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アラストル 間章Ⅱ




 目の前には巨大な獣が堂々とした様子で歩いている。

 ライガーというその獣は、玻璃の視線を釘付けにして離さない。

「ねぇ、後で触らせてもらえるかな?」

「……食われるぞ?」

 アラストルは溜息を吐いた。

 もう何度目になるか分からない溜息を。

 玻璃に付き合ってサーカス見物に来たものの、この人混みの中にスリや誘拐犯や暗殺者がうじゃうじゃしていると思うと心底うんざりした。

 先ほどから執拗に玻璃に卑しい視線を送っていた男はすれ違いざまに気絶させておいたし、財布を狙ってきたガキには拳骨を食らわせた。

 それでも玻璃は気付かないようでただ目の前の獣に目を輝かせている。

「浮かれすぎだ」

「サーカスは浮かれるためにあるんだよ」

 玻璃の言葉は尤ものように聞こえるが、このクレッシェンテにおいてはそうであってはいけない。

「もう少し警戒しろ。俺たちは一応狙われる側の人間だ」

「大丈夫。私半化けだから」

「そういう問題じゃねぇ」

 その中途半端に丈夫な体が油断を生み出してるんだろと彼は玻璃の頭を軽く小突いた。

「痛い」

「痛覚は存在するんだろ? 永久拷問なんてことになりかねないぞ」

「それは嫌」

「だったらもう少し警戒しろ」

 アラストルはもう一度辺りを見回す。そこら中に嫌な気配がある。

 どうも悪い予感がする。

 これは長年剣士として戦ってきた己の最も信頼できる直感が告げるものだった。

「玻璃、帰るぞ」

「嫌。折角来たのに」

「もう十分だろ。それより何か起こる前に帰るぞ」

「何かって?」

「さぁな」

 酷く嫌な予感がすることだけは確かだ。不穏な気配がある。

 アラストルは玻璃の手を引いて歩き出す。

「嫌」

「早くここを離れるぞ。何か居る」

「え?」

「嫌な臭いがするんだよ」

 アラストルは鼻をひくひくと動かしながら言う。

「……火薬の臭いだ。出来るだけ離れるぞ」

 アラストルは無理やり引きずるように玻璃の手を引き、走り出す。

 向かうは王宮。

 クレッシェンテで一番危険で、一番安全な場所であった。



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