アラストル 間章 Ⅲ
王宮もまた騒がしかった。
「おい、何が起こってる」
「黙れ、ここから先は立ち入り禁止だ」
白い女。番犬が門の前で吼える。
「カァーネ、こいつだけでも無事なところに避難させたい」
「馬鹿者。我々宮廷騎士は陛下こそが最優先だ。今この混乱の中、一般市民を王宮に入れることになれば混乱に乗じて悪事を働くものが出るだろう」
女は吼えるようにいう。本当に犬のようだ。
「お前、強いか?」
「貴様に負けるほど弱くは無いつもりだ」
「なら、こいつを預かってくれ。様子を見てくる」
アラストルは玻璃を指してそう言った。
「どういうつもりだ?」
「広間で爆発があった」
「貴様が行く必要は無い。既に宮廷のものが様子を見に行った」
「……そうか。なら、騒ぎが止むまでここに居させてくれ」
「門前に立つな。通りの北に居ろ。其処までは爆発も届きはしないはずだ」
「ああ」
番犬、ミカエラ・カァーネは探るようにアラストルと玻璃を見た。
「アラストル、この人だれ?」
「カァーネだ。宮廷看守長だが、宮廷の誰よりも王に忠実で外敵を見つけ出すことに優れている。まさに番犬だ」
「番犬……ビアンコ!」
「そう、呼ばれることもある。ほら、子供は早く避難しろ」
「子供じゃない!」
玻璃はアラストルの後ろからそう叫んだが、アラストルは彼女をつまみあげるように抱え込んで北側へ進んだ。
宮廷のものが安全といったからといって安全とは限らない。
だが、門前が危険になることは確かに理解できた。
「玻璃、大人しくしてくれ」
「うん」
玻璃は不満そうではあるものの大人しく頷く。
アラストルはただ、遠くを見渡し、それから深い溜息を吐いて、瞳を閉じた。