表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

朝のレストラン

『五時にオリオンの前で会おう』


 あたしはメールをのぞいて、携帯を胸ポケットにしまう。

 早朝五時。澄んだ空気と朝日が冷たかった。


 ――こんなに急がなくってもいいのに。


 けやき通りにあるレストランの前で、あたしは静かにたたずむ。

 そろそろ夏やすみ。今日は期末試験の最終日だ。

 夏やすみにはどこに行こう?

 昨日、テスト勉強をしながら、友達の男の子とメールでそんなやりとりをした。

 今年の夏に行ってみたいところを答えると、彼は、


『二人きりで?』


 と返してきた。

 文末には、冗談めかすように笑顔の絵文字が添えられていた。


 いつのまにか、つかず離れずのこんな微妙な距離感をお互いに楽しんでいた。

 もちろん、二人で水族館に行ってもかまわない。

 けれど、デートをするなら先に言って欲しい言葉がある。

 だから昨日の夜、


『二人でっていうのはどういう意味なの?』


 あいまいな関係から決別するために、決定的な言葉を促すような返信をした。


 ――五時にオリオンの前で会おう。


 さっきもながめたメールの文面を思い出す。

 ふいに、あたしの胸は高鳴った。


「しまった」


 朝の五時じゃない。これは普通に考えて夕方の話だ。


「ああ……」


 しかもただ勘違いしてただけなら良かったのだけれど、ついさっき彼に『なにしてるー?』とメールをしてしまったところである。自分こそ朝五時になにをしているんだ。

 たった今返信がきた。メールには『まさか……』とだけ書いてある。あたしは顔に火がつく思いだった。あやつはすっかり、あたしが時間を間違えてしまったことを察している。気が急いていたのは彼ではなく、完全にこっちのほうだった。

 なんとなくくやしかったから、一生懸命切り返しを考える。そして思いついた。


『待ってるんだけど』


 逆に彼のほうが言い訳をする流れに持っていこうと思い、逆切れのメールを送ってみた。


『すぐ行く』


 彼は短い返信の後、なんと三十分たらずで身支度をして飛んできた。

 弁明をせず謝る彼。


 そうされると、なんだかいたたまれなくなってきた。


「だって、はやく言って欲しかったんだもん」


 あたしも、ここは負けるが勝ちだと判断した。


 かくして――。

 長いあいだ友だちだったあたしたちは、この日をきっかけに、恋人になったのだった。

お題・『朝のレストラン』『言い訳をする』『試験』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ