行き倒れさん
「さて、行き倒れさんを担いで商店通りを出たはいいけど……」
正直助けると決めたもののその後どうするべきかは全く考えてなかったな。どうしようか……
とりあえず宿に行って身体を洗うのと水を飲ませるのが一番かな。
僕の部屋でもいいんだけど寮に上がらせるのはやっぱダメだよな。主に寮長と僕のイメージ的な面で。嫌われることは慣れてるけどだからってさらに嫌われようとするほど僕はマゾヒストではない。寮長は単に怖い。
宿か……お金大丈夫かな?
まあいいや、忙がなきゃ!
「二人分一部屋ね! 」
ボロ布を担いでいる僕を見て宿屋の主人はあからさまに嫌そうな顔をしたけどそんなことどうでもいいか。僕はお金を渡して鍵を貰い、部屋に直行する。
僕は部屋に入ると鍵を閉め、行き倒れさんのボロ布のような外套を脱がせてベッドに寝かせた。
行き倒れさんの顔は泥だらけで正直よく息ができてたなってくらいの有様だった。髪も普通に短いってことしかよくわからないし。
これじゃあ水も飲ませられないな。拭くか。
小さなバケツと布を持ってきてバケツを指差し、水の言を綴る。
『水よ、溜まれ』
青い光がバケツの底に現れたかと思うとそこを起点に水が溢れてきた。
それに布を漬けて僕は行き倒れさんの顔と髪を拭き始めた。
十分後。
まだ少し汚い部分はあるけどだいたいは拭き終わった。
行き倒れさんは女の子だった。それもかなり美少女っぽい。珍しい純粋な黒髪に長いまつ毛、ふっくらとした唇。
とはいえ行き倒れさんが女だということは予想はしていた。かなり軽かったわりには飢餓というわけではない体型だし。
ただ……胸のふくらみを全く感じないことから男なのかもしれないと思ってたんだけど……まあ、うん。
そ、それより次は水を飲ませないといけないね!
グラスを持ってきてさっきと同じように水を溜めて、ゆっくりと口に流し込む。仰向けで寝てるから鼻に入っちゃうかな?と思ったけど大丈夫だ、ちゃんと嚥下してる。
このかんじだと意識の覚醒ももうすぐなのかもしれないな。
そうしたらお別れかな……
僕は少しだけ胸の痛みを感じながらもその時まではしっかり面倒を見ようと椅子を側にもってきて座り、行き倒れさんが目を開けるまで待つ。
もう窓には夕焼けが差し込み、寮の門限に間に合わないかもしれないな……と寮長の怒った顔を思い浮かべながらじっと座っていると、やはり今日は特別な一日だったのだろう。迷宮での疲れと介護した疲れによって睡魔が大軍勢で襲ってくる。
「あ、これは勝てないや。はは……
ルーン、行き倒れさん、には、見つか、らない、で、ね……」
窓辺でうずくまっているルーンにかろうじて呟いて、
僕の意識はまどろみの中へ落ちていった……
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