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7話

ファミレスに入った3人はメニュー表を開きながら、何を食べるか悩んでいた。


「まさか美怜が奢ってくれるなんて。」


「まあたまには。いいよ、何でも食べて下さい。」


「だって美琴。良かったね。」


美琴は無表情のまま、メニューを凝視してる。


「美琴、好きなの選びなよ?お姉ちゃんに任せな。」


「⋯。」


美怜は美琴と外で外食するのは数年ぶりだった。あの事件以降、一緒に外出する事はあったが、外食する事はほとんど無かった。久し振りの交流に、美怜は何だか嬉しくなった。


「じゃあお母さんはこれで。」


「美琴は決まった?」


「⋯これ。」


美琴はグランドメニューのハンバーグセットを指差した。


「これでいいの?もっと豪華なハンバーグにしなよ。ほら、これとか。ステーキも付いてくるやつ。ハンバーグもチーズイン。」


「美琴、こんなに食べれるの?」


「⋯。」


「食べれるでしょ?金額は気にしなくていいから!うん⋯大丈夫だから⋯。」


「じゃあ⋯これ⋯。」


「よし!じゃあ私も美琴と同じのにしよ。お母さんはいいの?」


「私はあなた達と胃袋がもう違うの。美琴、大丈夫なの本当に?」


舞子が嬉しそうに美琴に尋ねる。美琴は静かに頷いた。その姿を見て、美怜は意気揚々にコールボタンを押した。




美琴が無我夢中でハンバーグを食べ進める。想像以上の食い付きに、2人は驚いていた。


「美琴、お姉ちゃんのハンバーグもちょっと上げようか?」


「⋯大丈夫。」


「美琴、お腹空いてたのね。」


「私は逆にお腹一杯になってきた。美琴、むしろ貰ってくれない?」


「⋯いいの?」


「いいよ。食べて食べて。」


美怜はプレートごと美琴の方に差し出した。美琴は恥ずかしそうにしながらも、ひたすらに食べ進めた。その姿を見て舞子は、本当に嬉しくなった。


「今度家でもハンバーグしようか。ね?美琴。」


美琴は口いっぱいに頬張りながら頷いた。




「あの。」


3人の座るテーブルの前に、1人の女性がやって来た。


「はい、何でしょう?」


舞子が顔を見上げ、反応する。40〜50代くらいのその女性は僅かだが微笑んでいた。


「安田さん⋯ですよね⋯?美琴さん⋯ですよね?」


彼女は美琴をじっと見ていた。


「良いですね。家族でご飯を食べられて。」


美怜と舞子は嫌な予感がした。美琴も食事の手を止めた。


「美琴さん、うちの子は何処にいるんですか?いい加減に教えて下さいよ。」


「すみません、困ります。」


舞子が声を掛ける。


「美琴さんに聞いてるんです。何処にいるの?知ってるんでしょう?」


徐々に女性の声が大きくなっていく。


「覚えてないわけないじゃない!?ねえ!?」


声の大きさに、周りの注目が集まってくる。美怜も思わず声を上げた。


「止めて下さい。」


「何で!?質問してるだけじゃないですか。」


騒ぎを聞きつけ、男性従業員が駆け付けた。


「お客様、どうかされましたか?」


「何でもないです。質問してるだけです。その奥の席に座っている方に。」


女性が美琴を睨み付ける。


「もう帰ろう。いい美琴?」


美琴は無反応であったが、舞子は彼女の手を引いて立ち上がった。美怜も伝票を取り、2人に続いた。レジに向かって歩き出した3人だったが、その女性はピッタリと後ろを付いて来た。美琴に話し掛けながら。


「教えて下さい!何処にいるんですか娘は!知ってるんでしょう!?何があったの!?ねえ!ねえ!」


「お会計をお願いします。」


美怜が伝票をレジにいた従業員に差し出した。


「答えて!答えてよ!何で⋯何であなただけ⋯!」


「いい加減にして下さい!」


舞子が遂に声を荒げた。


「うちの子に非はありません!この子だって⋯どれだけ苦しんでいるか⋯!あなた分からないでしょう!?」


その女性は涙を浮かべながら、舞子を睨んだ。


「会計終わったよ。行こう。」


美怜がそう言うと、舞子は軽く会釈をし、3人は早足で店を出た。




家に向かう車内は無言の空間となっていた。空気に耐え兼ねた美怜は、美琴に声を掛けた。


「気にしなくていいからね、美琴。美琴は何も悪くないんだから。」


「⋯。」


「そうよ、美琴。お姉ちゃんの言う通り。」


「⋯。」


車が家に近付くと、家の前に誰かが立っているのが見えた。


「美怜、お母さん車停めるから。悪いんだけど、話聞いてきてくれる?気を付けてね。」


「⋯分かった。」


美怜は1人車を出て、立っていた男性に話し掛けた。


「何かご用ですか?」


「すみません、安田美琴さんのご自宅でお間違いないですよね?」


「⋯ですから、ご要件は何でしょう?」


「私、フリージャーナリストの松下和之と申します。10年前に起こった光星小学校児童集団失踪事件の件を取材してまして。良ければ、安田美琴さんにお話しをお伺いしたいのですが。」


「お断りします。お帰り下さい。」


「事件から今日で丁度10年です。美琴さんは何も覚えていないという事でしたが、何か思い出されましたか?」


「お帰り下さい。」


駐車が終わり、舞子と美琴が車から出てきた。すぐに2人は玄関に向かった。松下はすぐに美琴の存在に気が付いた。


「美琴さん待って下さい。失踪事件から10年です。何か思い出されましたか?どうです?」


「困ります!失礼じゃないですか!」


美怜が松下を制した。


「お姉さん。自分の子供が帰らない親御さんの気持ちが分かりますか?もし美琴さんが覚えていないのではなく、話したくないだけだったらどうです?黙ったままなんて、あなた許せますか?」


「妹は何も覚えていないんです。お帰り下さい。」


舞子と美琴は家の中に入った。


「この失踪事件をこのままにしてはいけない。私はそう思ってるんです。」


松下は名刺を取り出し、美怜にそれを差し出した。


「何か美琴さんが話されたら、ご連絡頂けませんか?私は悪人ではありません。」


「名刺なんて入りません。お帰り下さい。」


美怜も玄関へと向かい、すぐに家に入り、鍵を閉めた。玄関には舞子が立っていた。


「大丈夫?」


「大丈夫。気にしなくてていいよ、あんな人。」


「今日は、外に出るべきじゃ無かったかもね。」


「⋯美琴は大丈夫?」


「大丈夫、リビングにいる。」


「そう⋯。」


美怜は拳を強く握り締めた。

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