52話
光星がゆっくりと美琴に近付いてきた。長い手を伸ばし、美琴に触れようとする。しかし美琴は恐怖から動けず、何も出来ない。
「そっか⋯。」
美琴が呟いた。
「みんな、ずっとこんな所にいたんだね?私がもっと早くみんなの事を思い出していれば。」
光星が美琴に伸ばしかけた手を止めた。
「ごめんなさい。私、怖くて、何も⋯何も思い出せなくて⋯10年も経ってしまった。みんな10年もこんな所で⋯本当にごめんなさい。」
光星の異変に高島は気付いた。
「光星。何してる。」
光星はまじまじと美琴の事を見つめているようだった。
「あの時、私はみんなと一緒になるはずだったんだね?それなのに私だけ⋯ごめんなさい⋯ごめんなさい。許して下さい⋯。」
「光星!」
高島が叫ぶと、光星が高島の事を見た。
「パパの言う事を聞けないのか?せっかく用意したのに。」
「パパ。」
「そうだ。もう少しすれば、お前はここから出られるようになるんだ。だからその子を食え。もう食べてしまえ。」
「パパ。」
光星はまたゆっくりと美琴に近付き始めた。
「⋯ごめんなさい。」
美琴が呟いた次の瞬間だった。
「美琴⋯ちゃん?」
光星が美琴の名前を呼んだ。そして真っすぐ立つと、体を痙攣させ始めた。
「光星⋯?」
高島が驚いていると、光星が彼に飛び付いた。高島は3メートル程吹き飛ばされた。そして光星は彼に近付き体によじ登ると、体をむしゃむしゃと食い始めた。血しぶきが部屋に飛び散る。
「この⋯馬鹿息子が⋯。」
高島が血反吐を吐きながら捨てゼリフを吐く。
「これだから、子供は、嫌いなんだ。」
そう言うと高島はこと切れた。
美琴は立ち上がり、光星が高島を食らいつくす様を見届けた。全ての元凶が見るも無残に肉塊へと化し、そして消えていく。あまりにも残酷な光景なのに、美琴はその光景を最後まで見続けた。
高島は文字通り、いなくなった。
美琴と光星は互いをじっと見つめ合った。
「私には、みんなをどうしてあげることも出来ない。ごめんなさい。」
美琴がそう言うと、光星は窓を開け、庭に出た。そして大きく跳躍し、何処かへと消え去った。
美怜は家で1人、ただ彼女の事を待っていた。
玄関のドアが開く音が聞こえる。
リビングに誰かが入ってきた。
「ただいま、お姉ちゃん。」
美怜は美琴に駆け寄り、優しく抱き締めた。美琴も同じ様に美怜の事を優しく抱き締めた。
「みんなの事を見つけた。でも、どうしてあげることも出来なかった。」
「そっか。」
「ごめんなさい⋯ごめんなさい⋯。」
美琴が美怜の肩で泣いた。美怜はただ静かに、優しく美琴の頭を撫で続けた。




