ユリウス 副章Ⅱ
宮廷騎士団長ユリウスがその場に辿り着いた時、血の海があった。
おそらくは人間であったであろうものは既に原型を留めず、ただ、肉の破片のようなものへと姿を変え、乾いた赤黒い塗料が街の景観を損ねている。
「ラミエル」
「はいっ」
「清掃員を増員して直ぐに片付けさせて」
「はい」
汚い。醜い。
彼が考えるのはただそれだけ。
「陛下がこの様子をご覧になられたらさぞ悲しまれるだろう」
「どうしてですか?」
「君はそんなことも分からないのかい? 美しい街並みがこんなに醜いもので汚されたからに決まっているだろう」
血はなかなか落ちないんだと彼は言う。
「裏路地でやればいいものを何でこんな目立つ場所で……」
彼は深い溜息を吐いた。
「にしても、一体どんな武器を使ったんでしょうね」
「さぁね。どうせ魔術師か何かの仕業だろう? 人間の仕業じゃない。みてよ。力で無理やり潰したみたいだ」
ジルは興味なさそうに足元の塊を指す。
「犯人はもう居ない。無駄足か。さっさと片付けないと、明日は陛下が視察にここを通られる。ラミエル、血痕一つ残さず綺麗に片付けてよね」
「はいっ! 任せてくださいっ!」
ラミエルは元気良く返事をする。
この言葉に偽りは無い。彼はこの国の誰より「掃除」が得意だ。それこそこの場所で何事も無かったかのように綺麗に片付けてくれることだろう。
ジルは退屈そうに空を見上げた。
「騒がしい」
サーカスの派手な音楽は既に聞こえない。
代わりに人々の悲鳴のようなものが響いている。
「うるさいよ」
犯人を捜さないと。
けれども手がかりは無い。
「厄介だよ。詐欺師風情が」
あの男の仕業に違いない。
証拠こそ無いにせよ、彼には確かな確信があった。
ラミエルは不思議そうに上司を見つめる。
「何?」
「い、いえ」
「急ぎなよ」
「はい。直ぐに」
急かされ、直ぐに仕事に取り掛かる部下を、ジルは退屈そうに眺め、大きな欠伸をした。