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鬼哭  作者: 一六波 奏
弐、或る暑い夏の日
7/14

/*――――――――――――――――*/

 太陽が朝から元気に照り付ける。今からがんばっていると夜まで保たないのではないだろうか。何にせよ、太陽はもう少し休むべきだ、なんて妄言を脳内で垂れる。けれど炎天下で全力疾走する羽目になっているんだ、少しくらい現実逃避したっていいじゃないか。


 すれ違った鬼狩が、貌に気付いて挨拶してくるのを受けつつ、道を走る。朝ごはんのオニギリを口にしながら、細い角を曲がった瞬間、何かとぶつかった。


「うわ、ごめんなさ――」


 もしや恋愛フラグが立ったのか、と少し期待を持って顔を上げる。そして固まった。食パンじゃなくても成立するのか、なんて思った一瞬前の私を誰か殴ってくれ。


 ぶつかった相手は、鬼だった。襤褸(ぼろ)を着た醜悪な顔を認めて、思わず顔が引き()る。貌を付けていれば、あるいはその臭いで分かっただろうが。よし、逃げよう。一瞬で辿り着いた答えは、相手がぶち壊しやがった。


 血走った金の目が、私を見た。咆哮。(とどろ)いた騒音と同時に、私は刀を抜く。


「ああ、もう――」


 この辺りの担当の鬼狩は何をやっているんだ。通学路だぞ、ここは。左手を添え、刀を振り上げる。不満をぶちまけるように、力いっぱい、鬼に刀を突き立てた。瞬間、放たれた雷撃。刀が発する雷に、鬼は為す(すべ)なく()かれる。タンパク質を焼く嫌な臭いに、一瞬だけ顔を歪めた。刀を引き抜けば、巨体はどうっと倒れ伏す。動き出さないのを確認して、ケータイで鬼狩専用の番号に1コール分だけ通信を入れた。あとは将太郎が何とかしてくれることだろう。


 ケータイの時計を見る。あと5分。


「雷閃」


 喚べば必ず来る影。巨大な白虎の頭を撫で、彼に跨る。私の意思を解した彼は、すぐさま走り出した。


《さて、土行の小僧は我を使うなと言っておったが》

「仕事以外では、ね。でも、今、鬼と遭遇したから。まだ居るかもしれないから、目的地に辿り着くまで巡回もする。ほら、仕事中だ」


 屁理屈を、と雷閃が鼻で嗤う。屁理屈でもなんでもいいさ、とにかく遅刻さえしなければ。雷閃を喚び出した時点でいい顔はしないだろうが、遅刻すればそれこそ罰は免れない。人を守るための仕事より、学校の方が重きを置かれているだなんて変な話ではあるが、そこは将太郎が学校というものに一種のコンプレックスを抱いているから仕方がない。


 屋根を走ってショートカットを図る。空を飛べればもっと楽だっただろうが、生憎雷閃は翼を持たないし。もっとも、鬼狩の中で飛べるのなんて、焔煌の力を使える炯と、あともう1人くらいしかいない。けー兄は脚に捕まって飛んでるから落ちそうで怖いんだよなあ、なんて思っていたら、学校が見えてきた。


 校門を通ったと同時に、非情にも始業のチャイムが鳴る。このチャイムが鳴り終わる前に教室に入らないと、遅刻扱いだ。教室は目の前にあるが、ここの校舎はちょっと特殊な構造なものだから、昇降口が奥まったところにある。そっちまで行っていたら確実にチャイム内には教室までたどり着けない。


《さて、どうする?》

「突撃ッ!」


 丁度、窓の外を見ていた夕夏と目があった。窓を開けてくれとジェスチャーでお願いする。慌てて指示に従った夕夏を見つつ、貌を付けた。無駄遣いをする、と雷閃が言った気がしたが、こっちは必死なんだ。


 チャイムの3フレーズ目が終わる。その瞬間、雷閃が大きく跳躍した。その背を蹴って、夕夏が開けた窓に飛び込む。くるりと一回転を決め、教室に着地。と同時にチャイムの最後の音が鳴った。周りから、おー、と感嘆の声が上がる。言っておくが、見世物じゃないんだぞ、大道芸じみたことをしてるけど。


「ギリッギリ、セーフ」

「残念、黎音。アウト、かな」


 苦笑する夕夏の先、教室の入り口に、担任が立っていた。ぶるぶると身体を震わせて、怒り心頭のご様子。ええと、これはマズい。


「あー、先生、おはようございます!」


 朝は元気な挨拶を! がこの学校のスローガンだから、それに従ってみたはいいが、どうやら逆効果だったらしい。火山が噴火した。


「雨野ッ!」


 怒鳴り声が響く。クラスメイトは我関せずを貫いて、雑談を始めた。くどくどと長ったらしいご高説を聞き流しつつ、夕夏に助けを求めるが、別の友達と話しているし。親友を見捨てるのか、薄情者。


「雨野、聞いているのか!」

「聞いてます聞いてますー」


 まったく、窓を蹴破るのはやめたんだ、前よりはマシだろうが。

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