出会いの終わり
テンポを重視したため描写不足かもしれません
「僕は君をその名前で呼べない」
「…………なん、で?」
……そんな悲しげ顔をしないでくれよ。
僕たちはまだ対面してから二時間も経ってないっていうのに。
心が揺らぎそうになる。でも言わないと。言わなきゃ彼女を後で苦しめるだけだから。
「……僕はこの国のみんなから嫌われている。髪の色や名前なんかもそうだしなにより大きいのは君がその胸に抱いているルーンだ。僕がルーンといること。つまりカラスを使い魔にしているという事実。それがある限り僕は嫌われ続ける」
「……それがどうした、の? 私はそんなの知らない、し、あなたを嫌いになる理由にはならない、わ」
「ッ! そ、そう言ってくれるのは嬉しいよ。そんなことを言ってくれたのは今まで会ってきた人の中に片手で数えられるほどしかいない。でも、だからこそ君を傷つけるわけにはいかないんだ!」
「……どういう、こと?」
「言ったよね? カラスに近づく者は呪われるとこの国ではいわれているんだって。そして呪いを受けた者は呪いを移すとされている。つまり、呪いを受けたとみなされた者も嫌われるんだ。僕は僕の名前のおかげで直接的な危害は受けないけれど、君は本当に危険なんだ! 僕は、僕のことを嫌わないでくれる君を傷つけたくない!!」
僕は泣いていた。それはそれはみっともなく。
もう彼女の顔も見ることもできずに俯いて嗚咽を漏らす。
少しの間そうしていると突然、身体がぎゅっと暖かく締め付けられた。顔を上げて状況を確認すると彼女が僕のことを抱きしめているんだとわかった。
「……辛かった、ね?」
「……え?」
「……君の名前に、どういう意味があるのかは、また今度聞くけど、それでもずっと苦しかったよ、ね? 一人ぼっちで、誰にも頼れなくて」
彼女の暖かな声と体温が胸に刺さった氷を溶かす。
僕はもう言葉を発することができない。みじめに涙を流しながら頷くだけだ。
「……私は、君に命を救われたんだよ、ね? 私に、君の苦しみを肩代わりすることはできない、けれど。君と同じ苦しみを受けて、一緒に生きることはできる、から。君に救われた命を、君に使わせ、て?」
クソッ! 僕が行き倒れてた彼女を助けた話をした時から彼女考えていたのはこんなことだったのか!
唇を血が出るくらいに噛み締める。僕のために命を使う。そんなことをさせるわけにはいかな……い……
本当に僕はそう思ってるの?
僕は……僕は……
服の袖で涙を拭い、彼女のための言葉を必死に紡ぐ。
「君は僕といれば色んな人に暴言を吐かれるかもしれない」
「……大丈夫、そんなもの慣れる」
「暴力を受けるかもしれない」
「……大丈夫、それも慣れる」
躊躇いのない彼女の言葉に少しずつ心の扉が開いていく。
そしてつい――こんなことを口走ってしまった。
「僕は……僕は君を守れないかもしれない。僕は弱いから。強くなれないから。そんな僕でも一緒にいられるの?」
「……なら、私が強くなるから。 私も君も守れるくらいに強くなるから。 だから、ずっと一緒にいさせ、て?」
もう無理だった。ダムが決壊したかのように涙が溢れだす。目の前の初めてできたのかもしれない仲間を強く抱きしめる。前言撤回だ。
「僕も君を守る。なにがあっても、この命にかえてでも君を守ってみせることを誓おう」
――ルーンは最初からこうなるのが分かっていたかのように彼女の肩に乗って流れた僕の涙をつついていた。
「……セツナ・ウキヨエ。セツって呼ん、で?」
「レイヴ・ユイスハイトだ。レイと呼んでくれ」
遅すぎる自己紹介を終える。
そして僕らのこれからが始まる。
「そういえばまず言いたいことがあるんだけど」
「……奇遇、ね? 私も、よ?」
「まあ言うこと同じだろうし一緒に言うか」
「セツ、僕を――」
「レイ、私を――」
「救ってくれてありがとう」
誤字脱字、アドバイス等あればお願いします