布技なんてまだ教えてる奴が居んのか?
俺も話に聞いた事はあるが、使い手を見るのは初めてだ。
フィリアが使い手と言える奴かはまだわからねえが。
「先生、魔法の使用はありですか?」
「魔法は無しだ、武技だけで戦う」
そういやあ言うの忘れてたわ。
「他の者は見学しつつ次の者を決めて置けよ。よし良いぞ、掛かって来い」
開始の合図と共に構えを取るフィリア。
だが、あれは構えって言っていいもんなのか?
両腕に布の端が巻きついて、その間はフィリアの後ろに円を描く様にたなびいている。
布技の構えは随分珍妙なんだな。
そのまま様子見していると、フィリアが右腕の先で布を巻き付け始めた。
そしてそれは直ぐに完成する。それは捩れた『槍』。
元々は布なんだが、出来て直ぐに突き出されたその槍を脅威に思った俺はその進路上に戦鎚を置き盾とする。
生身で受ければ危なそうだが、戦鎚で防いでなお危険があるとは思えない。
布の槍がどの程度の威力なのか測ろうと思っていたら、その槍は戦鎚に当たると同時に解けた。
何の衝撃も無いその槍に拍子抜けしていたら、気付くと戦鎚に布が巻き付いていた。
「なっ」
何!?くっ、解けん!
そのまま戦鎚を絡め取られそうになり、慌てて俺は戦鎚を持つ手に力を込める。
が、その込めた力に対抗する力は無く、自分で込めた力で体勢を崩しちまった。
気付くと、フィリアは俺の真上に居て、いつの間にか布は戦鎚から外され、フィリアの手にはさっきの槍が。
無理な体勢ながら咄嗟に戦鎚を振り回して槍を打ち払おうとするが、戦鎚が触れる瞬間またもや槍は解け、手応えが殆ど無い。
ただ、戦鎚に布の端を巻き込めたようで、そのまま思いっきり力を込める。
それにより俺は無様に転ぶ羽目になったが、フィリアは布ごと飛ばされていた。
直ぐに俺は立ち上がり体勢を立て直し確認すると、フィリアは見事に着地している。
これは、もういいだろう。一年レベルの力じゃない。
俺は試験に関わって無かったが、試験官はどんな節穴だったんだ?
「ここまでだ。フィリアの力は良くわかった」
本気出さねえと、力を測るなんて出来そうに無いし、他の生徒も居るしな。
「じゃあ、次の奴……ん?まだ決めてないのか?」
ああ、さっきの模擬戦が高度過ぎて怖気付いてんのか。
仕方ねえ、誰かこっちから選ぶか。
「じゃあ、アルト、お前は武器を決めたか?」
「えっ!?は、はい、一応剣で行こうかと」
「よし、じゃあ、掛かって来い」
「えぇ……はい、わかりました」
心配するな、あんなのはまだ入ったばっかりの新入生には求めねえよ。
ちゃんと教師として手加減して指導してやる。
ふん、力も技も未熟だが、素質はあるな。
新入生としてなら充分な腕だろう。
セツナか、まあ例外を除けば、武技ではクラス一の腕だな。
「よし、ここまで。お前は目と思考が追いついていないな、速さを身上とするなら必須だぞ。力も技も未熟だが、先ずはそっちを重点的に鍛える事だな」
「はい、ありがとうございました」
こいつは駄目だ。武技に適正が無い。
杖を選んだようだが、まあ基本魔法のみの魔術師だな。
武技実技の時は何をさせるか……
「お前は、武技以前の問題だな。取り敢えず体力を作れ」
「はあ、はあ……はい……はあ、はあ……」
ん?こいつはこんなの扱えんのか?
自分の身体より大きい剣を持って出て来た生徒に疑問を持つ。
ロロか、そういやあ、昨日の武技適正の時も振り回してたか……ただ遊んでたんだと思ってたが、自分の武器に選ぶとはな。
巨大な武器を扱う技を持ってる奴も世界には幾らか居るが、ただこいつの種族総じて不器用なんだよな。
振れるだけの力はあるみたいだが、使う技を身に着けられんのか?
「よし、掛かって来い」
「んっ!」
真っ向から直進してきて、大剣を振り下ろしてくる。
先ずは力を見せて貰うか。
ぐっ、これはきついな。
素の力のみなら俺に匹敵するかも知れん。大剣の重さも加わって、真っ向から防ぐのは厳しい。
そこで斜めに受け流してみる。
すると大剣はそのまま地面に突き刺さり、その程度でロロは体勢を崩す。
今ロロは思いっきり無防備だが、大剣を地面から抜き構えなおすまで待ってやる。
次は大剣を横に薙ぎ払って来た。
今度は受け止める事はせず、後ろに退がって大剣を避ける。
ロロは振り回した大剣に振り回され、酔っ払いの様にふらつく。
……もう見る所は無いと判断した俺は、そんなロロに戦鎚を突き付け終了を告げる。
「ここまで。……あー、お前は、その武器のままで行くのか?」
「んっ」
強く頷くロロに溜息が出る。
「はあ……やめといた方が良いぞ。そうだな、小斧や俺が持ってる様な戦鎚と盾を持つのはどうだ?」
「むー!むー!」
何度も首を横に振り否定するロロに今は諦める事にした。
「そうか、仕方無いな、それなら大剣で申請しておく。それを使いこなすつもりなら重心に気を配れ。安定して剣が振れないんじゃ話にならん」
「んっ!」
「……武器の変更はいつでも受け付けてるからな。無理だと思ったら言えよ」
「むー!」




